困った。
困った。
困った。
どうしよう。
何がって、誕生日だ。
この世で一番難しい誕生日だ。


何が難しいか?
難しいのは あいつの趣味じゃない。
気に入らないと怒るから、とか そういうわけじゃない。
むしろ逆。
嫌がるものはわかるけど、よろこぶものがわからない。
おれが悪いんじゃねぇぞ。あいつだぞ。
何にも、ほんとに何にもほしがらないような奴だから。
物の少ない男。
強くなるってこと以外には、拘りなんかないんだな。
なんせ、服だってあんなんでいいような奴だ。



だから困るんだ。
おれは、どうすればいい?
あいつに聞けばいいのかも知れない。
けど、返ってくる答えは火を見るよりも明らかだ。

"誕生日なんか、別にどうでもいい"

賭けてもいいぜ。
あ、いや、それどころじゃなく だ。
困った。
どうでもいいなんて。
そんな訳にいくか。
だって誕生日だ。
人が一人生まれた日なんだ。
たとえこの命尽き果てようとも これだけは祝いたいのが人道だろ。


さて、どうしようか。 おもちゃにアクセ、修理にスケッチ。
困った。
どれもずれちまう。
いっそウケ狙いと嫌がらせ兼ねて、でっかいぬいぐるみとかにしてやろうか。
そんなヤケも掠めたけれど、そこは影のキャプテンのおれさま。
こんなピンチでも、一番のものを考え出してやる。
ザッツ心意気。そう踏んで。
考えて考えて、考えた。
眠ってるゾロを見て、鍛えてるゾロを見て、海見てるゾロを見て。
考えた。
食事のときもちょっと長く話してみたりして。
見張りのときも一緒に晩酌したりして。
そりゃあ考えに考えた。
考えに考えた。
そしたら。


「―どうした、ウソップ?」
「何でもねェよ。」


イヤガラセは、出来なくなった。



・・・惚れてるって、気付いちまったから。

さすがに、ホンメイ相手にそりゃまずいだろ?

だからおれさま、ただいま大いに困っているわけだ。





ああ、うるさいな、わかってるよ。
よくもまあ、ここまでバカでアホで単純なおれのノウミソ。

だったら、開き直るまで。
大喜びしそうなものがわからないなら、ちょっとでも役に立ちそうなことを。
願わくば。
おれが少しでも傍にいられるように。
ただひたすら進む 流した自らの命さえ振り返らず進む お前の傍に。



「ゾロ。」
話しかけると、ぴくり、瞼が動いた。
「あのな、誕生日」
「別に何もいらねェ。」
いや、早ェし。
予想通りの答え、ホント困った奴。
いいからこっち来いよ。
そう言って誘った先は、デッキで一番日当たりのいいところ。
日向ぼっこのとき寝そべるためのチェア、でっかい水桶、そして鋏。





「喜べ!キャプテンウソップ様の新事業に付き合わせてやる。」







臨時開店、バーバーウソップ。
なんてな。











徒花本領