「月吹く風と紅の王」



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*注意* このお話には排泄表現があります。苦手な方は回れ右でお願いいたします。



「ルシエさま。そう、少し前屈みなって思い切ってお入れ下さい」
「………っ」
 中庭に繋がる扉は大きく開け放たれ、時折薄い窓掛けの布越しに涼やかな風と、つよい昼の陽射しが入り込んでくる。
 床に座って腰を少し浮かせた形のまま、少年は男の声に促されるようにして己の指先を秘部に差し込んだ。
 男は巫服に似た白い衣を着ている。胸もとの斜め下で前で合わせ、紐で結んだ白い上衣は動きやすいよう切れ込みが入れられており、9つの花びらをあしらった花青紋(かせいもん)が淡い色合いで縫い込まれていた。
 花青紋は男の役職を示している。王家の寝室で特別な働きをする花青官(かせいかん)に与えられるのが、その紋章だった。
 夜伽に選ばれた人形の体を仕立て、性技を仕込み、日常生活においても衣食住すべてを管理する特殊な役目を負った存在。
 固くつぼまった己の奥襞に指先を埋め込んで、人形であるルシエは夜青の瞳を潤ませた。
 すでに花青官の手により、やや解されていた入口はふっくら綻んで難なく指先をのみ込むが、ルシエの指遣いはたどたどしく、浅いところを擦るだけだ。
 花青官の男は根気強く言葉を掛けて、香油をまぶした他の指もみずから埋め込ませることに成功するものの、それ以上どうしても指を入れられない。
「ルシエ、そのままではいつまでたっても支度は整いませんよ。そのまま私を受け入れたいのですか?」
 贅沢な意匠が施された寝椅子から体を起こした美しい男が、遅々として進まない人形の行為に目を細める。
 主人(あるじ)である男の言葉に、大きく足をひらき、自ら奥孔に指を入れたままの淫らな姿で、ルシエは全身をびくりと震わせた。
 彼の意に従わずに与えられた数々の責め苦がルシエを怯えさえ、全身を強張らせる。
「エ、エルシェリタ…様」
「そのようなときは、どうするんです」
「…………っ」
 舌が痺れたように次の言葉がでないルシエは、主人の切れ長の双眸からごくわずかに苛立ちがのぞくと、氷の塊をのみ込んだように背筋を凍らせた。
「………、ぁ、っ、ツ、ツィーツェ」
 傍らに膝を付いて、先ほどまでルシエの行為に言葉を掛けていた男を見上げる。
 白い花青官の衣が似合う端正な面立ちの男は、ルシエにどんな非道な仕打ちをしても、ちらとも表情を変えない。できることなら呼びたくもない、忌まわしい自分付きの花青官相手にルシエは乞わねばならなかった。
「わ、わたしが…、エ、エルシェリタ様をお受けできるように…して、ください」
「畏まりました」
 ツィーツェはルシエの背後に回ると、両足を更に大きくひらかせ、主人に良く見えるように角度を調整して、指を入れたままルシエの手に己の手をそえた。
「…ぅ、ー…っッ」
 ツィーツェの指が1本増やされ、浅いところで止まっていた己の指ごと深く突き立てられる。
 思わず逃げをうつ人形の体をツィーツェは巧みに押さえ、柔らかな後肛の奥を慎重に拡いていく。花青官の手にかかれば人形の体を主人の好みに合わせて整えることなど、造作もないことだ。
 指先に絡む熱さにルシエはおののき、己の指を使って拡げられる行為に嫌悪を覚えながらも、すでに覚え込まされた柔らかな箇所を弄られる悦びに息を上げた。
 頭の芯がぼうっと白く濁るように甘い痺れが体を満たしていく。花青官は人形を仕立てるが、精を放つまで体を弄ることはない。体の奥に埋め火を熾し、主人のもとへ人形を送り出す。
 逃げ出したくて、体に籠もった熱が辛くて、ルシエはすすり泣きながら主人のもとへ向かう。
 息を上げたルシエはふらつきながら両膝を床につけ両手を前に揃える人形の挨拶を行った。本当はここで主人に対し、寵を受ける御礼を述べねばならないが、人形の作法のすべてを身に付ける必要はないという主人の意向に従って、その後はただ口を噤む。
「いらっしゃい」
 やわらかく呼ばれて、ルシエは主人の足もとに擦り寄る。
 寝椅子に腰掛けた主人が開いた足の間に入って、きっちり服を着込んだままの主人のものを取り出し、口に含んだ。
 大きく張りのある竿の先端に舌を絡め、全体を舐めながら、ずっしりと重い双実に唇を寄せてゆっくりとはむ。
 人形は主人の寵を受けることでしか、体の熱を鎮めることができない。
 そういう決まりなのではない。そういうふうな体のつくりをしているからこそ、人形には価値がある。
 けんめいに舌を使うルシエの髪を撫で、エルシェリタは拙い口淫を受け入れる。
「ルシエ、もういいですよ」
 ゆるやかに固く張り詰めていたものが、ルシエの口からこぼれ落ちた途端、きつく反り返った。その姿は凶器にしか見えない。わずかに怯えた顔を見せるルシエを抱き寄せ、エルシェリタは膝に抱えたルシエの綻びにあてがう。
「あ、ぁぁ…っ、…っ」
 ひと息に圧し入ると、細い首筋がのけぞり紅く血を昇らせた。
「いや…いやぁ…っ」
「悦いの間違いでしょう。せっかく解して貰っているのに、そんなにきつくしてはいけませんよ」
 深く埋め込まれて掻き回されると、もう堪らなかった。
 苦しくて、すごく悦くて、主人のものの固さや、先端の張り出し具合や、襞を掻き分けて進む長さや大きさを余すところなく感じ取ってしまう。
「ゆっくり、ゆっくりして…ッ」
「なぜです。深く抉られるのが好きでしょう。こうやってひどくされるのも」
「ひぃぃ…ッ…」
 ぎりぎりまで引き抜かれたものが再び勢いを持って深く突き入れられ、ルシエは全身をわななかせる。
「勝手にここを尖らせて、前をべちょべちょにさせて」
 きつく胸の粒を摘み上げられると、背筋にぴりぴりと痺れが走る。
 むず痒いような、甘い感覚に責め立てられ、思わず後ろに力を入れてしまってより一層深く抉られるハメになる。首を振って涙を散らす人形に主人は美しい顔を微笑ませた。
「孕むまで、してあげましょうね」
「………ッ、んー…っ」
 いやがるように唇を震わせたが、こぼれおちるのは嬌声だ。
 幾度となく極めさせられ、精を吹き零し、奥に放たれても満足することがない主人に貪られる。人形に許されるのはただ甘苦しく啼くことだけだった。




