夕闇の迫る中、錨は下ろされた。
帆もたたんだし、今日の航海は終了。
そして、いよいよ。

甲板にテーブルが出て、料理が並んで。
宴が始まる。




「またひとつおとなになった、おれたちの考古学者に!」
乾盃、の声と共にジョッキがぶつかった。

おめでとう、ロビン
おめでとう
おめでとう
交わされる底抜けに明るい声の中、おれはピンクの薄い包と共に、
「あら、船医さん。いい夜ね。」
そっとロビンに近づいた。


「おめでと、ロビン」
「ふふ、ありがとう。」
そうこたえて、ロビンはおれに笑ってくれた。
いつもよりちょっと、明るい気がする。

「チョッパーがね、大好きなロビンにプレゼントがあるんだって!」
「ナミ!」
「あら、本当?」
ロビンがくるり、目を丸くした。
からかうように笑うナミに精一杯むっとして見せたけれど、全然効き目ナシ。
ここまで来たら仕方ない
おれも男だ、腹くくる。


おれは思い切って、赤いリボンをかけたピンクの包をロビンに手渡した。





しゅるり、はらはら。
おれのプレゼントが、顔を出した。



「これは・・・」


ひゅ、と誰かが息を呑む音がした。







ロビンは、おとなだ。

でも、ドクトリーヌよりは、まだまだ子どもだ。
だからほんとはまだまだ、あんな無茶なカッコウはしちゃいけないんだ。
おしりが隠れるかどうかくらいの短いスカートとか。
胸の真ん中あたりまでしかファスナーの上がらないジャケットとか。
おなか丸出しになっちゃう丈の 下着みたいな服とか。

けど、ロビンがそれを好きってんなら、仕方ないだろう。
だからせめて。
あったかくしてろよって。





ロビンの目は、じっと手元に注がれたまま、動かない。


"ウソップあんたでしょ!妙な入れ知恵したの"
"ちげェよ!"
"テメェ、それりっぱなセクハラじゃねェか、何考えてんだ!"
"おれじゃねぇって言ってんだろ!"
"さすがにお前でも、これはヤバイだろが"
"いや何でおれだよ、あいつが勝手に"



「・・・・・」


何だか、やけに静かで、妙に騒がしい。

・・・ヤ、だったんだろうか。
ちら、と窺ったロビンは、受け取ったそのままに、何も言わずずっとうつむいている。

だから、麦わら帽子の呑気な声は、海にきれいにこだました。


「おおー、スゲェじゃねェか、毛糸のパンツなんて。」




ざああっと、波の音。


その中からあふれ出たのは、明るい破裂音。
・・・ロビンの、笑い声だった。







「アハハハッ・・・ご、ごめんなさい・・・うふふ、アハハッ」


おれだけじゃない。
ナミも、サンジも、ゾロも、ウソップも。
笑い続けるロビンを、ぽかーんと見てた。

「クスクス・・・ごめんなさいね、ふふっ、ちょっと、びっくりしたの・・・うふふふ・・・」

ロビンは、きゅっと手にある毛糸のパンツを抱き締めてくれた。




「ロビン」
「ふふ、なあに?」
「嫌じゃないか?怒ってるんじゃないか?」
「どうして?」
ふんわり笑って、ロビンは首をかしげる。

「こんなに素敵なプレゼントなのに。」

左腰の当たり、小さな・・・けれど一番大変だったこまどりの刺繍を、ロビンは笑いながら、撫でていた。
「嬉しいわ、ありがとう」



ラベンダー色した毛糸のパンツはおれの気持ちを、ちゃんと伝えてくれたみたいだった。
だってロビンが、とってもうれしそうに笑ってくれたんだ。










「ねぇロビン。」
「なあに?」
「どう、チョッパーのアレ。」
「ふふ」
「・・・はいてるの?」
「ええ、おかげで月経はとても楽になったわ。」


「・・・・・・マジで?」






なけなしのおこづかいで、世界一かわいい毛糸のパンツができるのは、また別の話。






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