「まっどな医者?」


作 しゅわるべ様


その女性が隣の部屋から出てきたときにはすでに別人と言ってよかった
外見が別人といった意味ではなく人格でもない・・・
まぁ外見っていえば広範囲ではあっているかもしれない

「へへへ・・・君は借金返済のためなら、なんでもやるそうだね?」
椅子に座った女性に向かって書類に書かれている内容を確認するように話す

「はい・・・そうです」

両手をぎゅっと硬く握り締めてそれでもはっきりと返事をする

「君は医者だそうだが専門は何かな?」
「私は、義体専門医です」
「ほう・・義体医師かね」

書類に書き込みながら

「さる病院では医師が不足しているので、補充要員を頼まれているんだよ」

そこで新しい書類を女性に見せ

「どうかな?義体医師を探しているそうだ」と聞く

女性がその書類にサインをするにはそう時間はかからなかった
サインをするさいにコーヒーが運ばれてきて
女性は薦められるままにコーヒーを飲んでいく
だが最後までコーヒーを飲むことなくふっと机に倒れ込んでしまう
対応していた人間は何事もなかったように悠然として
女性が完全に寝てしまったと確認できたところで内線電話を手に取った

「準備はできているだろうな?」
「では搬入して開始しろ」

そこまで話して電話を切る
女性がキャスターに乗せられて運び込まれたところは
誰がとうみても手術室にしか見えなかった
そこには手術着を着た三人の人影があったが性別は確認できなかった
全裸で手術台に寝かされて両手・両脚を拘束器具で拘束され
口にはボールギャグを入れる
完全に寝ているのに「ナゼ」と思うかもしれないがこれはここにいる者たちの「趣味」

「素体はこの女性だ」
「では今からはじめよう」

そう言ってそれぞれがEGCやEEGのコードを取り付けていく
まるで「ガレアスの戦士」のようだ
一人が腕に注射をする
徐々に薬液が体内に入っていく
それを確認した一人がバイタル数値に異常なしと声をかける
室内にはEGCの電子音がはっきりと聞こえてくる
「よし・・・これより脳の摘出と義体に埋め込むまでをやる」
医師が頭部にレーザーメスを入れていく
皮膚が焼ける不快な臭いもものともせずに頭蓋骨を剥き出しにする

「これからが時間との競争だ」

みな頷く

「臓器移植チームには連絡は行っているな?」
「ならいつものように心臓からやるぞ」

胸部から腹部にメスが走る
手術と言っても「臓器摘出」なので出血が多くても一切きにしない


「うまく人工心肺に繋がったな?」
「はいOKです」
「スタートさせてこれからは全部生理食塩水にしろ」

まだ健康な心臓を切除して保存液が満たされた金属容器に入れられ
急いでその容器が運ばれていく
肺・肝臓・腎臓・小腸等がまるで解体されるように抜き取られていき
身体は空洞になっていた
その手術と平行に頭蓋骨をノコギリでゴリゴリと切断
脳をむき出しにする
そこで用意した「生命維持装置」に「脳」を入れる
これは頑丈な作りになっていて
そうそう簡単には壊れないようになっている
慎重にマニュピレーターを操作して脳を頭蓋骨から抜き取って
脳幹に生命維持装置からの様々なコードを差し込んでいく
このコードは「脳」の電気信号を義体制御用PCに送るためのコードで神経に相当するコード
脳を慎重に生命維持装置に収め人工血液と人工栄養剤入りの薬液で封入
これで「脳」は取り出すことは出来なくなる
蓋は永久結合の部品で作られているからだ
もっとも
薬液の交換は出来るようにバルブは取り付けられている
そのバルブは「乳房」にあり「乳首」から母乳みたいに出てくる・・・
ちなみにこの人工血液などの薬液は「母乳そっくりの色」
交換は搾乳機で吸出して新たな薬液は後頭部のバルブから入れる
新しい身体はこの女性のすべてにおいて「そっくり」に作られている
理由は「精神異常」を回避するため
目が覚めたら・・・混乱し錯乱するからだ
「ヒト」だった頃と同じ「身体」
違うのは「機械」の身体になったこと
「脳改造」はこの時代ではまだ完成しいない
「洗脳」は技術はあるがこの女性には施されていない
理由は「義体医師」だから「この技術を失うことが」怖かったからである
全てを受け入れて

「自らの意思で」

「義体化(強制)手術」を施すまではそう時間がかからなかった



おわり



  


しゅわるべ様から補足説明を頂きました


ECG・EKG 心電図
EEG     脳波図
 
「ガレアスの戦士」とは?
「Galen Warrior」
身体にたくさんの金属を埋め込んで治療を受けている患者
 
では「ガレアス」とは?
ローマに在住したギリシャの医学者・科学者130〜201頃
 
「英和メディカル用語辞典」より