「はぁ・・・んん・・・はあ・・・」 響はベッドの上でその体躯をくねらせて、甘い吐息を吐き出していた。その足の間には咲斗の頭が挟みこまれて、ねっとりとした舌の愛撫に響はたまらずに腰を揺らしていた。 こぼれだしている蜜の出口を塞ぐように舌の先でくにゃりと押されて、思わず腰が浮き立つ。 「・・・ひ・・・っ・・・、あ・・・ぁ・・・」 今にも放ってしまいそうな刺激に、ねだるような甘い喘ぎが漏れる。到底じっとなどしていられない。 その揺れる響の後ろに手を回して、そこに指が押し当てられる。 「あっ・・・」 腰を引く余裕もなかった。咲斗の指が、指につけたジェルの助けを借りてゆっくりと押し入ってくる。いつまでも慣れない最初の異物感に響が眉根を寄せても、咲斗は指を止めることはせず、そればかりか2本に増やして、中をゆっくりと掻き回していく。 「・・・ぁ・・・っ、ああ・・・・・・」 ぞわりと、背中が震える。その刹那、咲斗がクスリと笑って、奥の一点を探り出した。こりこりとその部分を押すように刺激してくる。 「やぁっ・・・、ああぁっ」 違和感は消えて、見知った快感が少しづつ響を支配していく。甘い、快感に濡れる声が自然と上がる。 「ん・・・、はぁっ、・・・咲斗、さん・・・」 響はたまらず咲斗の髪に指を絡める。 「だめ・・・出・・・っ・・・」 快感が押し寄せてきて、解放の時を咲斗に告げようとした響を、咲斗は口から離してしまった。もう少し、そんなところで止められた刺激に、響は赤くうるんだ瞳を咲斗に向ける。 絶えるように寄せられた眉間に、濡れた瞳が色っぽさを漂わせていた。 「明日、携帯買いに行くからね」 咲斗が少しキツい瞳で響を見下ろした。 「昔付き合ってた女に買ってもらった携帯をまだ使ってるなんて、信じられないっ」 「だからっ・・・だから、謝ってるじゃん」 あまりに機嫌の直らない咲斗の態度に、響が少し声を荒げる。 あれは高校生だった頃、携帯を持っていなかった響に当時付き合っていた彼女が連絡を取れないからとう理由でプレゼントしてくれた携帯。響は今の今までそれを使っていたのだ。 「服とか、アクセとかでもないよね?ほかにあるなら、捨てるから」 「何言ってんの。今着てるのなんて、ほっとんど咲斗さんが買ったやつじゃんっ」 「・・・なら良いけど」 響の言葉に咲斗は少し機嫌が直ったのか、指を響の胸の辺りから腹の辺りへとさまよわせ出す。 今の響にはそれすらも刺激となってしまうのに。 「同じ会社の同じ機種にしようね」 その物言いは、すでに質問系ではなく断定系で言われていて。電話番号を代えれない咲斗は電話会社を変えることは出来ないのだから、必然的に響が合す事になるのだが。 「いいよねっ!?」 その拗ねたような顔がかわいいなんて、快感に支配されていく頭の隅で思う。いつもは大人ぶった咲斗がこういう時は子供っぽく見えて、少し優越感に浸ってしまう。だから、失言。 「いいよ・・・仕方ないな」 「仕方ないって何!?」 からかう様に言った響の言葉が気に入らなかったらしく、咲斗が目をキリっと吊り上げて入れたままの指を少し乱暴にかき回した。 「ひぃっ・・・あ、やぁ・・・ちょっ・・・ああぁ・・・・・・」 いきなりの刺激に響の身体が跳ねて、再び喘ぎ声が紡がれる。 「あんな女じゃ出来ないくらい、よくしてあげるよ」 「はっ・・・あっ、――――もう、・・・っじゅうぶん・・・」 不適に宣言する咲斗に、十分に嫌な雰囲気を感じ取った響が一応言ってはみるけれど。当然咲斗が聞き入れるはずもない。 「まだまだ」 にやりと笑って、指を引き抜く。 その喪失感を味わう暇もなく、今度は咲斗自身が押し当てられて。 「はぁ―――っ・・・」 熱を持ったものが、慣れた仕草で響の中へと入ってくる。絡みつくような粘膜をゆっくりと押し上げていく。 