密猟 3


初めて家族以外の人としたキスは、あの人とだった。
夏の朝、きらきらとした気持ちのいい日差しが差し込む教会の脇で。

遅れて礼拝に来た私を、教会の外で待っていた、もう名前を思い出せないあの人。


「ゼシカ」
そう呼ばれて、振り返った時に肩を抱かれて、そっとされたキス。


お前は汚らわしい不義密通の子供だ!


いきなり亡くなった父の声が聞こえたような気がして、私はびくりと震えた。
その震えに、あの人は驚いたようで「いきなりで、ごめん」と謝った。

ちがうの、あなたの事じゃないの。
そう弁解するのも変な気がしたから私は黙っていた。

その場面を、ちょうど昨晩夏休みで都会の学校から帰ってきたばかりのサーベルト兄さんに見られてしまったのだろう。


その日の夜。
メイドのハンナが腕によりをかけてくれた子羊の丸焼きを皆で囲んでいた時の事。
サーベルト兄さんは不意に言った。
「ゼシカももういつの間にか大人だな。」と。

お母様が「あら、サーベルト、いきなりどうしたの?でも、そうね、まだまだ痩せっぽちだけどゼシカももう15歳なんだから、子供ではないわね。」と穏やかに言って、きっと一瞬だけ父のことを思い出して、マッシュしたポテトを口に運んだ。

そう、そのころの私はお母様の言うとおり、どこもかしこもぺったんこで、痩せっぽちな子だった。
そんなことをお母様に言われたことで私の自尊心はすこしだけ傷ついたけれども、私は黙って茹でられたインゲン豆を口に運んだ。

+++

その日はいつもと変わらない夜のはずだった。
私も夏休みだったから、明日早起きする必要が無い、だから少しだけ遅めにシャワーを浴びて、鏡の前で髪を乾かしていた。

痩せっぽちのゼシカ。

学校の友達にいつもそんな風にからかわれるのが悔しくて、せめて髪の毛だけは女の子らしくしようと決心して、三ヶ月前くらいから伸ばしていた。
ようやく肩に付くか付かないくらいまで伸びたお母様譲りの赤毛は軽くウェーブがかかっていて、水気をたっぷり含んでいた。

この髪が、アンジェリーナみたいに金髪だったらいいのに。
この瞳が、ソフィアみたいにブルーだったらいいのに。
この胸が、サマンサみたいにもっと大きかったらいいのに。


あの頃の私は、他人の全てが羨ましくて仕方がなかった。
時に漠然と、時に明確に、他人が羨ましかった。

羨ましいというよりも、むしろ自分が嫌いだったのだ。多分。
本当は疎ましくて、鏡を見るのもいやだった。
けれども、鏡を見ることを止めてしまったら、本当に戻れないところまで『進んでしまう』気がして、私は事務的に毎晩鏡を覗き込んだ。

鏡の位置を少しだけ傾けて、光を集めると目の下あたりにうっすらとそばかすが出来ているのが見えた。

ああ、いやだ。

私はそこでうんざりして、鏡を伏せて、適当に髪を乾かしていたタオルをそのあたりに放って、夜着(夏休みに入る前、お母様が買ってくれた、薄いグリーンの、大人っぽいデザインが少し恥ずかしいような、嬉しいようなシルク製のものだった)を脱いだ。

クラスで一番胸の大きなサマンサに、どうしてそんなに胸が大きいのか、夏休みに入る前にこっそり聞いたのだ。

毎晩ね、お風呂に入った後にマッサージするのがいいのよ。

どういう風にマッサージするのかもサマンサは事細かに教えてくれた。
なんだか恥ずかしかったけれども、私は必死になってマッサージをしていた。

そのとき、いきなり気配を背後で感じた。

ビックリして振り返ると、いつの間にかサーベルト兄さんが背後に立っていた。
瞬間的に顔に血が集まって、赤くなるのが自分でも判る。

「・・・何をしているんだい、ゼシカ?」
「っ・・・」

私は答えられずに必死で腕でぺったんこな胸を隠した。

「胸が小さいことを気にしているのかい?」

その通りだったけれども、私は答えられずに顔を伏せて、黙っていた。

「・・・あいつのために大きくしたいのかい?」

あいつって誰?
私はそう一瞬思ったけれども、それがすぐに『あの人』のことだと判って、それでも私はまだ、まるで口が利けないみたいに黙っていた。

怖い。
私はなぜだかそう思った。
どうしてサーベルト兄さんはこんな時間に、ノックもしないで私の部屋に入ってきたの?
そう聞きたくても、私は怖くて何も言えなかった。

だって、こんな夜中に私の部屋に入ってくるなんて・・・それはお父様と同じだったんだもの。

震えだした私をなだめるように、サーベルト兄さんはそっと私の首筋にキスをする。
「何を震えているんだい?ゼシカ。こんな真夏の夜に。」


お前は男を狂わせる魔性だ、アローザと同じだ!


お父様の声がガンガンと脳裏に響く。
いやだいやだいやだ・・・

「ゼシカ、具合が悪いのかい?さあ、兄さんがベッドまで運んであげよう。」
そう言われて痩せっぽちの私は難なくサーベルト兄さんに持ち上げられた。



そうして私はその後、お父様にされたように、サーベルト兄さんにレイプされた・・・





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