Novel

5:保健室の悪魔

 

 

chapter 5: 保健室の悪魔

 

 

 

 「……、……? 先生、    …。」


伏し目がちに、僕の唇(と、たぶんホクロ)を、先生が無言で見つめていた。
奥村先生の手が、くすぐったい。


先生の指が、僕の耳や唇を撫でて、滑っていくのが、くすぐったい。

待って 待って先生。
僕は、え 何されてるんだ、これ…… これ 
顔しか触れられてないのに、体が熱い。

 

……。

 


(別の意味で) (……危険、なんじゃ)

 

 

 「おい、生徒は食うなよ生徒は。」

 「ふぁ??!!」


 いまリアルで ファ って声出た! 僕の口から―! 
先生の背後に男がいる。さっきまで何も無かった空間に突然出てき……


 なんだ。なんだ!?!


 「あ、兄さん半日ぶり。」
 
 「おう」

 「兄さん……先生のお兄さん?」

 「ウッス、オラ先生の兄貴! おーお前、一個だけ雪男とお揃いホクロあるなw」


 悟空かよ。 なんだよこの人。
なんでニコニコ堂のエプロンしてるんだ。

 戸の向こうから、ギャァ!と女子?の声がした。ニャアーと猫の声もする。
同時にズシン!!と腹に響く震動が入り口の戸を揺らした。
はめ込みの曇りガラスが一面真っ黒い影で埋まった。
廊下で、恐ろしくでかい何かが床をきしませている…。


 「クロー止めろ、そいつらちょこっと悪魔の影響受けてるだけだから。」
 
 「……兄さん! 黙って。余計な事言うな。」


 悪魔って、 ――――悪魔?


「兄さん」は、へたり込んだ僕の横を通って、ガタガタと壊れかけた戸を開けると、
小さな黒猫を乗せた女子一人を保健室に引っ張り入れた。
(女子…女子だよな……すごい形相でフーフー言ってるけど……。)


 「ゆきおー、応急処置。」

 「…ハァ。もう…ボス見つけて祓う方が早いのに……。」

 「ボスじゃねーけど… っと。この子がグループの『中心』だな。」

 ゆきおと呼ばれた先生は、箱から厳ついデザインのボトルを引っ張り出した。
投げ渡されたボトルに刺さったピンを「兄さん」は器用に片手で引き抜き、
女子の頭にその中身を振りまいた。

 振りまかれた透明な液体は…
女子の頭の上の何も無い空間で生き物のように跳ね回っている……。
一瞬だけ、空中に透き通った女性の姿が現れて、そのままビシャッと床に落ちた。
ずぶ濡れになった女子がくたっと寝転がり、廊下に残っていた他の女子もその場に倒れた。
ちょま まさか


 「心配すんな、こいつら元々持ってた欲を悪魔に倍増しされてただけだ。
寝て起きたら記憶ちょっと飛んでて、執着心も無くなる…。
ただ魔障食らってるから、御守り常備しないとなー。なあ、数揃ってるよな?」
 
 「大丈夫、たっぷり送ってもらったから。」


 「あーあ、高校なんざ、ちょうど食い頃の女だらけじゃねーか。
寄ってくる奴ら祓ってたら、昼寝するヒマねーな…。」

…先生。
奥村先生、僕見ちゃって 聞いちゃってるんだけど……。
お兄さんは機嫌良さ気で… ていうか、 心…読まれたし。


奥村先生は、ずっと口が開いたままの僕に気づいて、苦笑いしてこう言った。

 


 「面倒事に巻き込んだついで、といっては何ですが、
ここの、校医のお仕事のこと、詳しく僕に教えてくれませんか?」


 「……は、い…。で、でもあの」


 「…生徒食うなよー。」


 「教えてくれたら、君の知りたい事……この箱の中身や、僕の秘密とか」

 


にっこり笑った先生の口角に、
悪魔みたいな牙が、見えた。

 


 「……少しだけ、教えてあげますよ。」

 

 

 


……。
もう、嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


To be NEXT>>>   School doctor has summoned. 02

 


校内に蔓延するインフルエンザ。高熱で保健室に担ぎ込まれた「僕」は、
隣のベッドで「兄さん」に組み敷かれた奥村先生に、
長い真っ黒な尻尾が生えているのを見てしまう。


魔性に魅せられ、イチコーの保健室に集まる悪魔達と、
それ以上に危険な、双子の悪魔。
以下次号!(たぶん)

 

 


以上です。
がんばれたらがんばります…(。-∀-)ノ
ご覧頂きありがとうございました。