十戒

どこの組合だお前 と言いたくなるような手紙をよこしたのが3月2日。
いっしょにやってきたパセリ、タイム、ローズマリーは、悠々と自慢の葉を鉢から踊らせていた。

上等じゃねェか。
おれだって言いたいことは山ほどあるんだ。
読み返して、自然に笑っちまうのはあれだ、仕返ししてやる、っていう、ガキみたいな気持ち。
きっとそうだ。
ぎゅっとする あったかいところは そっといちばん深いところにおいて。


4月1日。
おれは、ペンを取る。





一流のおれから一流の変な鼻したお前へおくる10の戒め


ひとつ、レディの頼みは這ってでもきけ。
あの可愛い微笑といっしょに「ありがとう」って言ってもらえんだ、こりゃもう最高じゃねェか。
女の子に頼られるってのは、当たり前のことなんだよ。男はその為にいるんだ、とっとと悟りやがれ。


ひとつ、キノコだろうがなんだろうがちゃんと食え。
何でだ、盗み食いまでしやがるくせにそれだけは頑なに手ェつけないのは。
何でだ、ケチャップに卵、タバスコ、今度は何だ、ってくらい食い物使っては武器にするくせに。
まあ、それがテメェの意地にかけて作られた武器、全く無駄ってわけじゃないから、ちょっとは目ェつぶっててやるよ。
だから、一度出会った食い物には最後まで責任を持て。
・・・って実はな、結構食ってるんだぜ、お前。知ってたか?


ひとつ、必要なものは、必要なだけ買え。
見たことないサイズのネジ見たら買い、あるようなないようなサイズのスパナ見ては買い。
ちょっと面白そうなカード見つけては買い、ちょおおおっと手元にない色した絵の具あれば買い。
かといって東の海から持ってきた荷物はビタ一減っちゃいねェ。
わかったわかった、クソでけぇクマさんぬいぐるみだけはハンモックにおいてていいから、とにかくあとを何とかしてくれ。このままだと人の居場所がなくなるぞ。
あ、でもクマさん抱っこするのは禁止な。


ひとつ、そうべたべた人に引っ付くな。
島が見えたからって、いちいちルフィと肩組む必要ねェだろ。
こわいもん見つけたからって、チョッパーと抱き合う必要ねェだろ。
強そうなやつがいるからって、わざわざクソマリモのうしろに隠れなくてもいいだろ。
しんどすぎて倒れたからって、わざわざゾロに抱えられなくてもいいだろ。
嬉しかったりかなしかったりで、わざわざゾロに
・・・なんか書いてて腹立ってきた。
とにかく、そういうことだ。ちゃんと守れよ?
おれ?おれはいいんだよ。お前触ってほしそうな鼻してるし。


ひとつ、ウソップ工場の開業場所を定めること。
変なニオイやバイキン出るもんじゃねェなら、キッチン使ってもいいぞ。
晴れた空の下のがいいなら、前方デッキとかいいだろ。
おやつ持ってくの面倒なんだよ、お前いったん嵌りだすと返事もしてくれねェし。
どこにいるのかおれに見えてりゃ、ま、それほど手間でもねェからさ。
・・・うるせぇな、めんどくせェからだよ、余計なとこツッこむな。


ひとつ、くだらねェホラ話は3分以内に端的にまとめること。
違うだろ、それは違うだろ。
見張り台 澄み渡る夜空をゆく流星 手元のワインは赤―いつしかそっと重なる手
そんな状況で 彗星をその片手で止めてみせた話とか、いらねェだろ。
そんなのとっとと切り上げて、正しくコトに向き合おうぜ。
あ、はっきり言えだ?
誘ってんだよ!ちゃんとノれよ。乳首見えそうな服着といて鈍いなんて詐欺だろうが、このクソッ鼻。


あー、鈍いついでにもう一丁。
ひとつ、愛は全身で語れ。
お前あんだけべらべらよくしゃべる口が、何で髪撫でただけで止まるわけ?
耳元でちょっとささやいてやったら、何でそういじめられたみたいな顔するわけ?
そこまでなら可愛いとでも言ってやるけどよ、チューしたあとに
サンジのバカあ なんて言われて逃げられたら、おれもうどうすりゃいいのよ?
あ?慣れてないだ?ふざけんな。
おれだって慣れてねェんだよ、実は。
何せおれのタマシイ全部持って行きやがった奴が相手だ、慣れるわけねェ。
大丈夫、その鼻以上に変なことはまず有り得ねェから、どんとぶつかって来い、胸なら貸してやる。


ひとつ、もっと鍛えて体力つけろ。
そんな簡単に押し倒されてていいのか、お前。
や、おれは全然いいんだけどよ、お前ウケ続いたらぶーぶー文句言うじゃねェか。
だったらせめて抱っこして、ソファくらいまでは運んでくれよ。
おんぶはナシだ!お前はおれのおかあさんか。
二人の愛のシナリオ、プロローグの手抜きなんざゼッテェ許さねェからな。
そんぐらい体力つければ、もっといろいろ遊べるだろ。な?
実に楽しみだ。


ひとつ、戦闘の最中、終わったあと、変な顔するの絶対やめろ。
お前のお蔭で何度おれが助かったか、おまえ本気で知らないなんて言うなよな。
空威張りも笑えねェホラも捨てていいんだ、戦えるだけ戦ったはずだから。
非力でも、お前は無力なんかじゃない。
みんなを守る すげぇ かっこいい奴なんだよ。テメェがふざけて言ってるとおり。
そりゃそうだろ。
このおれが惚れたんだから。


ひとつ。
おれのそばにいてください。
いつか辿り着く おれの お前の ゆめ まで
もうしばらくのあいだだけ。どうか。
ガキみてぇに笑う 無邪気なお前がよく見えるところに、いたいんだ。





以上 10の戒めとともに
もう一度おれのタマシイを全部捧げます

おれは ウソップが大好きです。

誕生日、おめでとう
いっしょにいような

サンジ












「やっぱお前、ねちっこいな。」
「テメェがガキ過ぎるんだ、さっさと大人になりやがれ。」


青 赤 ピンク クリア 白
何かの原石をごろごろと詰め込んだ小さな木箱にも添えられた掟。

パセリの葉はふわふわと西風に揺れ、黒いジャケットから取り出された戒めに緩やかな影を落とす。




で。
返事は?




長いハナ 変なマユゲ ろくに減りゃしないその口に
誓いを落とす。

込めた言葉は、ひとつ、



"まあ、前向きに"







十戒徒花