密猟 2


『僕』がはじめて『あれ』をしたのは11歳になったばかりのときのこと。
ぎらぎらとした夏の日差しが暑くって、外の掃き掃除を友達と押し付け合いをしていたころのこと。

『兄さん』に、午後2時の鐘が鳴るころに部屋に来るようにいわれた。

なんだか嫌な感じ(それは後になってから、自分の悪い予感はとてもよくあたるのだということを身に染みて分かるようになる。)がしたけれども、いつもは無視ばかりする兄さんが僕に話し掛けてくれたのがうれしくって、午後1時の鐘が鳴ってから僕はずっとそわそわしていた。


「ククール君、何か嬉しいことがあったの?」
修道院で初めてできた友達が、そんな風に尋ねてきたのが、妙に鮮明で。


彼に何と答えたのかは、覚えていない。


ただ、『僕』は、兄さんに話し掛けられたことが嬉しくて、どきどきして、そして何が起こるのだろうということに、胸を膨らませていたのは確かだ。

『僕』の、今にして思えば愚かな期待は完膚なきまでに、こなごなに粉砕されたのだけれど。


『兄さん』は決して暴力的ではなく、けれども一方的に深く『僕』を愛した。

それはそれは丁寧に『僕』を愛し、少しずつ、驚きのあまり硬直する『僕』の体を開いていった。


そのときの『僕』は、『それ』が何なのか、ということを全く持って知らなかったから(なにせ人間の子供は、神様のもとから天使が百合を携えてお母さんたちのところに運んできてくれると強く信じていたから)、自分はそこからバリバリと兄さんに食べられてしまうのかと思って、僕は泣いた。


ひどく『それ』は怖かったのだ。

兄さんが、全く知らない人に思えた。

服を脱がされて、口付けをされ。
そんなことは今まで、他の誰ともしたことが勿論なかったから。
勿論、口付けとか愛撫とか、それの意味することも知らなかったし、誰も教えてなどくれなかったから。

本気でバリバリと食べられてしまうのだと思ったんだ。


「ごめんなさい」「ごめんなさい」と何回も泣きながら謝った。
きっと僕が悪い子だから、兄さんは僕を食べてしまうつもりなんだ、と思ったから。

それでも兄さんは止めてくれる事はなかった。
いい香りのする油を、沢山塗りたくられて。
兄さんの、僕とは比べ物にならない太い指が滑る。

ゆるゆるとそこを刺激されて、僕が変な声を漏らすと、兄さんは、ぐいっと僕の中に入ってきた。
息の詰まるその圧迫感と、そして未知の痛さに僕は悲鳴をあげた。
悲鳴をあげると、もっと痛く感じた。

どんどん溢れる涙にぐしゃぐしゃになった僕の顔に、兄さんはまた口付けをする。

とても、優しく・・・


僕は体を揺すられるように兄さんにしばらく動かれた。
痛いし、何がなんだかわかないのに、身体の中からじんわり温かくなるような感覚に、僕の背中に鳥肌が立つのがわかる。
そんな、僕の背中に何かだらりとしたものを兄さんは垂らした。

それが何なのかを、勿論僕は知らなかった。

ただ僕は馬鹿みたいに泣いて、『許して』『ごめんなさい』と兄さんに哀願していただけだった。



その日から、何回か兄さんに呼ばれることがあった。

けれども僕はまた『それ』をするのかと思うと何故か怖くて、けれども誰にも言ってはいけないような気がしたから、兄さんが部屋に来るように僕にそっといっても、僕は聞かないふりをした。

そんなことが何回か続いた秋のある日。

僕は無理やりに『それ』を兄さんの部屋でされた。
嫌がってどうにか地面に踏ん張る僕を軽々と兄さんは持ち上げると、足早に自分の部屋に運んで、ベッドに叩きつけるように僕を置く。
服を乱暴に毟られて、それだけで僕の身は竦んだ。

また僕は馬鹿みたいに兄さんに言ったんだ。
『ごめんなさい』『許して』と。

それでも兄さんは『それ』を止めてくれる事もなかったし、許してくれる事もなかった。

初めての時よりも随分乱暴にされて、とても痛かった。
何回か続けてされて、僕は喉がカラカラになって、ひどく何か飲みたかった。


「私から逃れようと思うな、ククール」
その頃は煙草を吸っていた兄さんが、紫煙をくゆらせながら言う。
そんな兄さんの言葉が、酷く冷たく感じられた・・・




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