とある日の闘い
金色の頭に、呼び出した水を勢いよくぶっかけてやると、髪と同色の瞳が瞼の下から現れた。
「早く起きんか。馬鹿者が!」
「んー……?」
まだ完全に覚醒していないらしい、足元でもぞもぞと目を擦っている同僚を、辰伶は怒
鳴りつける。
「あ……おはよ……おやすみ…………」
「ふざけるなっ!!」
だが、ほたるはまたすぐに熟睡態勢に入ってしまい、腹を立てた辰伶は思わず金の頭を
手加減なしにぶん殴った。
「……ったぁ」
そこまでされてようやく、ほたるは起き上がった。
殴られた箇所を痛そうにさすり、あくびを噛み殺しながら布団の上であぐらをかく。
「なにすんだよ。コブになったじゃん」
「貴様が起きないからだ!オレのせいにするな!!」
「だって、やったの辰伶じゃん……」
「やかましい!!」
「……辰伶のほうがうるさい……朝から元気だよね」
「いいからさっさと起きんかっ!!」
顔をしかめて耳を塞ぐほたるに特大の怒声を浴びせ、辰伶は肩を怒らせて踵を返した。
「まったく、何故オレが毎日毎日……」
苦々しく奥歯を噛みしめる。
ほたるの朝は、とっても遅い。放っておけば五曜星の職務に支障をきたしてしまうほど、遅い。
そのため、同僚の誰かが起こしに行くことがずいぶん昔から決まっていたのだが、ほた
るのあまりの寝ぎたなさに降参した者が一人脱落し、二人脱落し……今では完全に
辰伶専用のお仕事となってしまっている。
要は、体のいいスケープゴートだ。
みんな薄情だ、バカヤロー。
「だいたい貴様は、名誉ある五曜星としての……」
「……」
ともかく、今日もなんとかほたるを起床させることに成功した辰伶は、日ごろの鬱憤を
晴らすべく、いつもの説教をかまそうとした。
しかし、背後に不穏な気配を感じ、嫌〜な予感と思いながら振り返る。
「……ぐー」
「……(怒)」
辰伶は、ふるふると握り拳を…………まぁ簡単に言うと、キレた。
「〜〜〜ケーイーコークー!お・き・ろ!!」
「ん〜……やだ」
辰伶は、ほたるの肩を掴んで激しく揺さぶったが、ほたるは異常なまでの執念で起床を
拒否し続けた。
辰伶の妨害をものともせず、夢の世界へ舞い戻ろうとする。
が、それを許すわけにはいかない辰伶も必死だ。
せっかく苦労して起こしたというのに、ここで二度寝などさせてしまってはその意味がない。
「でーい!起きろ起きろ起きろ起きろ起きろーーーーーーーー!!」
「あ〜、もう。しつこい……」
「起きろーーーーーーーっ!!!!!!」
「う〜……」
辰伶は、頑張った。誰が褒めてくれなくとも頑張った。
世間一般的には美人と評される顔に青筋を浮かべながらもほたるを起こし続けた。
もはや執念を通り越して、ど根性だ(←どこが違う?)
やがて、怒鳴り疲れて辰伶の声が枯れてきたころ……
「じゃあ、キスしてくれたら起きる」
「……は?」
唐突に、何の脈絡もなく、ほたるが提案した。
意味を掴みかねた辰伶は、しばし硬直する。
「キスしてくんなきゃ起きない。ぜったい起きない」
ほたるは、頑として言い放った。
辰伶はまだ固まっている。
……キス、と言ったか?この漢は。
…………
キス?……………キスぅっ!!??
「な、な、な、何を言って……」
理解した途端、辰伶の心拍数が一気に跳ね上がった。
重たそうに閉じ開きしている瞼を縁取る長いまつげや、薄い夜気の下にある滑らかな白
肌が、急に気になりだす。
……これは、マズイ。とってもマズイ。
辰伶は、身体の中の血が沸騰するのを自覚した。
だってキス!キスッ!!
ああもう!なんだってこいつはこんな無駄に色気があるんだって漢のくせにこんちくし
ょう。だいたいキスで起きるってなんだ?そういえば昔そういう話がある本を読んだ気が
するな。なんてタイトルだったか……いやそんなことは今どうでもいいだろうがとに
かくキスだキスせにゃならんのだ。まったく無邪気な顔をしやがって人の気もしらないで
襲うぞこのやろう誘っているのかバカやろう。思えば苦節×年、兄弟であるということも
言い出せずに物陰から見守ったり見守ったり見守ったり……(以下、長ったらしいので略)
つーまーりー。
男のサガといいますかなんといいますか。
ほたるのこんな可愛らしい(黙らっしゃい)姿を見せつけられちゃあ、キスまでで止め
る自信がないので、辰伶は大いに焦ったわけです。そういうことです。
朝っぱらから、そりゃマズイよな純情青年。
(ひとまず落ち着け。落ち着けオレ。何よりも、まずはこいつを起こすことが重要なんだ!決して押し倒したり脱がせたりあんなことやらこんなことやらしようなどと……思
ってるわけじゃなーーーーーーい!!)
