Affinity 2 
〜カイピリーニャの恋〜Rum Caipirinha





ある日の、ある城下町でのこと。

「ねえ、ちょっと、あの人格好いい・・・」

給仕の女性達がヒソヒソと言葉を交わす。
彼女達の視線の先には、黒髪の、やや渋い雰囲気の男が居た。
誰かと待ち合わせをしているのか、先ほどからカンパリだけをちびりちびりとやっている。

「ああ・・・あの人はマルチェロさんよ。」
「え?知ってるの!?紹介してよ!?」
「だめだめ、あの人はガードが固いんだから。」

そんな同僚の言葉に我慢できずに、ある女性が満面の笑みを作って、マルチェロの横の空いた椅子に腰掛ける。
「お兄さん、ここ、いいかしら?」
「・・・どうぞ」
いきなり現れた、美人の部類に入る女性の出現に特に戸惑うこともなくマルチェロは静かに答える。
他愛もない会話から女性は、マルチェロとの接点を見出そうとする。
マルチェロのその女性のほうから一方的に投げかえられる言葉に対する答えは決して友好的ではないけれども充分に社交的で、女性は勝手に一人でその気になる。

しかし、ふと、マルチェロはいう。

「お嬢さん、そろそろ私の待ち人が来るころだ。
しかしこのままお別れをするのも失礼でしょうから・・・私から一杯、あなたに相応しいカクテルを捧げさせていただきましょう。」

女性は有頂天になる。

マルチェロはウェイターを呼びとめると、あれこれレシピを囁く。
そうして数分後、出てきた物は・・・透き通った液体の中にライムが沈められている物だった。

「これは・・・?」

女性はワクワクとしてマルチェロに尋ねる。
カクテルはその名前から、時々愛の言葉を代弁する役割を持つことがある。
きっと目の前の、飛び切りハンサムな男性はロマンティックな言葉を自分に贈ってくれたに違いないと彼女は信じて疑わない。

「そのカクテルの名前は『ラム・カイピリーニャ』・・・カクテルの持つ意味はあなたのお仲間に聞いてみると良いでしょう。」

その時、マルチェロのテーブルに一人の青年がやってきた。

「兄貴、わりぃ、遅れた。」
「馬鹿者、人を呼び出しておいてどういう了見だ?」

女性はその遅れてきたらしきマルチェロの待ち人を振り返って、思わず息を呑む。
そこにはマルチェロに負けずとも劣らずの、銀髪の飛び切りの美青年が居たからだ。

「それでは、失礼、お嬢さん。」
まだ息を呑んで沈黙する女性にそう言い、マルチェロは自分のカンパリと、女性のラム・カイピリーニャの代金をテーブルに置き、そして席を立ち酒場から出て行ってしまった・・・

「・・・ねえ、この『ラム・カイピリーニャ』ってどういう意味?」
マルチェロが出て行った後の酒場で、女性はバーテンダーに尋ねる。
するとバーテンダーはくすり、と笑って答える。
「ラムっていうのはあの酒の名前だ。それから『カイピリーニャ』っていうのは・・・外国の言葉で『田舎娘』って意味だよ。
まったく、マルチェロさんはキツイひとだ。
俺はあの人がココで待ち人をする度にラム・カイピリーニャを作るハメになるんだ。」
その二人の会話に、数人の同僚が笑う。
「そういうこと。あの人にラム・カイピリーニャを奢られた女性は私を含めてこれで5人目よ?」
その言葉に、今日のカイピリーニャは顔を真っ赤にして俯いたのだった・・・


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Rum Caipirinha(ラム・カイピリーニャ)
ラム(ホワイト)45ml
フレッシュライム1/2〜1個
砂糖(シュガーシロップ)1〜2tsp