密猟 4


あれはきっと、『僕』が12歳のころ。
まだ『兄さん』が怖くて怖くて、ちょっとでも僕が悪いことをしたらぱっくりと頭から食べられてしまうのだとまだ信じていたころ。

朝起きたら、下着にしみが付いていた。
それが『精通』というものだということを、僕は知る由もなかったから、とても怖かった。

僕はきっと悪い病気なんだ。
お父様やお母様みたいに、どんどん体が醜く崩れて死んでしまうんだ。

そんなふうに僕は思って、震えた。


神様、どうして?
僕はそんなに悪い子ですか?


今になってはおかしいくらいに『僕』は神を信じていた。
教会は偉い人の住むところだとさえ思っていた。
なぜならオディロ院長をはじめ、教会に住む人たちは行き場のない僕のような子供にもとっても優しかったから。


だから『僕』は神父様に、僕はとても悪い子です、と懺悔をしようと思った。
なぜなら神父様は、神様のことをよくご存知のとっても偉い方だから、と信じていたから。

『僕』は、いつも優しくてにこにこしていて、一番僕のことをたくさん褒めてくれる神父様に『神父様、懺悔をしたいことがあるんです』とそっと打ち明けた。
すると神父様は『わかったよ。でも告解室では誰かが聞いてしまうかもしれない、私の部屋へ就寝時間の前においで』と、いつものように優しく応えてくれた。

だから僕はその日の晩、同室の友達がみんな寝てしまう時間まで、一生懸命起きていて、そっと部屋を抜け出した。
神父様の部屋は修道士寮の端で、そこに着くまでに誰かに見つからないかと僕はとてもドキドキしていた。

部屋で待っていてくださった神父様に促されるままに、僕はベッドに腰掛け、神父様に話を始める。

『僕は悪い子なんです』
『どうして君はそう思うんだい?』
『僕の体に、神様が罰をおあたえになったからです』
『・・・どんな罰ですか?』
『・・・』

そこで僕は言葉に詰まる。
どう説明していいのかわからなかったし、それになんだか恥ずかしかったのだ。
僕が言葉に詰まると神父様は優しい声で言う。

『もし話し辛いのなら無理に言わなくてもいいですよ。
けれども君はどうして神様が罰をお与えになったと思うのですか?
君は何か人に言えない悪いことをしているのですか?』

人に言えない悪いこと。

その言葉に僕は兄さんのことを思い出す。

ますます言葉を詰まらせる神父様が、僕の肩を抱く。
『かわいいククール、そんなに思いつめることはありません。』
そうして、兄さんがいつも僕にするように、頬にキスをする。

「やっ・・・」
僕が驚いて身じろぎをすると、神父様は
『畏れることはありません。君をたくさん愛してあげましょう。』
という。

硬直する僕の体を押し倒すと、神父様はいつも兄さんがするように僕の体を沢山『愛した』んだ。


兄さん、助けて。
そう叫びたかったけれども、僕の口は神父様が用意していた布であっという間に塞がれてしまった。

そうして叫べなくなってから、どうして兄さんに助けを求めるのだろうと思った。
けれども自分が頼れる人は、この世には、神父さまを除いて兄さんしか居なかったのが本当で。

兄さんと同じように神父様はいい香りのする油で沢山僕のそこを慣らしてから入ってきた。
神父様は『淫らなククール、君は今までに、こういうことを誰かとしたことがあるんだね?』と見透かすように言う。

今にして思えば、あの日から毎週毎週兄さんと『それ』をしていたのだから、僕があっさりと神父様を飲み込んでしまったから判ったことなのだろうけれども、そのときの僕には、神父様は神様を通じてすべてお見通しなんだ、と酷く恐ろしくて、僕は泣いた。

それでも兄さんと同じように、神父様は僕がどんなに泣こうと止めてはくれず、沢山僕を『愛した』


僕は愛されているんだ。


僕の中で何かが捻じ曲がった。



それからすぐに僕を『愛した』神父様は、オディロ院長に呼び出されて、すぐに除籍になった。
僕の、同じように住む家のない友達の何人かを『愛した』からだ、となんとなくと耳に入ってくる。
神父様が除籍になったその日の昼のミサの後、別の神父様が、僕たちを呼び出して言う。

「さあ、全員目を閉じて。この中に、あの神父様に『愛された』人が居たならそっと手を上げなさい」と。

僕はそれでも手を上げなかった。
きっと誰も手を上げなかった。
誰があの神父様に『愛された』かは、誰もお互いに知らないけれども、僕が思うに、その場に居たほぼ全員があの神父様に『愛された』と思う。


その日の晩、僕は兄さんに呼び出された。
兄さんは酷く機嫌が悪そうにこういう。
「ククール、お前は何か私に隠し事をしていないだろうな?」

僕はなぜだか恐ろしくなって、けっして僕を『愛した』神父様のことは喋ってはいけないと思って、頭をぶんぶんと振った。
けれども兄さんはすべてを見切ったように言う。

「この淫売が!」

そう怒鳴られて、僕は初めて兄さんに殴られた。
殴られたというのに、痛いというより、びっくりした。

『淫売』という初めて聞く言葉の意味もわからなかったし、どんなに恐ろしく感じることがあっても、決して今まで兄さんがこんな風に僕に暴力をふるったことなどただの一度もなかったから。

「言え、どんな風におまえはあの神父を誘ったのだ?」

そんな風に言われても、僕はなぜ怒鳴られているのか全く分からなかった。
神父様の前でそうしたように黙り込むと兄さんの苛立ちは頂点に達したようだった。
何回も殴られて、頭の芯がぼうっとした。
それでも僕には兄さんに告白すべきこともなかったし、そんなに殴られても、殴られている意味も判らなかったんだ。

「おまえは悪魔だ!他人を堕落させる恐ろしい悪魔だ!」

何回もそういわれて、僕は悲しかった。
だから僕は殴られるんだ、けれども兄さんにも神父様にもたくさん『愛され』たんだ。

僕の中で、変な理屈が組み立てられていく。

僕は愛されている。
兄さんは僕を深く愛している・・・

何一つ満足に答えられない僕を、その日、兄さんはとても乱暴に『愛した』

私以外の誰も見てはいけないと兄さんは言った。

けれども、そんな言葉など一つも守れなかったことを、僕はすぐに知ることになるのだけれども・・・






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