辰伶は、残った理性を総動員して一見冷静であるかのような態度を作り出した。
ほたるの寝ぼけ眼を真正面から見据え、慎重に問いただす。
「……本当ーっに、それで起きるのか?」
「うん」
辰伶の変化に気づいていないほたるがさらりと頷くと、その拍子に寝乱れていた夜着が
肩から滑り落ち、鎖骨と薄い胸板が露になった。
「……っ!!」
それを見た辰伶が、突然腹の辺りを押さえてうずくまる。
(おおおおお落ち着けオレ!落ち着くんだーーーーーー!!)
深呼吸。そう、深呼吸だ。
すーはー……
(心頭滅却悪霊退散←?堪えろオレ、耐えろオレ!)
おお、これはきっと神が与えたもうた試練なのだ!強き壬生の戦士としてふさわしい人
間なのかどうか試されているのだ!そうに決まっているハレルヤ!(はぁ?)
辰伶は、暴走しかける漢の本能を力一杯精一杯押さえ込み、意を決してほたるの顔に接
近した。
バックンバックンと、心臓が調子にのってタップダンス踊る巨人のごとく激しく脈打っ
ている。
小作りな顔が、次第に近づき、ふっくらとした薔薇色の唇が……
チュッ。
……
…………
……………………
「さぁ、螢惑。早く起きろ!」
本当に、軽く擦れあわせただけですぐに唇を離した辰伶は、無駄に勝ち誇った気分でほたるのゆさゆさと揺り動かした。
色々あったが(←色々あったのは辰伶の頭の中)、これで約束は果たしたのだ。
今度こそ起きてもらえるはずである。
しかし、いくら声をかけても、ほたるからの反応が全くない。
不審に思った辰伶は、首を傾げてほたるの顔を覗き込む。
「……螢惑?」
「…………ぐー」
「……」
「(すやすや)」
「………………」
ほたるは、寝ていた。
そりゃもう、見事なほど熟睡していた。おそらく辰伶が(下らないことで)悩みまくっ
ていたときも、一世一代の大勝負に出た瞬間も、寝ていた。
あれだけ苦労したっていうのに!あれだけ頑張って本能押さえたというのに!
辰伶は、ふらりと立ち上がった。
座ったままの態勢で器用に眠るほたるを見下ろし、呼び出した水で作り出した舞曲水を
震える手で握り締める。
「そうか。やはりオレとおまえは、相容れない存在なのだな…」
……あ。辰伶が遠い目しちゃってます。
おーい、戻ってこーい……無駄のようですね。
ほたるは、辰伶のそんな様子など知る由もなく、ぐっすりお休み中。
「ぐーぐー……」
「……もういい」
辰伶の身体から、特大級の殺気が溢れ出す。
「ケイコク。貴様は永久に眠てろーーーーーーー!水破七封…」
おっと、お兄ちゃん。
マジで殺る気満々だ。
七匹の龍がほたるの襲いかかっ……ると思われた、その時。
「むにゃむにゃ。ヘル・クラッシュ(寝言)」
「え“っ!?」
どっかーんっ!!!!!
この日、壬生の建物がまた一つ、大破した。
そして、その瓦礫の下で……
「お……の、れ……なぜ、こんな大技が……(がくり)」
辰伶ダウン。
「ん〜……辰伶バーカ(だから寝言です)」
ほたるは何も知らず、夢の中。
本日の勝負。
辰伶の負け。
−おわれ−
執筆日:‘04年2月18日
……なんだろう?これ;
バカっていうか、変態っていうか……あー、やっぱりバカでいいや(をい)
辰伶は壊してなんぼ(断言)
相変わらず、ギャグなのに妙なテンションなのは、どうしてかしら?(つまり失敗)
序盤が文章も展開も普通すぎて、もはや別物…;
特別おもしろくもないですね。はい;
それにしても、ほたるはどうしてキスだなんて言い出したのか。
もしかして、ゆんゆんとそういうことをしていたのか?
……というわけで、即興で考えてみた遊ほたヴァージョン。こちら
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