眩暈 1



あいつに出会ったのはただの偶然だった。
小さな町の、小さな酒場。
そこであいつは後姿なのに飛び切り目立っていた。

薄暗いはずの酒場の中で、やけにぴかぴかと目立った、つやつやした銀髪を黒い上質なリボンで括っていて。
目を見張るような派手な赤い、シルクのカチッとした騎士団の制服を着こなしていて。

そして何より、振り向いたあいつに、悔しいけれど私はちょっと見蕩れた・・・人形みたいにその顔はきれいだったから。


あいつは私にすぐに気づくことなく、いきなり酒場のごろつきと乱闘を始めた。

いかさまがどうとか。

あいつの声は意外に大人びていて。
実際後から年齢を聞いたら大人で、しかも私より少しばかり年上だったのだけれども、初めて振り返ったその顔を見たとき、なぜだか私が彼に抱いた印象は『背伸びした子供』だったから、そのときは意外に感じたんだっけ。


乱闘騒ぎのあと、あいつは私に騎士団員の証だという指輪を渡した。
大切なもののはずなのに、今日出会った記念とか言って、無理やりに押し付けられたそれは、私の親指にちょうどはまるくらいの太さで。


第一印象はお人形さんみたいな美形


でも、実際に会話を交わした後の印象は、『スカした嫌な奴』だった。

なんでそんな風に私がその時感じたのはわからない。
けれども誰かが言ったっけ、いい印象にしろ、悪い印象にしろ、印象に残るというのは、その人物に対して興味を覚えたということ。


まあ、確かに正直なところ興味は覚えたわ。
少なくともあいつのキャラクターは強烈で、無関心ではいられなかったの。


その後、色々な出来事があって私たちは数奇な運命の元、一緒に世界中を旅することになった。
最初は打ち解けようとしなかったあいつも、だんだんと時間が経つにつれて色々な話を私達とするようになった。

毎日、道すがら色々な話をするうちに、彼の半生は、彼にとってあまり好ましいものではなかったのだな、と私は日に日に感じた。
なぜなら、話が少しでも昔話の深いところに触れようとすると、彼はわざとらしいまでに話題をそらせたから。


誰だって、話したくないことのひとつやふたつはある筈。
それは私だって同じ事。
だから私は、彼に対して深く問い正すようなことはしなかった。


表面的な会話。
けれども毎日一緒にすごすうちに、あいつに対する印象は少しずつ、そう、ほんの少しずつだけれども変わっていった。


案外、いい奴かも。

実は・・・寂しい奴なんだな。


そんなふうに変わっていった。

あいつは妙に人に対して冷めているところもあれば、時々妙に稚気に溢れた振る舞いもした。
ひどく人格は不安定な感じで。
時々私も、エイトも、ヤンガスも、そんな彼の変貌振りに戸惑った。

けれどもあいつは私達のそんな戸惑いを気にした風も無く、時々冷淡に、時々鬱陶しく毎日ころころと、めまぐるしく他人に対して変わった。


だけど私はある日、知ってしまった。
彼がどうしてそんなに不安定なのかを。
それは単なる偶然だったのだけれども、私はその理由にひどい眩暈を覚えたのだった・・・

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