流行ヤマイ V

ルフィ―???






んー、おかしいな。
なんかだるい。

脚にいつものキレがねェんだ。
ゴムゴムもいまいち甘いんだ。
なんか、いつもの2/3ゴムゴムくらいしか伸びねェ。

そう思いながら、ボーっと飯を食ってたら、


「ルフィ、ごはん少ない…」

チョッパーが、血相を変えておれを見た。

「ホントだ、お、おれたちの2.25倍しか食ってねェ…」
これは、まさか。

「チョッパー、体温計だ!」
「う、うん、わかった。」
「そんな、そんなバカな…」
「これが、グランドラインなのか、クソッ。」

「どうだ、出たかチョッパー?」
「…出ない。」
「何で?」
「―水銀、振り切っちゃった…」
「何ぃ!!」

なあ、なに盛り上ってんだ?



「ルフィが?」

「ルフィが。」

「ルフィなのに」





「…風邪、ひいてる…」




「・・・・・」

沈黙。

そして、


「…ナミ、これは、」

「―来るわ・・・」


なあ。

「帆をたため!オールを出せ!」
「おっしゃぁ!」


なあってば。
「サンジ君とウソップは取り舵!」
「よし来た。」
「まかせて、ナミさん!」

「行くわよ、みんな。」
「おう!!」

なあ、おれはどこへ



「てめェは部屋で寝てやがれ!!」


蹴り出された。
みんな、楽しそうに走り回ってる。
なのにおれは、ちょっとだるいだけなのに、
ソファに縛り付けられる羽目になった。
いいなあみんな。






閉じ込められて、かれこれ3時間。

いい加減退屈で頭が変になりそうだった。

何度かそぉーっと外へ出ようとしてみたけれど、必ず誰かに見つかって
散々怒られた挙句ソファに戻される。

「これは困ったなー。」
30回くらい、そう呟いていた。

とんとん
扉を打つ音。
「ルフィ、入ってもいい?」
「んー。」
答えると、ナミが部屋に入ってきた。


「気分はどう?」
「ヒマで死ぬ。」

ちょっと待って、とあいつは、おれのおでこに手を当てた。
「・・・あんた、ホントに人間なのかしら。」
「あるのか?熱」

「あるなんてもんじゃないわよ!」


…そう怒らなくても。
「怒ってない。呆れてるの。」

そういわれたら、おれはもう何にも言えないじゃねェか。
おれは横になったまま、ぶーっとふてくされてみた。

「ああ、ほっぺたのふくらみが甘いわね。」
…さすがだな、ナミ。

「ほら、これチョッパーから。」
「薬ぃ?いいよそんな」

「飲みなさい。」…ハイ…」


あんまりナミが恐い顔するから、おれはおとなしく青紫の粉を一気に飲み干した。

「・・・・・」
「あんたにも、不味いと思うものがあるのね。」










「嵐、」
「ん?」
変な薬でしばらくしびれていた頭が、やっと動き出す。

「嵐、もう来たのか?」
「ううん、たぶん来ないと思う。気圧も安定してきたし。」
島が近いのかもね、というナミの言葉に、おれは俄然力を取り戻した。

が、

「だめよ、今日はしっかり休むの!」

すっかり先読みされちまってる。

「あーあ、見たいなー、島。」
「…だったら早く元気になってよ。」
おれはじゅうぶん元気だぜ?

「そうね、言葉を間違ったわ。


 早く熱を下げなさいっ!!」


「・・・ヘーい。」
もっ買いおれは、ぶーっとふくれてみた。
「あら、今度はなかなかね。一日寝てたら完全に戻るかな?」
「長ェよぉ…」
そうぼやいたら、ナミはちょっと眉をひそめた。

「あのねルフィ、」
「んー?」

「私だって別に、無理やりあんたに寝ててほしいわけじゃないのよ。」


「わかってるよ。」
「私は、病気になったときの辛さを知ってるから。」


わかってる。


ちゃんとわかってるよ。





身体のことに、みんなに心配かけてるってことに、
苦しかったんだって
わかってる。



だから、最後におれはちゃんと言ったんだ。


「今日は一日中寝て、明日ちゃんと復活する。」



「約束よ。」
「ああ。」

ナミはちょっと笑った。






そのままナミはそこにいてくれた。

しばらくナミとしゃべってたけど、おれはどんどん眠くなってきた。

「…なんか眠い。」
ふわぁぁ、とでっかいあくび一つ。

「薬が効いてきたのね。ゆっくり休んでらっしゃい。」
そういって立ち上がったナミは、おれに毛布をかけた。

そろそろ飯だ、このまま行っちまうんだろう。
まあ、おれも眠いからちょうどいいや。

きぃ、と扉を開ける音がする。


「あ」

ナミが、戻ってきた。


「ごめん、ルフィ、私…」


うつむいていて、ナミの顔はよく見えない。

「ナミ?」


尋ねると、ナミは顔を寄せてきた。

おれと顔がぶつかるんじゃないのかってくらい、近く。


何だなんだなんだ??




「・・・今晩・・・」

「え」







「ステーキなの」



「え」


「にっこり」


「・・・・・う、え、ええぇぇー!!」



「残念だったわね、病人☆ あとでおいし〜い病人食を持ってくるわ。」

「ずっりーぞ、お前らぁ!」

そう言ったときには、もうナミの姿は甲板へ消えていた。




おれは、襲い掛かる眠気と震えるほどの怒りの中、誓った。

これからなにがあっても、


絶対、病気はしない。



絶対に。

ぜったいに。







その晩の病人食は、豚肉がごっそり盛られたお粥だった。

おれは泣きながら5杯食った。




******

なにがあってもこの人風邪なんてひかないと思いますが、あえて。
アラバスタでいっちょまえに熱出したときは
実はちょっとほっとしました。
 よかった…ただのサルじゃないよ、この子…
みたいな。