どうして欲しい?ってきいたら
どうにでも。っつった。
こんなとこまで予想通りだ。
ああちくしょう、せいぜい男前に仕上げてやるよ。



四方に散っていた髪は少し伸びて、方々で重力に任せててれんと落ちている。

肝心なのは、一番最初。
後は一気に乗り越えるだけ。
3回そう唱えて、深呼吸して。

触れた。

思った以上にやわらかくて、カヤんちの庭の芝みたいだった。
「・・・おい」
「あ?」
「そんな風に撫でんな。」
「ああ、いや、結構長いなーと思って。」
第一段階、まずはクリア。
そんな風って、どんな風だ?
せめて、少し震えた指と大いに震えた心臓が、誤魔化されてくれりゃいいけどな。

―止めてもらえて、よかったよ。




さて、まずは全体、乾いたまま切れるところから。
ちゃきちゃきちゃき。
いろんな方向に向いた髪を、ちょっとずつ切っていく。
「全部、緑なんだな。」
ほんとに、根元まで緑なんだよ、これが。
くっきりと山を描くきれいな眉、鋭い目を縁取る睫毛まで。
「おう。」
「好きか?この色。」
「好きも何も、気付いたらこれだったからな。」
「そんなもんか。」
おれは好きだけど。
・・・お、これはひみつ。




次は全体、蒸らしたタオルで頭を湿らせる。
「あー・・・」
「どした?ゾロ。」
「コレ、気持ちいい。」
おれさまをぐるり振り返って、そう笑ってくれた。
にっと笑い返して、特別サービス。
軽くタオルの上から、指を立ててマッサージ。
「気持ちいいか?」
「あー、いいな、コレも。」
「こっからどうしようかなー。」
「どうするんだ?」
「あ、うしろ頭、"武士道"ってハゲ作っていい?」
「・・・テメェならほんとに出来そうで怖ェよ。」
「え、いいのか?」
「いいわけあるか!」



そしていよいよ。
濡れた髪に鋏を入れて、細かく調整つけていく。
「なあ、」
「ああ?」
「その、足でしゅこしゅこ踏んでるのは何だ?」
「ああ、そこにあるだろ、3色ポール。手は髪切るので忙しいからさ、じゃあ足でって・・・こと!よし、耳出来た。」
「・・・なんで、わざわざ。」
「アホかお前!バーバーウソップってんだからこれがなくちゃ始まらないだろ!」
「・・・そうなのか?」
「そうなのだ。」




最後は、ゆっくりシャンプーして、終わり。
背もたれを倒して、寝そべらせる。
太陽にまっすぐ向かう顔に一枚、タオルで壁を作ってやった。
「どうだゾロ?」
「・・・んー・・・」
「気持ちいいだろ?いやーさすがおれ。」
「んぁー・・・」
「気のねェ返事だな、もっと称えろよ、このおれの溢れんばかりの才能は・・・」
「かー」



・・・お約束かよ。

口元を覆うパイル地のゆるやかな起伏が、いかに奴の眠りが深いかを教えてくれる。
こうまで来たら尊敬するぜと嘯いて、指を髪に滑らせていった。
ああ、今日はよく晴れた、あたたかい日だ。
ふとした隙に触れるこいつもあたたかい。

とても、あたたかい。


長くのびるおだやかな寝息、その弛緩。





3色ポールはゆっくり止まる。







「出来たぜ、男前の大剣豪」
そう言うと、もぞもぞと頭が動いた。
「お、朝か?」
「おう、おそよう。」
軽いイヤミに、奴は大きなあくびで応える。
目をこすりながら背もたれを起こしたゾロに、でっかい手鏡を渡してやった。
「おら、どうだ?」
「・・・ヘえ、なかなか。」
覗き込んだ鏡、裏葉色の睫毛は満足そうに瞬いた。
まあ、ちっとは役に立ったって、思ってもいい、よなあ?


「ありがとう。楽しかった。」


今日はじめての、いい返事。
嬉しくて、へへぇって笑っちまった。
思わず、頬が熱くなった。
お前が楽しいの、おれも嬉しいよ。
なんて正気で考えてるおれは、きっとどこか壊れてんだろう。

「誕生日、おめでとう。」
「おう、これからも頼むな。」
「・・・しょうがねェな。」

これからも。
これから、先も。うん。
どんと来いだ。



「おめでとさん、男前。」
そういって20歳のボウズの頭をガシガシと撫でてやった。
「んん、いい手触り。さすがおれ。」
「あのな・・・」








「へぇ、結構やわらかいのね。」
「うお、いい感じだな、ゾロ!」

夕暮れの宴。
きれいに刈られた芝を、みんないい子いい子と撫でてゆく。
可愛がられて良かったなってからかってやったら、ゾロは苦虫噛み潰したような顔をした。










ごわごわとしたパイル地はすんげぇ甘かった。

・・・これは一生のひみつ。











開業徒花