「・・・あぁっ・・・っ・・・」 内臓が迫り上がるような圧迫感に、声が漏れる。響は無意識に掴む物を探して咲斗へと手を伸ばす。しっかりと肩を掴んで、爪を立ててしまう。 ずずっと奥まで入ってくる質量に、シーツに寝かせた背中が浮き上がる。 「・・・・・・っ、さきと、さん・・・」 「――――入ったよ?」 まだ、動かないで。声にならずにそう願うのに、咲斗はくすりと息を吐いて、試すように軽く腰を揺らした。 「ああっ・・・、っ」 途端に響の胸がピクリと反応して。赤い印は硬くとがっている。 「・・・あの女と隠れて会ったりしたら、俺はどうするかわかんない・・・」 今でも未練のありそうな女の瞳。あのうれしそうに去っていく後姿。それを思い出すだけでも腹が立って、頭の芯がカッとなってくる。 自分は響と手をつないで一緒に歩いたりできないのに、きっと昔の響はあの女とそうして街を歩いていたんだ。そう考えるだけで苛立ちが押さえられなくて、待つことも出来ずに腰を揺すってしまう。 「さき、とさんっ・・・て、ばかだろ?――――そんな、ああっ、こと・・・するわけないっ・・・ぁぁぁ」 明らかに好き勝手してるくせに、不安そうに、今にも泣き出しそうに見える咲斗の顔に、響は思わず苦笑を浮かべてその手を伸ばした。 そっと、咲斗の頬に触れる。 「もし、どうしても会う必要ができてしまっても、ちゃんと咲斗さんに言ってからにするから」 いつまでたってもくだらない心配ばかりしている咲斗のほっぺを、響はぷにっとひっぱった。そのかわいらしさに、響は思わず、小さく噴出した。 「・・・っ」 どうもそれが勘に触ったらしい。いや、目の端が朱に染まっているところを見ると、照れ隠しなのかもしれないが。 咲斗は怒ったような顔を作って。 思い切り腰を引いた。 「ああ―――っ!!」 そして、奥へとたぎった熱が突き上げられる。また引かれて、突き上げられて。 「ん・・・っ、ああぁ・・・っ・・・、あああっ」 後ろをいっぱいに満たすものが、激しく出入りを繰り返し、中を擦り上げていく。叩きつけられて、身体がどんどんずり上がっていく。 中途半端な刺激が繰り返されていた響は、その激しさに堪えることも出来ずに一気に高みへと追いやられていく。 大きく腰を回されて、響は一瞬溺れてしまうような錯覚にとらわれる。変な浮遊感に咲斗の背中に手を回そうとすると、熱い身体が重なってきた。 咲斗の息遣いが耳に届く。 「ひぃっ・・・いい・・・っ、あああぁぁぁ」 何を口走っているのかも、すでに分からない。 「ああああぁぁ・・・・っ、・・・っく―――・・・・・・」 大きく背中がしなって。自分が放ったのが響にはわかった。すでに馴染んできている快感が、全身を駆け抜ける。 その瞬間、身体の奥に咲斗の熱を感じた。 快感に、意識が少し遠のいて。ずるりと引き出される感触に、背中が震えた。無意識に咲斗の身体を響は引き寄せて、咲斗もまた崩れるように響の身体に覆いかぶさって、抱きしめる。 互いの熱い鼓動を感じる。その音に安心して、少し意識が遠のくのに。 きっとこのまま眠りに付けたら、いい夢がみられる・・・そんな風に思えたのに。 「まだまだ、だよ」 響の耳元で、咲斗が笑って、まだ夜が終わらない事を告げられた。 ・・・・・・・ 「えーっと、ではお客様。こちらのタイプでよろしいですね?」 店員が携帯を手のひらで指し示すと、咲斗の顔に満面の笑みが広がった。 「はい」 咲斗が選び出したのは、今流行りのテレビ電話が出来るやつ。黒のボディもかっこいい最新型の人気のタイプらしい。 「では、こちらデータはそのまま移してよろしいですね」 「はい、お願いします。響もそれでいいよね?」 「うん。っていっても、俺のはそんなないはずだけど」 「そうなんですか?