 逃れられるものなら、今すぐこの場所から逃げたかった。
 寵を受けた後に行われる処理。それがルシエはいつも辛くて耐え難い。
 昼の陽射しはすでにないが、月明かりに照らし出された室内は明かりを灯さずとも充分な視界を確保できる。
 広い寝台の上に載せられた細い身体も、薄いかげりも胸の粒も、浅い切れ込みから覗く襞の一枚一枚さえもを余すことなく主人の目に触れた。
「…ひ、ぃ……っ」
 花青官であるツィーツェが用意した細身の注入器から注がれる薬液の量はたいしたものではないが、ルシエの額にはじっとりと冷や汗がうかぶ。
「……、う…」
 注がれた薬液はルシエの中にしみこみ、いやがるようにルシエはかぶりを振った。
 寝台の隅に逃げようとするルシエを真向かう形で細い身体を抱き寄せたエルシェリタは、押しのけようとする腕をやんわり払いのけ優しく背を撫でた。
「さ、ルシエさま。すぐ済みますから、昼にお受けしたものを流してしまいましょう」
 ルシエの背後についたツィーツェは後ろから手を回し、腹部を撫でさする。
 腹にあるしこりのようなものを手のひらでくいくいと器用な動きで押され、ひっ、と息をのんだルシエはじわじわと込み上げる痛みが、激しくつよくなるのに手足をばたつかせた。
「あ、あ、ああああ────っッ」
 あがく体を前と後ろ、ふたりがかりで抑え込まれて喚いた。
 体の奥から薬液に溶かされたものが下りてくる。
 額に浮かんだ汗は幾筋もの流れとなって落ち、ルシエは主人の服をきつく握りしめた。
 ルシエが感じているのは痛みばかりではない。それを上回る快楽がルシエの脳を白く灼きつくし、苦しめていた。
 王族である主人の体液は人形の中に珠を孕ませる。
 花珠(はなだま)と呼ばれるそれは主人の気を補う気石の一種であり、ある程度人形の中において生み落とさせれば優れた気石となるものの、自然排泄は人形の気を損なわせるので、必要がないときは薬液を使って流す。
 花珠がもたらす痛みも壮絶な法悦も、ルシエは大嫌いだった。
「終わりましたよ、ルシエ」
「もう、や。やだ、でていけ…っ」
 脳を溶かすような絶頂感の残滓はルシエを戸惑わせ、狂わせる。ふだんは押し殺している甘ったれな部分や幼さが現れた。
 整わない息で肩を上下させながら、必死に主人の腕から逃れようとするルシエをしっかり掴まえ、エルシェリタはツィーツェが用意した薬湯を口に含んだ。
「……、ん、ん」
 抗いきれずに口移しで与えられた薬湯を飲み込み、ルシエの体から力が抜けるのを待って、エルシェリタはルシエの下肢を汚す、溶けた花珠まじりのぬめりを丁寧に拭う。主人は本来、流珠(りゅうじゅ)の処理にまで関わり合うことはない。しかしエルシェリタはいつも嫌がる顔ひとつ見せずルシエに付き合い、丁寧に処理を手伝った。主人としては珍しく、花青官に等しく人形の扱い方を心得ている。
「花珠に感じてしまうのは、人形のサガですよ。気にすることはありません」
「…、や……」
 薬湯の力に絡め取られた意識がとろりと落ちる。
 王族の人形であるルシエには、花珠もその流珠も受け入れなければならない体の仕組みのひとつであり、エルシェリタの寵を受け続ける限り逃れることは出来ない事柄だったが、それを手放しで受け入れられるかといえば、やはり違うのだった。



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