「少子化対策」


作 市田ゆたか様


「ピッ。アナタモ、アシタデ17サイデスネ」

「そうね、ママ」

「由香里ももうこんな年か。寂しくなるな」

「何言ってるのよパパったら。ちょっとに改造に行ってくるだけじゃないの」

「ピッ。キョウハ、ゴチソウヲ、ツクリマシタ」

「そっか、ママの料理が食べられるのも今日で最後だもんね。ありがと、ママ」

「ピッ。コノリョウリハ。ワタシノ、サイゴノショクジヲ、サイゲンシマシタ」

「大丈夫か、不安はないか」

「平気だってば。パパって心配性ね。クラスの友達も半分ぐらい経験してるんだから。
誕生日を過ぎても生身のままだったら笑われちゃうわ。
ロボットにならなきゃマスターを持つことができないじゃないの。
人間として最後の食事なんだから、じっくり味あわせてよ」

「ピッ。マダ、アシタノ、チョウショクガ、アリマス」



翌朝、由香里が登校すると、クラスメートが口々に声をかけてきた。
クラスの女子の約半分はロボットで、
ほとんどは学校の制服である紺色のブレザーをかたどったメタリックブルーの金属製の外装をしており、
一部は別のボディーの上に制服を着ていた。

「いよいよ改造ね。由香里はどんなロボットになるか決めてるの?」

「由香里は誕生日が早くていいなぁ」

「ユカリサマ。ステキナろぼっとニナッテクダサイ」

教室の扉が開いて男性教師が入ってきた。

「こら、騒ぐんじゃない」

「ハイ、センセイ」

女性型ロボットは声をそろえて動きを止め、着席する。
一呼吸遅れて、男子生徒とまだロボットになっていない女子生徒が着席した。

「もう迎えが来ているぞ、早く行きなさい」

「はい先生。それじゃあみんな、またね」

由香里は手を振って教室を出た。



扉の外にはナース型ロボットが待機していた。

「ユカリサマ、デスネ。ワタシガ、アナタノカイゾウヲ、タントウイタシマス」

ナースロボに促されて由香里は学校の保健室に向かった。
保健室の奥の通常は立ち入り禁止となっている場所に、
2メートルほどの高さの銀色の金属製のカプセルが並んでいた。

「ホンジツノ改造対象ハ、アナタダケデス。少子化対策法第18条ニヨリ告知シマス。
少子化対策法第3条ニヨリ、18歳以上ノ女性ニハ出産オヨビ育児ノ義務ガ課セラレマス。
コノ義務ハ、第4条ニ定メル次ノ方法ニヨリ遂行サレル必要ガアリマス。
第4条、4人ヲ出産シ成人スルマデ少子化対策税ヲ支払ウコト。
第4条第2項、17歳ノ誕生日カラ18歳ノ誕生日ノ前日マデニ子宮オヨビ卵巣ヲ出産装置トシテ提供シ、
身体ヲ育児装置トシテ提供スルコト。
コレニヨリ、4人ヲ成人サセルマデ人権ガ停止シ、税ノ支払イヲヲ免除サレマス。
施行規則ノ説明ハ必要デスカ」

「ええ、わかってるわ。学校で習ってるから規則の説明はいりません。あたしは第2項を選びます」

「コノ改造ニ際シテ、アナタニハ改造後ノたいぷヲ選択スル権利ガアリマス。たいぷヲ、エランデクダサイ」

そういってナースロボは大きなディスプレイを見せた。

「標準学生タイプ2号にするわ」

由香里は一覧の中からロボットを選んだ。

「ガクセイたいぷノバアイ、ソツギョウスルマデ、コノスガタヲヘンコウスルコトハデキマセン。ヨロシイデスカ」

「いいわよ。友達はみんなこのタイプになったんだもん」

「ソレデハ、スベテノフクヲ、ヌイデクダサイ」

由香里は制服のブレザーとスカートを脱いだ。

「スベテノフクヲ、ヌイデクダサイ」

ナースロボが繰り返した。
由香里はまだ着ていたシャツとパンティ、そしてブラジャーを全て脱いだ。

「コチラニオハイリクダサイ」

壁に並んだカプセルの一つのふたが開いた。

「リョウテトリョウアシヲ、キテイイチニせっとシテ、ショウメンヲムイテクダサイ」

カプセル内のくぼみに両足を入れ、両手を側面に触れると、手首と足首を金属製のリングが固定した。
正面を向いたところで、両耳をヘッドホンのようなパッドで挟まれて頭部も固定された
ナースロボは由香里の胸、額、両腕、両足の太ももにバーコードの印刷されたシールを貼り付けていった。



カプセルのふたが閉じ、内部は闇に閉ざされた。
低い機械音とピッ・ピッという規則正しい電子音がカプセル内に響いた。
電子音は心臓の鼓動と同期していることに由香里は気づいた。
足元からねっとりとしたゼリーのような液体が充填されていった。
頭部まで達した液体を吸い込んで、由香里は一瞬咳き込んだが、
授業で習った特殊プラスティック溶液だと気が付いて安心した。
由香里はしゃべろうと口をパクパクさせたが、液体に満たされた中では声を出すことは出来なかった。
細胞に浸透した溶液はゆっくり硬化をはじめ、由香里の呼吸は止まったが、
不思議なことに苦しくはなく意識ははっきりしていた。

