流行ヤマイ IV

ゾロ―高熱









 バタバタと外が騒がしいと気付いたのは、
時化も山場を越えたころだったと後に聞いた。
つまりおれは、大嵐にさえ動じることなく、昏々と眠り続けていたってことだ。

それほどまでに、おれの体調はかつてない状態にあったらしい。

いつものことだろうと呟くヤツは無視することにする。

身体の半分ぶっちぎれるくらいの怪我はあっても、病気なんてひとっつも
したことがないから、どうにもよくわかんねェけど。
何にせよ、無傷なのに立ってられないなんて、尋常なこっちゃないんだろう。
(と言ったら、チョッパーに「当たり前だぁ!」と注射された。)


「あー、困った。」
荒れる息の中そう呟いた声が、頭の中でがんがんと響いた。
喋るのってこんなに辛かったっけか。
情けねェもんだ。
何がなんでも今日中に治してやると決めて、まぶたを閉じた。




・・・どしどしどし


やたら脳に痛い音を立てて走る音。
これが誰だか分からないほどおれもバカじゃない。

天下無敵の無神経に、おれはひとりごちる。
てめェおれがここで苦しんでんのを承知で どすどす言わしてんだろうな?

頭の悲鳴が半端じゃなかったから、声には出さなかったけどよ。



バタアン!!!

とこれまた盛大なボリュームで扉を開け、奴はそのまま飛び込んできた。

「おーいゾロ、死んだか?」
「バカ言え。」

ばふーんと音を立てて、奴はおれが寝ているソファに腰を下ろした。


小汚ねェ素足をぶらぶらさせながら、ルフィは心から嬉しそうだ。
「残念だったなーお前寝てて。すっごかったんだぜ!」

「・・・何がだ?」
「嵐っ!!」

…奴の目は、冬の星空もかくやと言わんばかりに、輝いていた。
そりゃもう、キラッキラに。

おれの頭痛は、格段にひどくなった。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・わくわくわく」

「・・・・・」


言っとくが、おれはこの船のメンツの中ではかなり利口な部類だと思う。
ナミやあのスケベ眉には全力で否定されるかも知れねェけど、
カンは冴えるし、ツッコミだって完璧だ。
何より強い。

だが、このキンキラキンに光る奴の顔を見ていると、ちょっと疑わしくなってくる。


「・・・で、どんなだったんだ。」



やっぱりおれは相当のアホなのかも知れねェ。


そんなおれの胸中を一切、まったく、全っ然察することのないアホ船長は、
「おお、まずな、竜巻来てたんだよ!船の前後、両方だぜ!」

待ってましたとばかり、べらべらと話し始めた。
「挟み撃ちだぜ?!危うく帽子が飛んじまうところだったよ。
 あ、ついでにウソップも。」
「ついでかよ。」
「(聞いてない)もぉマストばっさばっさ鳴るしよ!
 何とかみんなでオールこいで方向変えようとしたんだ。
 けどおれとチョッパーのはこいで2秒で壊れちまった。はっはっはっは!」

泣きながらオールを直してるだろうウソップに、おれは少なからず同情した。


「でなでな、方向変えたら、次何がいたと思う?」

「・・・・・」

「・・・・・うずうずうず」

「・・・いいよ、言えよ。」

「シャチだよ!バカでけェシャチ!」


本当に奴は楽しそうだった。
だからおれは、めちゃくちゃ痛い頭を抱えていつものように話を聞いた。

…その後20分、奴は興奮のままにしゃべり倒した。
おれはやっぱりアホかも知れねェと思った。









ようやく(本当にようやくだ)話すのをやめたあいつは、じっとおれを覗き込んだ。

「つらいか?病気。」
「いや、それほどでも。」
「そっか。よかった。」

そういって、また足をぶらぶらと揺らす。


「何でお前までぶっ倒れたんだろうなー。」
「んー、クソコックのでもうつされたのかねぇ。」

ずいぶん前に飯を持ってきたコックは、目も合わせなかった。
思い当たる節でもあったんだろうか。
あのバカ、絶対シメてやる。


そんなことをぼんやり考えてると、ルフィがぽつりと言った。

「早く戻って来いよな。」

顔にいつもの笑みはない。


「こんなところで倒れるなよ。お前まで。」

まだまだ途中なんだろ。


そんなに心配したんだろうか。
おれたちがバタバタ風邪ひいていくことに。

「おれもあいつらも、弱くなんかねェだろ。」
「知ってるよ。」
「一応言っとくが、別にこんなの、大したことはねェ。」
「わかってる。」


もう一度、ルフィはおれを覗き込んだ。

「倒れるなよ。」
こんなことで。こんなところで。

「お前倒れるの、おれがいやだ。」


そういわれて、やっと分かった。
こいつは実はちょっとだけ、怒ってたいたんだと。


おれがこいつに敵うことは一生ないのかもしれないと、いつものように思う。




深々と一呼吸して、よっと勢いをつけておれは立ち上がった。

「もう治った。」


「あれ、もういいのか。」
「おう、お前の話に付き合ってたら、熱どっか行っちまったよ。」
「なっはっはっはっ!そうか、そんなにシャチが見たかったのか。」
「てめェと一緒にするな!」


そのままルフィとキッチンに向かった。
途端、ナミとウソップとチョッパーにドツかれた。






熱を測れば42度。
それがどういうものか、やっぱりよく分からない。
そういえば、ナミの記録とタイか。








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バケモノ二人の会話って
ちょっと無理がありましたかね…
 しかしこの二人、絆が濃すぎて強すぎて
中途半端になかよしな話って書けません。
要練習。