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宗次郎が、歳三に抱かれるようになって、数年が経つ。 歳三から想いを告げられたのは、七夕の夜だった。 星降る七夕の夜、笹に結び付けられた短冊に、歳三の想いが書かれていたのだ。 幼い頃から歳三の後を追い、付き纏っていた宗次郎だったが、歳三の望みを知ったときは驚いた。 でも宗次郎も、歳三が大好きだったから、否やは全くなかった。 いや、むしろそれが当然と、受け止めた。 そして、その夜のうちに、二人は枕を交わした。 しかし、幼く小さかった宗次郎の体も、天然理心流に入門し、日々木刀を振ることにより鍛えられ、逞しくなった。 背丈も直に歳三を追い越そうか、というほどに伸びた。 幼い頃は随分大人に見えた歳三も、同じぐらいの目線になって、初めて等身大に見えた気がする。 それまでは歳三は大きく、とても追いつけないのではと、思っていたのだ。 でも、それは嫌だった。 守られるだけではなく、歳三の隣に並び立てるようになりたかった。 だから早く、宗次郎は大人になりたかった。 そうした思いで、一所懸命に剣の腕を磨いたのだ。 その甲斐あってか、今では誰もが一目置くまでの腕になった。 稽古の後、井戸端で皆と汗を拭いながら笑い合っている歳三を見ていると、初めて会ったときから全く変わっていないように思える。 花の顔(かんばせ)、と言っても良いような容貌である。 もともと女顔なのだろう。 幼かった宗次郎は、そんなことなど全く気が付きもしなかったが。 けれど、今は美しいと思う。 何よりも、誰よりも。 歳三は、花であった。 宗次郎にとって、何よりも美しい花である。 芳しい香りを撒き散らし、もっと艶やかに咲き誇れと思う。 宗次郎は、陽であった。 明るく眩いばかりの、陽である。 誰もがその暖かさに、心安らぐ煌きであると言う。 ならば、色鮮やかに花の彩を、見せることの出来る陽になりたい。 歳三を煌びやかに照らし、輝かせたいのだ。 九つも年が違うし、歳三の想いを受け入れた以上、抱かれることは当たり前のことだと思っていた。 それに抱かれることに、嫌だと思ったこともない。 けれど、体が大きくなって、歳三と抱き合っても、その身が手に余ることがなくなってきた今、抱かれるだけでなく、抱きたいと思ってしまう。 それは、いけないことだろうか。 歳三への冒涜だろうか。 宗次郎は、陽。 愛情を籠め、燦燦と降り注ぐ。 歳三は、花。 愛情を受け、煌煌と花開けと。 そして、いつしか手折りたい。 |
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