Affinity 5
〜まだ理由が分からないけれど〜Kiss in the
dark
「さて・・・と・・・」 ククールは部屋に用意されていたくつろいだ室内着にさっさと着替えると、ごろりと整えられたベッドに横になる。 「そういえば・・・この部屋にはベッドがひとつしかないようだが。」 「そうだな。」 「・・・」 あっさりといわれてマルチェロは二の句が継げない。 「一緒に寝ようぜ?兄貴。」 「・・・」 ククールはニヤニヤと笑っている。 彼のこういう顔はしばらくぶりに見なかったなとマルチェロは思うが、明らかに不機嫌そうな顔を作ってククールに悪態をつく。 「それは誘っているのか?」 底意地の悪い風にマルチェロが口元をゆがませながら言うと、ククールはまだ余裕綽々で言う。 「せっかくなんだし?こういう豪華なとこでやるのもいいんじゃねえの? 兄貴の部屋はいっつも殺風景だし、拷問部屋なんて雰囲気のかけらもねぇし?」 かつて、マルチェロはククールを一方的に汚していた。 涙を溢れさせ、止めるように懇願していた異母弟を、マルチェロはその圧倒的な筋力で押さえ込んで、意のままにしていた。 そして、更なる屈辱を与えるべく、金と時間をもてあます金持ちたちに『特別祈祷』という名目で、売った。 だから自分たちの関係は歪んでいた それなのに・・・今のククールはそんな過去を気にした風でもなく、自ら寝台に異母兄を誘う。 彼の本心が、マルチェロには分からなかった。 何か計略でもあるのだろうか? たとえば、一通り終わって油断したところを寝首を掻くとか・・・ そんな風にマルチェロが考えていると、ククールは笑う。 「は、アンタらしくもない、なんて顔してるんだよ? 別に俺は、一発ヤッタあとに寝首を掻こうなんて考えちゃいないぜ?」 珍しく心の中を見透かされた格好のマルチェロは決まりが悪い。 「・・・なあ、兄貴。誰かが言ったんだ。人間が一番分かり合えるのはベッドの中ってさ。 金持ちも貧乏人も関係なく、体ひとつで対話できるのはこういう方法が一番いいって。」 「・・・」 「・・・なあ、俺たちさ、今までひでぇ関係だったよな? 俺が兄貴を探し出したあの日、兄貴はどう思った?今だって兄貴は俺に殺されるかもしれないっていう可能性まで考えただろ、実際・・・」 「ああ。」 そうなのだ。 あの日、何の前触れもなく自分の隠れ家に異母弟がやってきた日、マルチェロは驚愕するのと同時に、ククールの目的をはかりかねていて、そしてそのハッキリしない感じは今も続いている。 自分たちの過去、いや、マルチェロがククールにしたことを考えれば、ククールがマルチェロを殺しに来た、といっても全く違和感はないのだ。 「俺は・・・まだ少しの可能性があるんじゃないかって、思うんだ。だから俺は兄貴と時間があれば一緒にいたいと思うし、すこしでもいい関係になりたいと思うし。」 「・・・そうか」 ククールの顔は、いつもの冗談めかした顔はいつの間にか鳴りを潜めていて、いつになく真剣だった。 けれども真っ直ぐにはその瞳でマルチェロをうつせないようで、僅かに視線を異母兄からそらせつつも明瞭な発音で言葉を紡ぐ。 「・・・だから・・・兄貴。・・・しよう?」 「ああ・・・」 なぜ、『だから』になるのかはまだマルチェロには分からなかった。 けれども、こうやって何かをククールから求められたことはなかったから、マルチェロはそっとククールの髪に触れた。 すこしだけ、そのマルチェロの動きにククールが震える。 体がまだ、自分に対する恐怖を覚えているのだろうか? マルチェロは思った。 けれども、構わずに、そう、きっと初めて異母弟を知りたいという気持ちを込めて、そっと口付けをした。 「・・・すこし暗くするぞ。」 「うん。」 マルチェロがそう言ってから、すべては消さずに部屋の明度を落とすと、ククールはマルチェロの首にそっと、腕を絡ませたのだった・・・ <次へ> |
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