とりどりの四季が美しいある国に、大きな大きなおもちゃの工場がありました。
あじさいの、彼岸花の、寒椿の、そして小さなすみれの咲く線路のまちかくに、
その工場はありました。
ひまわりが太陽に恋をするころ、工場はもう冬支度を始めていました。
しばらく先の新しい年に備えて、こどもたちのためのおもちゃを作り始めていたのです。
秋桜の咲き始めた今日も、工場のあちこちで次々におもちゃが作られていきます。
かっこいいロボット。きれいな衣装のお人形。
本物そっくりなお化粧品が作られている向かいでは、
精巧な汽車がためし運転をしていました。
おもちゃはいろんな人たちの手で、休むことなく作り出されてゆきました。
どんどんおもちゃで埋もれてゆく工場。
けれどその片隅で、ただひとつ、作業を止めて考え込んでいるところがありました。
ぬいぐるみを作っている 人たちでした。
「困ったなあ。」
できあがったぬいぐるみの山を見ながら、係のおじさんは頭を抱えていました。
「どうしてしまったのでしょうね。」
ボタン押しのおばさんが、ためいきをつきました。
「今日中に9000個のぬいぐるみを作らないといけないのに、こんなことになってしまうとは。」
二人が困っているのをみて、おや、と工場長さんが声をかけました。
「どうかしたのかね。」
「いやあ、ぬいぐるみを作る機械が止まってしまったんですよ。」
「そうなんです。1224個目のぬいぐるみが出てこないなあと思ったら、ぽんっと出てきて、それっきり機械は動かなくなっちまったんです。」
ふうむ、と工場長さんはあごひげをなでました。
「それにね、工場長さん、」
とおばさんは続けました。
「やっと出てきた最後のやつと来たら、こんな不良品でね。」
ボタン押しのおばさんは、ぬいぐるみの耳を持って工場長さんに見せました。
「うむ、これはいかん。すぐに機械の修理を呼ぶことにしよう。」
「ああ、それはありがたい。」
係のおじさんは喜びました。
「お願いしますよ。このままじゃ、年の瀬に間に合わんかもしれない。」
おばさんもうなずきました。
「そうですよ、こどもたちは、まっかな服とまっかな鼻のお友だちがやってくる冬を、ずっと楽しみに待っているんですから。」
ほくほくと幸せそうな顔をして、工場長さんは言いました。
「うむ、ぼくたちもたくさんのプレゼントをこどもたちに用意しておかなくちゃあね。」
そうして、1224個目のぬいぐるみをおばさんから受け取って、工場長さんは事務所へ修理の電話をかけに戻りました。
「もしもし、修理をすぐにお願いします…ええ、ぬいぐるみの機械です。
不良品を作ったきり、うんともすんとも言わなくなっちまってね。
…不良品?ああ、とびっきりの不良品ですよ。
こんなのは捨てておきますとも。
聞いたこともないでしょう、青い鼻のトナカイなんて。」
1224個目の青い鼻をしたトナカイのぬいぐるみは、その日作られたおもちゃのどれよりも早く、工場を出たのでした。
けれども行き先は、仲間たちが並ぶ、こどもたちがうきうきと笑うおもちゃ屋さんではありませんでした。
線路に咲く花々がよく見える、ごみ捨て場でした。
秋晴れのうつくしい日のことでした。
秋桜の桃色の、くれないのつぼみがさわやかな風に揺れていました。
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