箱根一泊温泉旅行 2


「あぁ〜、広いね」
 部屋に案内されるなり咲斗は満足そうにそう呟いた。8畳ほどの和室は二人では十分の広さだった。さらに窓際は木の色も美しい板張りで、そこにも庭が眺められるようにと椅子が置いてある。
 窓の景色をのんびり眺めるには絶景の場所。
「あれ・・・」
「ああ、露天風呂付きなんだよ」
 響の指し示した方に視線を向けると、客間の窓間から小さな檜の露天風呂が見えた。
「御2階には大浴場と露天風呂もございますので、そちらもお楽しみくださいませ」
「あ、はい」
 案内してくれた上品そうな仲居さんは笑顔で言うと、そそとお茶を注いで二人の前に置く。
「お荷物はあちらへおかせていただいております。館内をくつろいでいただくため、浴衣をご用意しておりまして、こちらの中に入ってございますでお使いください。タオルなどは洗面所に。大浴場にもご用意しております」
「わかりました」
「お夕飯のお時間のご希望はございますか?」
「そうですね、6時で。ああ、連れ達とここで一緒に食事をしたいのですが出来ますか?」
「わかりました。そのように準備させていただきます」
「お願い致します」
 咲斗がてきぱきと仲居と話を進めるのを聞き流しながら、響は窓辺から外の木々を見つめていた。
 ―――――どーみたって、高級旅館じゃん・・・
 しかし、その心の中は穏やかな景色とはだいぶ違うものがあるようで。
 ―――――ツテって・・・誰だよ・・・っ
 もしかして昔、その相手とここに来たことがあったりするんじゃないのかなんて、響の心の中はぐちぐちと漣だっていた。
「響?」
 ―――――うぅ〜〜〜
「きょーお」
「うわっ」
 いきなり後ろから抱きつかれて、響は驚きに変な声を上げた。
「どうした?ん?」
 耳元で響く、窺うような声がさらに疑惑を増幅させる。
 湧き上がった黒い気持ちは、中々簡単には消えてくれないもの。
「・・・別にっ」
「べつにって感じじゃないけど・・・、ここ気に入らなかった?」
「・・・べつに」
「お料理も美味しいらしいし、いいと思ったんだけど」
「いいんじゃないの?」
 どうも不貞腐れた気分が拭えない響は唇を尖らして、抱きついてくる咲斗の腕の中からすり抜けようと身体をよじった。
 しかし――――――――
「だめ」
「咲斗さん!?」
 ビクともしない。
「何を考えてるか言いなさい」
「・・・・・・」
 優しい命令形。
 だからますます強情になってしまう。
 だって、その優しさに甘えてしまうから。悲しく思う分だけ意地を張りたくなるのだ。
 取り返す事なんて出来ない過去に、嫉妬して。
「響?」
「んっ」
 耳に息を吹きかけられて、軽く噛まれて響の身体が反応してしまう。
「口を割らせて欲しいの?」
 抱きしめてくる咲斗の腕に、響の爪が立てられる。でもそれは痛みを伴うようなものじゃない。無意識の、甘える仕草。
「ぁんっ」
 首筋に唇を感じて、ツキンつ吸われた。
「お風呂入ってからってって思ったけど、いいか?」
「ダメ――――」
 咲斗の指が薄い衣服の上から響の身体をゆっくり辿って下へ滑っていく。その指を止めなくてはと思うのに、甘い快楽を求めてしまうソコは、ドクっと脈打って熱くなっていくのが自分でも分かった。
「だめ?」
 咲斗もそれはわかっているのだろう、止める気などさらさら無い様だ。
 スルリと前を外されて忍び込んだ指先が、響の尻を直に撫でていく。割れ目に指を這わされて、響の身体がビクビクっと震えた。
「咲斗さんっ」
「言いなさい。―――――何考えてたの?」
 指が、ソコを擦る。
 いつも受け入れてる、そこを。
「っあ――――」
 もう一方の指が、起った乳首をこりこりっと潰した。
 思わずくねらせてしまった腰の動きに、咲斗の指先は入り口を行ったり来たりして焦らす。それだけでじんわりとそこが濡れてくるんじゃないかという錯覚に響は囚われて、思わず唇をきゅっと噛む。
「ココ、欲しそうだけど?」
 ヒクヒクしてるし?と耳元で囁かれても否定出来ない。
 こんな所でダメだと思うけれど、火が付いた身体は勝手には納まってくれないのを響は嫌と言うほど知ってるから。
「響、何を考えてた?」
「あっ、・・・ツテ――――っ」
 意地っ張りな口は、結構意気地が無いらしい。
「ツテ?」
 ズボンがぱふっと落ちて足首に絡まった。
 その事に気づかないで最後の足掻きの様に暴れようとして、響は思わず前のめりに倒れそうになる。それを咲斗は利用して、窓サイドに置かれた小さなテーブルに響を押し付けた。
「あぁっ」
 ひやっとして感触が響の頬や胸を襲う。
「ツテがどうした?」
 押し付けた身体をなぶるように咲斗は響の勃ち上がり掛けたモノに指を絡めていくと、咲斗の指の刺激にさらに硬さが増していく。
