Affinity 9
〜綺麗なものは目をひきつける〜 Aggravation




「お兄さん、ひとり?」
この地方にしては珍しく抜けるような白く、決め細やかな肌に、そしてさらさらと音の聞こえそうなほどに艶やかな銀髪の青年に、酒場の女性は営業を抜きにしても飛び切りに色っぽいしなを作りながら尋ねた。

「ああ、最近この近くに引っ越してきたのさ。」
「ふうん、一人で?」
「それはどうかな?」

そうはぐらかしてはいるけれど笑った顔に、女は思わず見入る。
彼女は決して信心深い方ではなかったけれども、青年の顔が、村の小さな教会に飾られた油絵の中の天使にそっくりだったからだ。
けれどもその『天使』の手にはグラス。
『天使』に相応しくなく、酒を飲んでいるのだった。

「こんな昼間っからこんな場末の酒場で一人でお酒なんて、一緒に住んでる彼女とケンカでもしたのかしら?」
「・・・バレた?」

青年は笑う。
どこか痛々しげに。
そんな彼の様子に、女の胸は何故か痛む。
冗談で言ったのに、彼が彼の女の存在をほのめかしたからだ。

もし自分が、女のことで今傷ついているらしい彼を誘惑したら、彼は自分に身を任せてくれるのだろうかという、突飛で邪な思いさえ沸いてしまうほどに、青年は魅力的だった。
その、冷たいようでいて澄んだブルーの瞳に見つめられてよろめかない女はいないだろうと思わせるほどに。

「・・・俺の顔に何かついてる?」

あまりに不躾ともいえるほどに青年を見つめてしまった自分に、女は我に返って慌てて「べ、べつに!」と言い、「早く帰ってあげなさいよ。ケンカして放っておかれると女ってすっごく寂しいんだから!」と、まだ見ぬ彼の女にわずかに嫉妬しながら言う。

私がもし、彼と一緒に暮らしてたら絶対にケンカなんてしないわ、と思いながら。


「じゃ、可愛い女の子にも叱られたし、そろそろ帰るか。また来るよ。」
そういってウィンクする青年に、女はわざと素っ気無い態度を取って、「今度は彼女も一緒に連れてきてあげなさいよ」とさらに心にもないことを言ったのだった。




「ただいま。」
僅かに酔った足取りで帰ったマルチェロの家。
そこにはあいも変わらず不機嫌そうなマルチェロの顔。

「ケンカして放っておかれると相手はすごく寂しいから帰れ、って言われたから、帰ってきた。まだ怒ってる・・・よなぁ・・・」
「下らん。私はお前の軽薄な戯言に付き合う女ではない。」

そう言いつつも、マルチェロの顔は、幾分ククールの言葉に和らぐ。
その兄の顔に、ククールはこういうときは女の言葉に従ってよかったと内心思う。

「今度は兄貴もつれて来いって言われたよ、その酒場の女の子に。」
「・・・どうだか?お前の日ごろの態度を見ていると、その相手は私を貴様の女と思っているだろな。
ケンカして放っておかれると寂しいなどと、それは女性の心理だ。
しかもその酒場の女の子とやらはその言葉を本心で言ったわけではないと思うが?」
「?そうなのかよ?」

全く分かっていない様子の異母弟にマルチェロは鼻で笑う、でもどこか仕方のない小さな子供をたしなめるように。

「お前は目に入る人間をことごとく、挑発しているのが分かっていないようだ。」

そのマルチェロの言葉に、ククールはいつまでも不思議そうな顔をしていたのだった・・・



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Aggravation(アグラベーション)
ウイスキー 40 ml
コーヒー・リキュール 20 ml
ミルク 適量

*Aggravationは挑発の意味