「鹵 獲」
作 えりゅ様
一人の男が部屋に入ってきた。
この部屋はどうやら研究室らしい。様々な機器が所狭しと置かれている。
「お待ちしてました。大佐」
部屋にいた一人が、入ってきた男に声を掛ける。
「問題のブツはどれかね?」
大佐と呼ばれた男は訊く。
「こちらです」
大佐を壁際まで案内する。
そこには全裸の女性−というより少女と呼べそうな若年の娘が、
背中をこちらに向けて立たされている。
彼女に反応は無い。
その状態で眠らされているのだ。
露わになった身体のあちこちに、
まるで心電図でも採るかの様に数多くのコードが貼り付けられていた。
そして、身体には縦横に規則正しくスジが入り、
何よりも背中には昆虫を思わせる半透明の羽と
お尻には黄と黒の縞状のタンクらしき物、
その先には金属質の鑓が光る。
この事から人の姿をしていても、
人とは明らかに違う事を物語っている。
全体のフォルムはそう、蜂だ。
昔の特撮番組において悪の怪人として出てきた
蜂女
−それが最も適切な表現と言えた。
「人型強行偵察機 FFRV-008 ホーネットです。
やっと捕獲出来ました。
我々はこのスズメバチにさんざん煮え湯を飲まされましたからね」
「まったくだ・・・」
大佐も彼女をしげしげと眺める。そして、ある一点に目が止まった。
「こんな物まで付いているのかね?」
彼の視線は股間部に注がれていた。
そこには少女らしいワレメがある。
「ええ、そうなんですよ。この部分にガンカメラが収められています」
案内の職員は平然と答える。
「まったく、若い娘を兵器に改造するだけでも外道だというのに、
全裸な上、わざわざ性器にカメラを内蔵するとはな!
奴らの頭はどこまでイカれているんだ!
戦いを何だと思っている!」
大佐は自分の言った事に高揚していた。
「我々の士気低下を狙ってかもしれません。
娘が素っ裸で飛んできたら誰でも驚きますから」
「たしかに一理あるな。しかし、それにしても酔狂すぎるぞ」
大佐はまだ興奮している。職員は話題を変える為に切り出す。
「それで・・・やはり解体して調査をなさるおつもりですか?」
「当然だ。奴らの秘密兵器について知っておかねばならん。
特に飛行ユニットと、尻についたレーザー砲は入念にな。
それから、脳ユニットと生命維持装置に手を掛けるのは禁ずる。
殺してはならない。
彼女が無残に改造されたサイボーグであっても、
一人の人間として尊重しなくてはな。
外道な奴らと違って、我々は紳士的に行こうではないか」
「わかりました。その方向で至急手配します」
「うむ、頼む・・・」
大佐はそう言いかけて黙った。何か考えが浮かんだらしい。
「なあ、首から上だけを自由にして、娘を覚醒させる事は出来るかね?」
「それは可能ですが、どんな意味合いで?」
「娘に自分の身体が解体される様を見せつけさせようと思ってな。
殺すのはまかならぬが、それくらいのお灸を据える事は必要だろう」
「なるほど、それは良い考えです」
職員もニヤリと笑って同意した。
やがて、準備が全て整い、彼女は覚醒する。
「ココハ ドコ?」
「此処は君にとっては敵にあたる側の研究所だよ。
君は捕えられ、此処に連れてこられたのだ」
「!!」
職員の説明に彼女は焦る。
更に身体の自由が全く利かないのが解ると、その焦りはいよいよ激しくなる。
「ワ、ワタシヲドウスルツモリ?」
「これから君を研究の為に解体する。
君には自分の身体がバラバラにされるのを見てもらうよ」
「イ、イヤッ! ソンナノミタクナイ!
オネガイデス。
ドウカタスケテクダサイ・・・」
焦りまくる彼女に対し、職員の応対は極めて冷徹であった。
その対比が滑稽にも思えてくる。
「今更遅いんだよ・・・」
その一言を合図に各種ツールを着けたアームが降りて来て、彼女を取囲む。
一つのアームがスジで囲まれた彼女の人工皮膚の一角を剥ぎ取り、
内部メカを露出させると、
続いて別のアームが更に奥に侵入する。
こうやって彼女の身体は少しづつ解体されていく。
「イヤー! ヤメテ! ヤメテヨウ!」
機械の身体でも痛みを感じるのだろうか?
そんな考えを吹払う様に、
彼女の悲鳴はその機能が停止するまで続いた。
後日、研究を終え元に戻された彼女は、整備されて飛び立っていく。
改心した彼女は、かっての味方に反撃する為の尖兵となって・・・
おわり