『びっくりしたけど、授業で習ったとおりだわ』



「ソタイカクホカンリョウ。ユソウカイシ」

ナースロボがそういうと、壁の一部がスライドした。
そこは駐車場になっており、小型のトラックが止められていた。
クレーンによってカプセルが持ち上げられ、荷台にセットされるとトラックは自動的に走り出した。



工場に到着したカプセルは、コンベアにセットされてラインの中を流れ始めた。
溶液が排出され、ロボットアームによって由香里の硬化した身体が取り出された。
レーザーカッターによって、手足が胴体から切り離され、それぞれ別のラインに流れていった。
首も胴体から切り離されたが一滴の血液も流れ出すことはなかった。
両耳をパッド挟まれたまま、由香里の頭部は別室へと運搬されていった。

『すごいわ、首を切り離されたのに、あたし生きてる』

やがて運搬が止まり、レーザー光線によって額のバーコードがスキャンされた。
ロボットアームによって首の切断面に金属製のリングが溶接され、四方からパイプが伸びて、リングに接続された。
無数の小型マニピュレーターが首の下から配線を送り込んでいった。

「栗山由香里様ですね」

「はい…あれっ。どうなってるの」

由香里は、自分の声が室内のスピーカーから聞こえたので少し驚いた。

「ボディの改造は完了しました。間違いがないかご確認ください」

目の前にロボットの胴体と手足が運ばれてきた。
ボディは学校の制服をかたどったメタリックブルーのブレザー型の外装が鈍く光っており、
胸元には赤いプラスティックのネクタイ状のパーツが取り付けられていた。
両腕も長袖をかたどったメタリックブルーの金属になっており、
袖口から先はマネキンのような肌色のプラスティックの手となっていた。
両足もプラスティック製になっており、くるぶしから先は黒い靴をかたどったパーツとなっていた。

「間違いないわ」
「それでは、頭部を改造します」

レーザーが額から耳を固定したパッドの下を通って後頭部に回り込んで頭部を一周し、
パッドにはさまれた頭皮が持ち上げられると、半ばプラスティック化した脳が現れた。
首から下と同様にたくさんの小型マニピュレータが脳にさまざまな部品を埋め込んで行き、
またたく間に電子頭脳が出来上がった。

「これより眼球を改造します」

眼球が取り出され、網膜のかわりに受光素子が、
視神経のかわりに信号ケーブルが取り付けられて、再び戻された。

「カメラアイは正常ですか」

「あ、はい。ちゃんと見えてます」

由香里は小さなモーター音をさせながら視線を左右に動かした。



「これより意識をコンバートします」

電子脳にいくつも取り付けられたパイロットランプが激しく点滅を繰り返した。

「いよいよ、ロボットになるのね…
あっ…だんだん…眠く…………
コンバート中です……コンバート中デス
……こんばーと中デス」

由香里のせりふは次第に単調になって行った。

「ピッ、こんばーと完了シマシタ。ワタシハ、P371-259-1288 クリヤマ・ユカリ、デス」

「P371-259-1288、問題はありませんか」

「ハイ。スベテノ頭部しすてむハ正常ニ稼動シテイマス。ぼでぃカラノ信号ヲ検出デキマセン」

電子脳からマニピュレータが離れ、頭髪を模したヘルメット状の外装がセットされた。
四方を支えていたパイプから首のリングが切り離され、再び耳の両側から支えられる形になった。
首からのケーブルはコネクターをつけられ、ボディに向かって運ばれていった。



ボディに手足と首が接続され、ロボットは完成した。

「全しすてむ正常デス」

「それでは、学校に戻りなさい」

「ピッ、了解シマシタ」

ユカリは、ふたたびカプセルに入ると、カメラアイを閉じた。

「ピッ、輸送もーどニハイリマス」

カプセルのふたが閉められ、再びトラックに積み込まれた。



トラックは学校につくと、カプセルは保健室に戻された。
カプセルのふたが開き電源が入れられると、ユカリはゆっくりとカメラアイを開いた。

「ピッ、P371-259-1288 クリヤマ・ユカリ、起動シマシタ」

「おかえり、由香里」

友人の真由美が声をかけた。

「ピッ、タダイマモドリマシタ。マユミサマ」

「ねえねえ、ロボットになるってどんな感じだった」

「ピッ、授業デ学ンダコトト同ジデシタ」

「それじゃあ、ロボットになったお祝いをしなくちゃね」

「アリガトウゴザイマス。マユミサマモ、早クろぼっとニナッテ、りんくシテクダサイ」

「わかってるわよ。あたしの誕生日は来月だから、もう少し待っててね」

「ハイ、マユミサマ」

ユカリは、真由美に従って歩き出した。


おわり