まぁ、とりあえず全部写しておきますので」 店員はにこやかに笑って響と咲斗の携帯を預かった。出来上がるまでに30分ほどかかるとわれて、二人は近くのカフェでお茶をして待つことにした。 「俺テレビ電話とかしないよ?高いし」 「いいよ。俺からするから」 窓際の日の当たる席に座って、カフェオレをすする響の顔は少し不満気だ。それもそのはず。響はもっと安いので良いと言ったし、テレビ電話なんて機能必要ないと言ったのだ。 「・・・もう」 それに機種だって別に最新じゃないくて、新規なら0円のだってたくさんあるから、それで良かったのに。 『あの女には買ってもらって、俺には嫌なの?』 なんて言われれば、嫌だといえるはずもなくて、結局押し切られてしまったのだ。 「だって、顔が見たいって時にすぐ見れるんだよ?」 「・・・毎日顔合わすじゃん」 朝だって咲斗の顔を見て目が覚めて、寝るときだってその身体を抱きしめあって寝ているのに。これ以上顔がみたいもないもんだと響は思うのだが。 「響は俺とお揃いの携帯、うれしくないんだ?」 ぶつぶつと文句を言っている響に、咲斗は拗ねたような視線を送ってくる。 そのいじけた感じが、演技なのか本気なのか響には到底はかりかねて、しかもそういう顔はなんだか可愛いものだから、ため息をつきつつも響が折れてしまう。 「それは、うれしいよ」 「ほんとに?良かったっ」 途端に機嫌よくなる仕草に、やっぱり騙された―――と、響は深く息を吐くのだが。こればっかりは何回やられても、学習出来ないのだ。 まぁ、もう今更ぶつぶつ文句を言ったところでどうにかなるものでもないと響はなんとか自分に言い聞かせて、あったかいカフェオレをごくりと飲んだ。 咲斗と付き合う様になって、響はいろんな意味で大人になったといえるだろうか。 そして30分と少したってお店に戻ると、先ほどの店員が笑顔で出迎えてくれた。カウンターには紙袋が二つ置かれてある。 「お待たせいたしまた。こちら出来ております」 「ありがとう。こっちが俺?」 「はいそうです。で、コチラが冬柴様のものですね」 「ありがとうございます」 響は店員に手渡された携帯を眺めた。眺めて少し照れて、耳がほんのりと色づいた。が、そんなことには関与する気はない店員は再度笑顔で響を見上げて。 「そうそう、先ほどデータはそんなにないとおっしゃっていましたが結構あったみたいですよ。転送に時間がかかっておりましたから」 「―――え?」 「これを機会に一度整理されるのもいいかもしれませんよ。皆様結構何気なく写真など撮られているものですからねぇ。気づかぬうちに凄い量が溜まってた、何てこともございますから」 「はぁ・・・どうも。そうしてみます」 店員の言葉に、さて何か電話とメール以外に使っただろうかと首をかしげて。 ――――またも背中に嫌な汗が流れた・・・・ 響がチラリと咲斗を盗み見ると何食わぬ顔で紙袋を受け取っている。出来れば、このまま仕事に行ってくれればその隙に携帯の中を整理してしまえるのだが。 時計は咲斗の出勤時間に微妙にさしかかろうとしている。 「では、この度は誠にありがとうございました。また何かございましたいつでもお立ち寄りくださいませ」 「ええ、ありがとう。――――行くよ」 紙袋を二つ持った咲斗が響を促した。響は慌てて咲斗からか紙袋をひとつ取り上げて、店員に頭を下げた。 「響」 「なにっ?」 店を出て数歩。咲斗が響を振り返った。その顔はいつもの通り笑顔で、響はホッと胸をなでおろした。きっと、このまま仕事に行くから、とでも言うのだろうと安易に考えていたのだが。 「さっきのカフェにもどろっか」 「え・・・・・・なんで?」 「だって、携帯の中身、チェックしなきゃいけないでしょ?」 そのときに咲斗の笑顔に響は、地獄の閻魔様に微笑まれてもこんなに恐いとは思わないに違いないと思ったのだった。 |