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3:萌え袖? 4:先生の秘密→ 

 


chapter 3: 萌え袖?

 

 

 

 「失礼しまー す……」

 


 僕が保健室の入り口で一声発した途端、ざっと女子一同が振り返ってこっちを睨んだ。
怖い。ちょう怖いこいつら。


 追っかけっていうよりホント悪魔か魔女って雰囲気出てる……黒いオーラ出てる。
 目を合わせないよう、抱えたダンボールの表だけを見て保健室の引き戸をノックした。
はいどうぞ、と返事があって戸を引くと、いきなり目の前に間仕切りがあって一歩引き下がる。
これ、視線避け? そっか……後でみんなに教えておこう。


 「あ、ごめん。さっき手当てしていて…戻すの忘れてました。大丈夫ですか?」


…奥村先生だ。
そうだ、始業式ぶりだ。
間近で先生を見るの初めてなんだ。

 

 「……あ、えと」

 先生意外と、細くない……ていうか、カーディガンの袖から…… 指だけ見えてる。
も…… 萌え袖――?

 


 え――――…… 
男で大人で、萌え…袖……

 「校長…校長先生が、これ保健室にって……中身をご確認願います、って。
えと、それであと二箱同じのが先生宛で、二階の職員室に届いてます……」

 「ありがとう、残りは僕が運びますね。重かったでしょう?」

 そう言うなり先生は僕が持っている箱の下に片手を入れて、軽々と持ち上げた。
(先生。先生それ。箱、小さいけど15キロくらい、ある……。)
先生は机に箱を置き、上面の封を慣れた手つきで裂いて、中身を見てニッと口だけで笑った。
その様子を見て僕は、何気なく呟いた。


 「医薬品じゃ…ないですよね、それ。」

 

 

 

 

chapter 4: 先生の秘密

 

 

 

 

 ピタリと先生の手が止まった。
片手を箱に添えたまま、先生は何かを確かめる目つきで、じっと僕を見つめている。
さっきまでの先生と様子が違う。


 「どうして、そう思うんですか。」


 先生の顔は笑っていない。
少し高い位置から、眼鏡の奥の翠眼が僕を見据えている。
…奥村先生って、こんな顔もする人なのか。
 ……思ったことを迂闊に言葉にするんじゃなかった。
でも変だ。
封がされた箱の中を僕が見られるわけないのに。
先生のこの反応はどういう事なんだろう。


(……見られたらかなり不味いものが、中に入ってる?)

 分からないけど、僕は今 危険に晒されてる気がする。
無いけど、頭に危機察知アンテナが立ってる気がする。
鼓動が跳ね上がるのを息を吸って抑えた。
入り口のすぐ外に、さっきの女子達がいることを思い出して、僕はわざと戸の方を見やった。
先生もそちらを見る。
他人の存在を自分と、先生にも意識させたら、落ち着けた。
……たぶん奥村先生には、嘘や誤魔化しが通じない。
どう言ったらいいんだ……。


 「ここの医薬品は……業者さんが保健室のすぐ外に営業車を横付けして、
直接台車で中まで運ぶんです……。この箱、宅配伝票貼られてないし、
メーカー直送の白いのとも違うから薬品じゃないなって。
それで持ってくる途中で、封紙の割り印を見たら、
正十字騎士団日本支部の紋章が……。」

 「だから…いつもの医薬品じゃなくて、騎士団からの物なんだろうなって…。」


一応、廊下の女子に聞こえないように声を潜めた。
嘘は言ってない……信じてもらえるはずだ。僕はまっすぐ先生を見た。

 

 「中身は、見ていないんですね。」

 「…はい。」


先生の纏う尖った空気が、少しだけ軽くなった。


 「随分保健室の事、詳しいようですが…君は委員か何かですか?」

 「…委員でも何でもない、です。その、なんとなくいつも来てて……
重い薬ビンとか並べるの手伝ったりしてたから、ばあちゃん先生が色々教えてくれて……
それで…保健室の事は、ちょっと詳しいんです。」


先生少し腰が悪かったし、と僕が続けると、クス、と先生から笑いが漏れた。


 「ばあちゃん先生、ですか。」

 「は、はい」

 「この箱の事はもう気にしないでください。…君にとっては、危険な物じゃありませんよ。」

 「…はい…。」


 (……君にとって?)

 

 「君は察しの利くタイプなんですね。…金城先生から聞いていましたが。」

 「あ、……えっ?」

 「……ここ。」

 
――――頬に、先生の手が触れて、僕の下唇のすぐ横を
先生の指先が掠めていった。


 「ここに、ホクロのある二年生……。ばあちゃん先生と一番仲良しの男子。ですよね。」

 「……え。」
 

 ばあちゃん先生…僕のこと奥村先生に話してたのか。
それで僕の顔を、見てたんだ……始業式で。
聞いて知ってたんだ。僕を。


 (ばあちゃん先生……! 冬休みお見舞い行ったのに!
教えてくれたっていいじゃん! 教えてくれたっていいじゃんか!!)


 「金城先生の友達なら信用しましょう。
僕も小学校では、先生のお手伝いしてたんですよ。」


 ハーっと息をついて項垂れた。……ちょっと。ちょこっと怖かった。
腑抜けた僕の顔が面白かったらしくて、先生はクク、と笑いをこらえてる。

 瞳が大きいからかなあ……。子供っぽく見える。
嬉しそうな様子の先生は、僕らと変わらない年に見える…。
……ちょっと可愛いかもだ。

 今日は、色んな奥村先生が見れる日だ。なんかもう頭のメモリが一杯だ。
ここを出た途端女子に色々されるとか、考えたくない。
上靴手で持って、窓から逃げようかな……。
安心してほんの一時、とろんとしていたら、また先生に顔のホクロをなぞられた。