「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・あ、あのな」
「・・・・・」
「・・・ゆうべ、で、でっかい金魚がな、このおへやに飛び込んできたんだ」
「・・・・・ヘェ」
「こーんなでっかい金魚だぞ、こーんな。こぉぉおーんな!」
「・・・・・」
「こーんなでっかいやつがな、びっちびっち、家じゅうあばれまわったんだ」
「・・・・・で?」
「すっごかったんだぜ。こーんな、こぉおーんなだぜ。なのにぞろ、全然おきねェし」
「・・・・・」
「・・・・あ、うん、お仕事あるし、まあしかたないよな。だから、えーと、おれ」
「・・・・・ん」
「おれ、ひとりでたたかったんだ!」
「・・・・・ほォ」
「すっごかったぜ、やつはきばをむき、おれはそれをぱっとかわし、はらにいっぱつ、どうん!」
「・・・・・」
「うそっぷはいぱーさまーそるときっくをくりだした!それでやっとおいだしたんだ。
どうだおれさま、さすがゆうかんなる海のセンシ!」
「・・・・ふーん」
「でもざんねんだな、やつはでっかかったから、おれさまもいっかいおふとんまでふっとばされて、どすんって体当たりされたんだ。そんで金魚のやつ、めちゃくちゃにあばれて」
「・・・・・で。おれの腹巻とおまえのパジャマと布団のど真ん中を水浸しにしてったと。」
「・・・・・ハイ。」
そう言って、小さな海のセンシとやらはますます小さくうつむいた。
「・・・・・」
「・・・・・」
ぷるぷる、と肩が揺れてるように見える。
かすかにのぞく耳は恥ずかしそうに紅く染まっている。
「随分、しょっぱそうな水に住んでるんだな、その金魚は。」
「(ぎくっ)・・・う、うん。えーと、海からきたんじゃ、ねェかな・・・」
「ヘェ・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・(じー)」
「・・・・・・・(びくびくっ)」
「・・・・・で、ウソップ」
「・・・は、ハイ」
うつむく長い鼻を、ふにっ、とつかんでやった。
「その金魚は、だれだ?」
「・・・ぞ、ぞろ?」
「アホかぁ!」
きゃあと悲鳴をあげて、勇敢なる戦士はびしょぬれのまま逃げ回った。
「待て、この寝ションベンたれ!」
「わざとじゃねェようー」
しかし、びしゃびしゃズボンのおもらし小僧がおれに敵うはずがない、27秒で捕まえる。
わーわーやかましく騒ぎ立てる戦士をひざに乗っけて、ズボンをパンツごとずり下げた。
ま、いつもはその健気な嘘に免じて流されてやるが、何せ引っ越してきてから3回目だ。
それに、ひっさしぶりの添い寝での粗相だ、置き去りの親父の恨み、味わってもらうとするか。
男になるんだろ?ここはお灸をすえねェと。
ぺちん、と音を立てて、ケツがぷるんと震えた。
「寝る前にトイレ行けっつっただろうが!」
「ふええええ」
ぺちん、もうひとつ。
「行きたくなったら、ちゃんとおれ起こせってのも言ったよな!」
「だってええええ」
ぺちん、さらにもうひとつ。
「嘘ついてごまかすのもダメだっ!」
「ごめんなさいぃいぃいぃ」
最後にもひとつ、ぺんとたたいたら、犬みたいにきゃうんと鳴いた。
やな夢みておれといっしょに眠った翌朝、たまにウソップはこうして寝ションベンする。
ひとり寝してる時は絶対にしねェくせに、変なやつ。
涙にぬれたほっぺを拭い、これからはちゃんと言えよ、と頭を撫でた。
「怒んねェから。」
「・・・・・ハイ。」
びっしょびしょになったシーツに腹巻、そして戦士のお召し物を洗濯機に突っ込んで、スイッチを入れる。
ウソップはちっこい身体で必死になって布団を干して。
おれは風呂に湯を張った。
「よし、風呂と洗濯が終わったら、出かけるぞ」
「おう!」
一人がこわくて泣いた夜、その次の朝。
楽しい日曜日が、始まる。