Affinity 6
〜あなたの瞳に嫉妬〜Green eyes




「俺、アンタの瞳にずっと憧れてた。凄くキレイで・・・吸い込まれそうだ。」
ククールは、今度は真っ直ぐにマルチェロの瞳を見つめながらそう言い、マルチェロの首筋に抱きつきながら自ら服を緩める。
「・・・私は別にこの目の色が好きではないがな。」
自分の父親と同じ瞳の色。
できることなら自分を愛してくれた母親に似たかったと子供心に何回思ったか分からない。
「オヤジと同じ色だからだろ?」
クスクスと笑いながら、マルチェロの心を見透かしたようなタイミングでククールは言う。
「もう黙れ。」
「ん・・・」
そうしてマルチェロが口付けをするとククールは素直に目を閉じ、そして自ら進んでマルチェロの口内に舌を差し入れる。
ぴちゃり、と口内に響く音に、二人はお互いに、一気に激しく興奮する。
「俺・・・酔ってるのかも、なんかすっげえ、今すぐ兄貴とヤリたい。」
「・・・自分から誘っておいてその台詞か。全く。お前はどうしてそんなに淫らなんだ。」
「むかーしそう言う風に教え込んだのは兄貴だろう?」
「それもそうだな。」

お互いに笑いあい、そして必要以上に豪奢なベッドになだれ込む。
清潔なリネンの香りに、そして糊の感触。沈み込むようなやわらかさの枕。

何回も何回も口付けをした。

「・・・兄貴の目ってさ、グリーンだろ?『嫉妬』って意味があるんだよ。」
「そうだな。」
「俺はいつも兄貴に嫉妬してた。カリスマで人を惹きつけて頭がよくて・・・」
「・・・」

それは自分のほうだ、とマルチェロは言えずにすでに緩められたククールの服を捲る。
自分だっていつもククールに嫉妬していた、とマルチェロは言えない。

「アンタの瞳は俺を嫉妬させる唯一の卑怯なモノさ。」
「大方、緑色の瞳の女を口説くときもそう言っていたんだろう?」
「・・・バレた?」

もう一度キスをする。

「『Green Eyes』っていう酒もあるんだぜ?そいつを片手に『君の美しい瞳に嫉妬』って緑の目の女の子によく言ったものさ。」
「・・・で、逃げられていたわけだ。」
「やっぱりこの作戦はダメか?」
「ベタだな。」
「ちぇっ・・・」
「お前は飲みすぎだ。」
「飲んでなきゃやってられないことが多くてさ。」
クスクスと漏れるククール笑いはシュッと絹のシーツの上を滑るマルチェロの肌の音に紛れる。

「俺はアンタの瞳が好き。誰も寄せ付けない、覗き込めない、でも寂しそうな瞳。」
そう言い、手を伸ばすククールに顔を撫でられマルチェロは一瞬だけ眉根を寄せる。
けれども、それも自分の腕の中にいる異母弟の穏やかな瞳を見つめた瞬間に、その表情はなぜか和らぐ。
「そんなに私の顔は幸薄そうか?」
「結構な。でもそれはアンタのせいじゃない。」
俺の・・・と続けそうなククールの唇を、マルチェロは塞ぐ。
アルコール臭が鼻腔を掠める。

そう、いつもマルチェロは自分のあまり恵まれているとはいえない境遇をククールのせいにしていた。

お前なんか居なければ

そう口癖のようにいい、弟を忌み嫌い、折檻していた。

そんなのはただのいい訳だ。
もし時を取り戻せるなら・・・このような穏やかな時間をもっと積む努力をしていたのなら、自分の顔は、いや運命は違っていたのかもしれないとマルチェロは思う。

「アンタの顔を幸せにしてやるよ、俺が。」
「眉間に皺を増やしてやる、の間違いではないのか?」

そんな会話も、選んだ言葉がよく似ているとはいえ、以前とはどことなく違う。


女神よ
きっとこれは最後の私に与えられた機会なのだな


マルチェロは思う。

あの日、この世の頂点に上り詰め、そして全てが足元から崩れ去った日に、自分はもう二度と満たされることはないのだと思っていた。
けれども、名誉や地位では埋められない、今までマルチェロが手にいれることのなかった、どこかで諦めていたものを今、女神が、いや、ククールが与えてくれようとしていることに、ようやくマルチェロは気づいた。

「ん・・・っつぅっ・・・!」
ククールのわずかにもらした悲鳴にマルチェロの指の動きが止まる。
「痛いか?」
「大丈夫さ・・・今日のアンタはいつになく優しいから。」
「・・・どうやら私も飲みすぎたようだ。」
また笑うククールに、マルチェロは慎重にまた指をもぐりこませる。
片手で白い肌の感触を確かめるように触れながら、マルチェロのもう片方の指はさらに奥深くククールの内側に飲み込まれていく。

