プレゼント


おめでとう
おめでとう
やさしいことば。
これからも、いっしょにいような
そんな声が、きこえるプレゼント。

ドクターがくれた帽子は ドクトリーヌがくれた実験器具は
本当にそんなプレゼントだった。
おれはうれしくて うれしくて
ちょっとだけ、涙が出た。
ほんとにちょっとだぞ、男だから。
けど、ほんとにうれしかったんだ。

そうだ、あの嵐の次の日も。
目を覚ましたおれを見ている、ささやかなプレゼントたち。
南の海の小さな本には、ちっさなカードがあって

"Dr. Tonytony Chopper"

綴られた名のずっと下で R って文字が咲いていた。
ちいさな声、けれど確かにきこえたその優しい声が
うれしくて、うれしくて
うれしくて。



おれはこの船のやつらがだいすきだ。
おれを迎えてくれたから。
けれど、おれが迎えたロビンだってだいすきだ。
お手伝いしてくれたり、本を貸してくれたり、話聞いてくれたり
けれど何より
やさしく笑っておれのそばにいてくれる
ロビンに、
そんなプレゼントを贈りたいなって
思ったんだ。







「・・・で、作ってるわけね。」
わっ。
うしろの扉からいきなりかけられた声に思わず飛び上がる。

「みみみ、見るなよ!大事なものなんだぞ!」
「はいはい、ごめんなさい。」
おれが精一杯怒ってみせたのに、ナミはくすくすと笑っていた。
「何だよっ」
「だって、おっきい身体で毛糸いじってるのがおかしかったんだもの。」
そういってまた笑った。

仕方ないじゃないか。
獣の蹄より器用な手が必要なんだからな。
ウソップが昔、近所のおばちゃんに教えてもらったっていう編み方で、人型になったおれは不器用ながら毛糸と編み針(ウソップが応急で拵えてくれた)で格闘していた。
「ロビンのために手編みなんて、なかなかやるじゃない。」
「うん、今回はがんばるんだ。」
「あたしも、今度ウソップに教えてもらおうかな。」
「おお、基本さえ覚えればあとはせんすだぜって、言ってたぞ。」
「そっか、頑張るのよ、チョッパー。」

「で、それは何?」
「おう、これは・・・ヒミツだ!」







「よ、チョッパー。」
一休みしねェか?

そうサンジが声をかけてくれた。

「あ、もうおやつか!」
「おう、ナミさんから聞いたぜ。ロビンちゃんのために頑張るなんて、なかなかやるじゃねェか。」
サンジの持ってるトレイから、甘いココアとバターたっぷりのパンケーキの匂いがした。
おれの好きなもんばっかりだ。
編み棒と毛糸を手元の箱に片付けて、おれはサンジに向き直った。
もちろん、メモはちゃんと取ったぞ。
目数を忘れないこと。これが肝心だ。

「甘っ」
「うめェだろ」
「うん!」
「頑張ってるから、美味しいもの持ってってあげて、ってナミさんがな。」

がんばってると、こういういいことがあるんだな。
ありがと、サンジ、って言うと、にっと笑ってくれた。


「そっかー、男がレディに手作りってのもありなのか・・・ナミさんやロビンちゃんにおれもなんか作ってみっかなぁ。」
「おおっ、サンジも作るのか?!」
「『サンジ君のマフラー、あったかいv』とか言われちゃったりしてなぁぁぁーv」
「サンジ?」
「『コックさんのセーター、柔らかくて・・・抱かれてるみたい』とか言われちゃったら、おれどうしようかナァァァハハァァ〜〜〜vV」
何があってもそんな事はないだろうと思うけど、せっかくのパンケーキが惜しかったからとりあえず黙っておくことにした。
「しかしそうなると、ウソップと二人並んで編み物か・・・ちょっとなぁ・・・」
「いいんじゃないか?ウソップすげぇ上手いぞ?
ルフィもゾロもいっしょにさ、みんなで編み物するんだ。楽しいぞ!」
「いやお前、それは海賊としてどうよ。」







どすどすどす。
揺れる床板。おれはぎゅーっと強く網掛けを握り締めた。
・・・こんな歩き方、一人しかいない。

ばたん!

「よぉチョッパー、遊ぼうぜ!」
「何度も言っただろ、今日はダメなんだ!」
「うぇーっ、つまんねェよー。」
「ウソップやゾロに遊んでもらえばいいだろ。」
「ゾロまた修行始めちまったしさ、ウソップはウソップでキッチンから出て来やしねェ。」

そういってルフィは、ごろんと毛糸玉のあたりまで転がった。
「お」
「うわわわわ」
「何だ?何だ今の?」
「あわあわわわ」

おれは必死で隠したけれど、そんなんでごまかされてくれるルフィじゃない。
「なあ、コソコソすんなってば、ほら!」
「・・・ぎゃははははは、やべ、やべ、やべろっで」
「おら、早く言いやがれ」
「だべ、だべ・・・ひゃはははっ、ナイジョ・・・」
「もっとコチョコチョすんぞー?」
「あはははは・・・・ぷぶ、ぶれぜんど・・・」


必死でそう言うと、ぴたり。
くすぐる手が止まった。
「プレゼント?」
「・・・・・おう。」
「なんで。」
「なんでって・・・ルフィ、覚えてないのか?」
「あ?」
「明日、ロビンの誕生日なんだぞ。」
そう言ってやると、に、と笑った。

「当然だろ?」

ちょっと見ないくらい、強くてやさしい笑顔。
さすがルフィだ。仲間のことは、絶対覚えてる。


「宴会だぞ、メシ食いまくりだぞ、肉が出るんだぞ!」
イヤッホゥとほえながらルフィはそのまま出て行った。
・・・さすがだ。





夕飯のときだけ休憩して。
編んで 編んで編んで
おれは編んだ。
錨を上げるために誰かが起きたらしい。
その扉の音で、もう夜が長くないことに気付く。
ちゃんとそれも手伝って、また編んで。
「出来た」
そのまま、おれは格納庫の冷たい床に突っ伏した。






  2.