救済 6



「おい、いい加減にしとけよ。コイツの様子がおかしいぜ?」
「何今更ビビってるんだよ。コイツはケツで何百人ともヤッてる根っからの淫売だぜ?なあ?」

ヘラヘラと男が笑いかける。

『俺』は朦朧としていて、けれども弄ばれているところが痛くて、熱くて、ひくついていて、酷く屈辱も感じたし、このまま死んでしまえばいいのにと思う。

「あの追放された男、なんだったっけ?」
「ああ、マゴンティ神父だったろ?あのヘンタイの。ここの孤児に手を出して院長に追放されたんだろ。」
「その男のお気に入りだったっていうじゃないか、こいつは。」
「あんなガキの頃からやりまくってたらそりゃあしょうがないな。」

勝手なことを言いやがって。

けれども俺は何も言えずにただただ生理的な涙を堪えきれずに、口から悲鳴のような吐息を漏らす。
男は限界を迎えたのか、俺の体の外で射精すると、それを見届けたほかの男が遠慮なしに交代してまた体内に入ってきた。

「ガバガバじゃないか。まあ面倒な手間かけなくていいから楽だけどさ。女と違ってガキもできないし。」
「こいつのかわいそうなところは呪文ですぐに治されちまうことさ。すぐに『処女』に逆戻りさ。」
そりゃあいい、と別の男が笑う。
「明日の朝にはまた予約が入ってるんだから綺麗に治して置けよ?」
「わかってるさ。」
「おい、俺も楽しませろよ。」

口内に押し入れられた陰茎に、俺は抵抗をしないで舌を這わせた。
何か反抗的なそぶりを見せれば、これ以上の地獄を見ることを体がもう知っているのだ。


その誰の顔も思い出せない。
彼らの一人も俺と目を合わせなかったし、俺も彼らの顔なんて見たくもなかった。


マイエラ修道院では表向きは禁欲生活を守っている。
時々近隣のドニで女を買うものも居たけれど、そこまで露骨ではなかったから問題にもならなかった。
けれども町で女を買う金がなかったり、紛らわそうにも近くに女が居ない場合は・・・簡単だった。
弱い者が彼らの餌食になった。

俺は不幸なことに、あいつに見放されてから何回も、酷いときは週に複数回、血気盛んな騎士団員狭い部屋に押し込められて慰み者にされることがあった。
金持ち相手の売春から逃れることも出来なかったし、その騎士団員たちからも逃れることは出来なかった。
最初は男色なんて、と言っていた者も、仲間が目の前で始めれば混ざってくるものもいた。
騎士団員は百人から居る。

俺は毎日ボロボロで

それでもあいつは、そんなことに関心が無いとばかりに俺を無視した。


兄さん、お願い僕を見て。
僕を嫌わないで。


最後のまともな会話の前、俺はそう思った。
けれどもあいつは俺の目を見ることはもうなかったし、嫌うどころか存在そのものを無視しているようだった。

しばらくして、成長期をようやく迎えるとただただ細いだけだった体に筋肉がついた。
筋肉だけではなく二次性徴は女に飢えた男の興味を半減させたらしく、輪姦の回数はやがて少なくなっていった。
だからといって俺の評価は変わるはずもなく。
いつまで経っても中途半端で・・・だから俺はわざとらしいまでに派手に女関係で問題を起こした。
けれどもそうすればそうするほど俺は孤独だった。
共に寝る女が居ても、俺の心の中に一緒にいてくれる女は居ない。

そんな俺の孤独は最近埋められていったはずだった。
けれども、その彼女は今日は俺を徹底的に無視した。

ぷいっと、俺から顔を背ける彼女の横顔はあいつとそっくりで。
背中が俺という存在を否定する。

そしてその日、目の前で彼女は地に伏した。
挑発的な服が破けて、血がにじんでいて、顔は蒼白で・・・

駆け寄ろうとすると仲間のエイトは戦いに集中しろという。
俺は夢中で矢を射る。
ようやく終わった戦い。俺はゼシカを抱き上げる。
反応はなく、彼女の魂は感じられなかった。

俺は指先が震えた

なんでだよ



「大丈夫だよ、ククール。町はもうすぐそこだから・・・ゼシカを教会に連れて行こう。すぐに神父様が魂を呼び戻してくれる。」
「・・・ああ・・・」

そうして向かった小さな町の教会。
その教会の神父は俺をあの日、『愛した』神父とよく似ていた。
気のせいだ、神父の法衣のせいだ。神父なんてマイエラにも沢山いたじゃないか。

そう思うとしても、ゼシカの魂を呼び戻そうと祈りを天に捧げる神父の声は『かわいいククール、そんなに思いつめることはありません。畏れることはありません。君をたくさん愛してあげましょう。』と、呪いのように瞬間的に寸分狂いもなく頭の中で再生されたあの神父の声と重なった。


兄さん助けて

ああ、うるさい
うるさいよ


俺は震える指先でまだゼシカの手を握り締めていた。
彼女はいつの間にか目を覚まし、一瞬だけ自分がなぜここに居るのだろうと思い出せずに視線をさまよわせて、そして再び俺を無視した。

俺は彼女に一体何があったのか尋ねようと、いつもそうしていたように彼女の宿の部屋まで、夜中近くに訪れる。
ノックをした。
彼女は俺が来ることを予想でもしていたのか『入らないで。今、あなたと話したくない。』とこわばった声でドアも開けずに、そしてきっとその場から振り返りもせずに言った。

「それはつれないね、ハニー。君と俺との仲じゃないのさ。」
いつものようにそう言って、笑えればよかったのに。

愚かなことに俺はまたノックをした。

バン!

彼女がドアに何か投げつけたらしい音と共に『うるさいわね!向こうへ行って!』という掠れそうな叫び声が部屋の中から響いた。
俺は、瞬間的におかしくなった。

力任せにドアノブを捻った

ガチャガチャガチャ

「やめて!やめてよ!あっちへ行って!!」
彼女の悲鳴が聞こえた。

ヤメテ、ヤメテ
ニイサンタスケテ!!

ゼシカ、そんな悲鳴を上げても、助けてくれる人間なんて居ないんだよ?
俺が諦めずにドアを力任せに開けようとすると、ゼシカは言った。

「わかったから!おねがい、止めて!いまドアを開けるから!」
そうしてゆっくりとドアを開けたゼシカの顔は、泣いていたのか酷く曇っていて目は真っ赤だったのだった・・・





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