こうやって肌を重ねるのはもう何回目だろうとマルチェロもククールも思う。

最初は随分昔のこと。
憎悪がつのった結果、口喧嘩の挙句の一方的なものだった。
そこにはククールから発せられる苦痛と恐怖に彩られた悲鳴だけで。
忌み嫌っていた相手だったのに、大層マルチェロは後味の悪い思いをした。

その後はお前の顔が気に入らない、生意気だ、出張先での態度が悪い、騎士団の面汚し、男娼でしか金を稼げない男、どれもひどい因縁つけのような理由で抱いてきた。

それが今・・・ククールがあの日、隠遁生活をしているマルチェロを突然訪れた日から、その理由は変わっていった。
素直ではない理由。
けれども、少しずつ『まともな関係』を築いていこうという理由で。

だから今夜はこうやって、情熱的に、一方的ではなく絡み合っている。

やがて、悲鳴ではない、か細い声がククールの形の良い唇から漏れる。
そのとき、ククールは快楽を与え返そうとしてか、緩められているマルチェロの服の上から、そっと、マルチェロ自身を撫でる。
すでに熱く息づいているその存在を確かめると、ククールは娼婦のように、(実際男娼としての経験が長いからだろうけれど)愛しそうな顔で、口を近づける。

マルチェロは躊躇う。
けれども、そんなマルチェロのわずかな変化に気づきつつもククールはその動きを止めなかった。

彼は慣れた手つきでマルチェロの全ての服も下着も取り去ると、その淫らな舌を這わせる。
その感触に、マルチェロの背中に快楽が走る。

巧みに舌と指を駆使させるククールに、マルチェロは自分たちの並々ならぬ過去に一瞬だけ思いを巡らせる。

このように教え込んだのは誰でもない、自分なのだ。
憎しみをこめて、この異母弟を男娼に仕立て上げるために、泣いて解放を願う幼かった彼に冷徹に仕込んだ。

けれども、ククールはそんなことを気にした風もなく、どんどんとマルチェロを追い詰める。
限界までには余裕があるけれども、かなりの高ぶりをマルチェロが覚えた刹那、ククールは顔を上げる。
「兄貴」
「ああ、わかっている。」

お互いに、欲しいと思えるときを迎えているのが分かる。
マルチェロはククールの体を開かせる。
うつぶせにさせ、慣らしたそこに、円を描く様に慎重に自身を挿しいれる。

「ん・・・ぁ」
悩ましげにククールは呻く。
それは慣らされて、何人もの男をそこで受け入れてきた彼だからこそ感じ取れる快感を享受している声だった。

入り口は程よく力も抜けていて、マルチェロをどんどんと、貪欲なまでに飲み込んでいく内側は熱く、絡みつくようだ。
ククールの腰も、マルチェロをもっと深みにいざなうように妖しく揺れる。
マルチェロの全てが納まってしまうまで、そう苦労はなかった。
苦しいかとマルチェロが訊ねても、ククールが返すのはもうすでに酔いが加速したような不明瞭な言葉。
それが拒絶の意味を持たないことは明白だから、マルチェロは気にせずにククールの程よく筋肉のついた腰を抱き寄せる。
やがて律動が始まる。
肌のぶつかり合う音、寝台のきしむ音、歓喜の吐息・・・あらゆる、人間のみに与えられたこの世の快感を五感で二人は堪能する。
空いている手で、マルチェロがククールの昂ぶっている自身を刺激すると、他愛もなくククールは一度目の精を吐き出す。
それと同時にククールの内側はマルチェロを締め上げるが、マルチェロは不意に体を引きなす。
反射的にククールは不満げな声を漏らすがすぐにまた刺激的な声を上げる。
なぜなら、マルチェロはまた体制を変えて、違う角度からククールの内部を抉ったからだ。

「ちょ・・・っ!ァ!」
ククールはついに甲高い声で悦びをマルチェロに示す。
ちょうど、彼の弱く、けれどもこれ以上ないほどの的確なところをマルチェロが攻め立てているらしい。
それでももっと欲しいとばかりにククールはその、しなやかな足をマルチェロに絡みつかせる。

酷く淫らだ

さらに結合が深くなる。
そうすることで、ククールの、マルチェロを受け入れている部分が絶頂が近いことを示すようにひくつき、マルチェロ自身を締め上げる。

「ク・・・っ!」

中では果てずに、マルチェロはククールの臀部にその精を吐き出す。
やがて二人は、荒い息をつきながら、寝台にそれぞれ横たわり、そしてつかの間の充足感のままに眠りに落ちたのだった・・・






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