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(2)京都バージョン |
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総司と歳三、二人仲良く風呂に入っていた。 新撰組の屯所の風呂は大きくて、一度に十数人は入れるほどだ。 けれど、総司といちゃいちゃいながら風呂に入りたい歳三は、時間をずらして誰も居ない時間を見計らって、総司を誘って入るのが常だった。 しかし、時として上手くいかないこともある。 今日も、最初は誰もいず、二人っきりで入っていて、体を洗い合ったりしていたのだが、湯船に浸かって暫くしていると、どやどやと脱衣場から声が聞こえてきた。 総司にくっついていた歳三が慌てて離れると、がらりと戸が開き、隊士たちが入ってきた。 「あっ。副長に、隊長」 「済みません。お邪魔します」 二人の姿を認めた隊士たちは、口々に挨拶を寄越した。 二人っきりを邪魔された歳三は、不機嫌な表情で頷くだけである。 その不機嫌さの理由が分からない隊士たちは、しゃっちょほこばってしまい、可哀想なほどだ。 「ああ、いいよ。今から? 今日は遅いね」 その対比に苦笑しながら、総司はまず当たり障りのないことを聞いた。 「はい。実は非番だったんで、飲みに出掛けたんですよ」 「でも、ちょっと羽目を外しすぎて、べろべろになった奴が二人出ちゃいまして……」 「みなで抱えて連れ戻ってきたんで、汗びっしょりですよ」 「だから、軽く流そうと思って」 皆が口々に、弁解とも取れる言葉を紡ぐ。 「ははぁ、なるほど。そりゃ、正体なくした奴を連れてくるのは、骨が折れたろう」 総司は納得したとばかりに、相槌を打ってやった。 「冬場とはいえ、汗もかくなぁ。井戸で汗を拭うのも、寒いしな」 「ええ、そうなんですよ」 おどおどと、歳三を伺い見る隊士たちだが、歳三はそっぽを向いたままだ。 しかし、湯に入り仄かに赤みの増す歳三の項は色っぽくて、隊士たちはつい目が離せなくなってしまった。 それに気付いた総司が、自分に興味を引かすように、明るく話し掛けた。 「で、いったい何でそこまで、羽目を外したんだ?」 「えっと、それはですね……」 総司のその問い掛けに、救われたとばかりに答える隊士たちだったが、次第に話がずれていっても、総司たちは歳三をよそに盛り上がりを見せていって、一人放って置かれた歳三の機嫌はますます悪くなる。 しばらく、そのまま入っていた歳三だが、終わりそうにない話に腹を立てて、総司を残して風呂場から出て行った。 それを横目で見つつ、総司は皆の意識を反らすのに余念がなかった。 風呂に入る前に暖めていた部屋は、長湯だったので火が消えて寒々としていた。 かろうじて行灯に灯をいれ、歳三は火の消えた火鉢の前に座った。 (総司の奴! 総司の奴!!) すぐに追ってくると思っていたのに、総司はいっこうに姿を見せなかった。 (あいつは、すぐに俺を放っておく。俺の機嫌が悪いことも、先に出たことも知ってるのに……) そんなことを思っていると、だんだん悲しくなって、歳三は涙ぐみそうになる。 何もする気がなくなって、濡れ髪もちゃんと拭く気にならず、じっと火鉢の前で座っていた。 総司が歳三の部屋へとやってきたのは、それから半刻ばかり後だった。 もともと、熱い湯好きで長湯の歳三と違い、総司の風呂はカラスの行水である。 それが、湯船で話し込んだ所為で、すっかり長湯をしてしまい、のぼせ気味である。 ぽかぽかと火照って赤い顔をしつつ、歳三の部屋へと当然の如くに歩いてきたのだが、歳三の気配はあるのに、部屋が薄暗く総司は首を傾げた。 「歳さん?」 障子を開けると、灯火の消えかかっている中、歳三がぽつんとした風情で座っていた。 総司の声にぴくりと身じろいだ歳三は、涙ぐんだ眼を見られまいと、乱暴に手で目元を擦った。 その仕草に、背を向けた歳三の前に総司が回りこんで、顔を見ようとすると、歳三が顔を背けてしまう。 「歳さん」 歳三の肩に手を置けば、すっかり冷え切った歳三の体である。 良く見れば、火鉢の火は完全に消えていて、部屋も冷たい。 風呂から出て、それからこの寒い部屋で、歳三が一人でいたのかと思うと、総司は罪悪感を覚えた。 湯冷めした歳三の体を抱き締めれば、歳三はすっぽりと腕の中に納まって、ぽつりと呟いた。 「お前。本当は俺のこと、如何でもいいんだろう? せっかく、一緒に入ったのに、他の奴らと話し込んで……」 拗ねた歳三のその様を可愛いと思いながら、歳三は分かってない、と総司は思う。 歳三を隊士たちが、時折りどんな目で見ているかなど、気づきさえしていないのだろう。 もっとも、それが歳三らしくていいとも、総司は思っているが。 総司が、皆と風呂場で話し込んでいたのには、ちゃんとした理由がある。 なるべく総司は、歳三の裸を人目には晒したくないのだ。 が、風呂場では隠すのに不自然である。 だから、歳三が先に上がりやすいように、皆の意識を自分に向けていたのだが、後を追って出てこないことに歳三は腹を立てるのを通り越して、悲しくなってしまったようだ。 総司は歳三の艶々とした濡れ髪に、唇を寄せて囁いた。 「ごめん。これからは、気をつけるから」 これからは、先に上がらした歳三を追って、すぐに上がろうと総司は思った。 抱き竦めた歳三の躯に熱を灯すように、総司はゆっくりとそこここを触れてゆく。 拗ねていた歳三も、宥めるように優しく、甘く触れられると、すぐに絆されてしまう。 もともと風呂場で熱くなりかけていた躯だ。 夜着の上からそっと撫でられるだけで、熱が灯るのは早い。 「そう、じ……」 もっと、と愛撫を強請るように総司を振り向けば、口を吸われて、歳三の膝が崩れた。 その拍子に乱れた夜着の合間から、白い脚が総司の眼を射った。 それに誘われるように、手を内へと滑り込ませ撫で上げて、 「下帯、つけてないね」 手に触れた感触に、そう、耳元で総司が囁けば、歳三はかぁっと、真っ赤になってしまった。 風呂に入った後は、総司と睦み合うのが当然と歳三は思っていたから、邪魔な下帯などいつも身に着けることがない。 今日も怒りつつも、ついいつものような行動をしていたことに、総司に指摘されて気づき、歳三は慌てた。 その顔を見つつ、可愛いなぁと、総司は微笑を深くして、歳三自身を緩やかに握った。 「うっ……、あぁ……ん」 すでに緩く熱を帯び始めていたそれは、それだけで形を更に変え、総司に変化を如実に伝えた。 強弱をつけて扱かれると、自然に膝が開き、総司に凭れ掛かってゆく。 「あ……あぁ、そう……じ」 「あっためてあげるね?」 こくこくと頷く歳三を軽く抱き上げて、風呂に入る前に敷いて置いた夜具の上へ、総司はそっと下ろして、先程と同じように後ろから腕を回した。 片手は、すでに蜜を滴らせている歳三のそれを握り、空いているもう片方の手で、夜着の前で結んだ歳三の帯を解き、肩から夜着をすべり落として、湯上りの香る肌を露にした。 白い夜具の上、歳三と総司の躯が、絡み合ってゆく。 冬の夜は、まだまだ長い。 二人の熱い夜も、まだこれからだった。 |
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