密猟 7


「・・・婚約?」
私は今聞いたばかりの言葉を呆然と繰り返した。
お母様は嬉しそうに言う。
「そうよ。なかなかいいお話だわ。サーベルとは少し、こういうことには奥手みたいだからお母様が決めてあげたわ。」


サーベルト兄さん、大好き。
大きくなったらゼシカと結婚してね。
他の女の子と結婚したら嫌よ。


「・・・ソフィアさんっていうのだけれど、確か今年20歳のお嬢さんだったかしら。サザンピークの名門のお嬢さんで・・・」

お母様の言葉なんて何も聞こえない。
私が手にしていたティーカップが、うまくソーサーに置けないせいで、がちゃがちゃとうるさい音を立てる。

どうして私の手はこんなに震えているのだろう。
サーベルト兄さんが結婚すれば、私の嫌で嫌でたまらない日常は終わるかもしれないのに。
なんだか、胃のあたりがむかむかとしてきて、そして私はとうとう吐き気を抑えきれないでお母様の話をさえぎるようにしてトイレに駆け込んだ。

トイレで吐いていた私に、メイドの一人がびっくりして、止めたのにお医者さんを呼んでしまった。
アルバート家代々のお抱えの、顔なじみの医者は、嘔吐の原因は強すぎるストレスによるものだと診断を下して、何種類かの薬草をくれた。

唯のストレスなのに、私はぐったりとして、立ち上がるのも億劫で・・・
何もしたくなくて2日も横になっていた。


どうして?
私の中身はいつもカラッポ

結局お兄様も、他の女の子と一緒になってしまうのじゃない。
私だけを愛してる、って言っていたのは全部うそ。

どうして、どうして・・・


私は、何回も何回も、数え切れないほどの夜、サーベルと兄さんにレイプされた自分の部屋のベッドの上で泣いた。
あまりに私の様子が凄まじかったのか、医者は血液検査や、そのほか色々な精密検査をすると、私の血を抜いたり色々した。


どこも悪くなんてないの。
だって私の中身はカラッポなんだから。
もう、何にも考えたくない。
考えなくていいでしょう?だって私はカラッポなんだから。


ずっと私は泣いていた。
けれどもいい加減にそれにも疲れて、枕元におかれた水差しの水を飲もうと思った。
でも、ずっと誰にも、医者以外に入らないで欲しいといっていたせいで、そこに水はもうなかった。

仕方なく私は、とても億劫に感じたけれども起き上がって久しぶりに自分の部屋から出た。
階段を降り、そしていつもメイドのハンナたちがいるキッチンのドアを開ける。


そこで私が見たものは。


胸元の乱れたメイド服の、半裸のハンナ。
そのハンナがしなだれかかっていたのは、サーベルト兄さん。

「・・・!」
私は、一体目の前の光景が何なのかよくわからなかった。


サーベルト兄さん、大好き。
大きくなったらゼシカと結婚してね。
他の女の子と結婚したら嫌よ。


手が、滑って水差しが落っこちた。
キッチンメイドのハンナが毎日毎日磨いていたきれいな床の上に水差しの破片が音を立てて散らばる。

「!?ゼシカさま!?」
ハンナはその音に驚いて振り返る。

私は何にも言えずに、さっきまで具合が悪くて寝ていたというのに部屋着のまま屋敷を飛び出した。
きっと、サーベルト兄さんの顔を見たくなかったから。

私は走って、走って、あの人に初めてのキスをされた村の教会の脇で、ようやく足を止めて、そして空を仰いだ・・・



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