「って、誰だろって――――ああっ」
 咲斗がクスっと笑った。
「誰だと思った?」
 軽い口調が悔しくて響が首を横に振ると、言いなさいとばかりに手のひらで擦りあげた。
 先端を揉む様にされて、くちゅっと濡れた音がして既に濡れ出している事を知る。
「っ――――ダメ・・・っ」
「だめ?止める?」
「ああ、ダメェ――――っ」
「じゃあ言いなさい。言わないならずーっとこのままだよ?」
 巧みな指は、確実に響を追い上げていく。
 弱いところを知られている響に抗う道は少なく、響の口からはきれぎれに甘い声が洩れていく。
「ん?」
「あぁ・・・、っお客、さん・・・かなって・・・・んんっ」
「それで?」
 嬉しそうな顔で咲斗は響の首筋にもう1度キスを落とす。
「ここにも、・・・一緒に、きた・・・・・・っん、のかな・・・ぁぁ、って」
 甘い嫉妬の告白は、なんて甘美なものだろうと咲斗はうっとりとした顔で響を見つめた。
「バカだな。ここの事を教えてくれたのは上條だよ」
「かみじょう・・・、上條ってあの・・・?」
 予想外の名前だったのか、響が僅かに首を巡らして咲斗を見上げた。
「そ。何か無いかなぁ〜って話が出てね。ここを勧められたんだ。キャンセルが出たとかで運も良かったけど」
「ほんとに?」
「嘘ついてどうすんの。そんな事言う子にはお仕置きが必要かな?」
「あ・・・んん・・・ふぅ・・・・・・」
 お仕置きの言葉に慌てて起きようとした響の唇を咲斗が無理矢理唇で塞ぐ。そのまま身体を反転させて、抱え上げた。
「咲斗さん!?」
 足を大きく割り開いた格好で抱え上げられて、響が赤い顔で抗議する。
「だって、ここで最後までするのは流石にまずいしね。場所を移そうかと思って」
「場所って」
 歩き出す咲斗に響は慌てて咲斗の首にしがみつく。まだ咲斗の衣服は乱れてなくて、自分だけが半分脱がされてる状況に顔は益々赤くなるが、それ以上に感じる咲斗の熱に心臓は跳ねた。
 何度もして、今更なのに―――――――――
「あ・・・・・・」
 外の、檜の上に降ろされた。
 見上げて見た咲斗は艶っぽく笑って、自分の服を脱ぎ捨てた。感じている身体も何もかも、隠そうともしなくて、鍛えられた美しい体躯が響の瞳にさらされる。
 見慣れたその背中に、爪の跡を見つけて響は思わず頬を染めた。
 自分が付けた、傷だと知ってるから。
「うわっ」
 ぼーっと咲斗の身体に見とめれていたら、勢いよく捻られたコックによって、温かなシャワーが響の上に降り注いできた。
「身体を洗ってあげるよ」
「え、うわっ!!」
 満面の笑みの咲斗に、響は完全に押し倒された。シャワーの雫が咲斗の背中に跳ねて、水が咲斗の身体をつたい流れ落ちてくる。
 床は檜だし、お湯が降り注いでいるので寒くはないけれど。
「咲斗さん」
 やはり外でこの体勢は、と思わないでも無くて声を上げると笑みで黙殺された。その咲斗の手にはいつの間にか石鹸が握られて、楽しそうに笑いながら両手で泡立てた。
 宣言通り洗うらしい、手で。
 それを想像して、響の身体は理性とは反対にむしろ、熱くなっていく。
「ふっ・・・ぁぁ」
 泡が響の胸を隠した。そのまま咲斗の手はわき腹へと伸ばされると、快感とくすぐったさに響が身体をくねらせた。
「ああん」
「はい、ばんざーい」
 両手を頭上に一くくりにされて、咲斗の手のひらが響の腕を滑って泡まみれにしていく。しかし、シャワーによって、泡は留まる事無く直ぐに流されていってしまう。
「ん・・・んん・・・はぁ・・・・・・っ、ふぅ・・・」
 甘噛みのような優しいキスが落ちてきて、響は思わず離れていこうとする咲斗の唇を追いかけてしまう。けれど、身体を縫いとめられて上体を起こす事は出来なかった。
 そのまま咲斗の指が、胸を弄る。
「ここはよく洗っておかなきゃね?」
「ふっ・・・、ああン・・・っ」  乳首をこねくり回されて、ジンっと広がる快感に響の身体がもどかしさに揺れた。それでも咲斗の気が済むまで現れて、やっと指先が離れた時には響の息はだいぶ上がっていた。
 その、いやらしい指が段々下へと降りていく。もちろん、洗うという名目上泡だらけの指をすみずみまで滑らして。
「はぁっ・・・ぁぁ・・・・、ああっ」
 響はその焦れったさに思わず片膝を立てて、催促してしまう。
 咲斗は僅かに浮き上がった尻と床のそ隙間に指をするりと侵入させて、部屋で弄られていたソコに指が再び触れた。
「欲しそう」
「欲しいぃ・・・」
 もう、かっこつけてなんかいられなくて。理性なんか捨てた。響はただそこに、熱い楔が欲しくてたまらなくなっていた。
 熱に濡れた瞳で見上げられれば、咲斗とて我慢する気はなかった。泡を潤滑液代わりににして、指を中に侵入させた。
「あああっ」
 思わずきゅっと締め付けたそこを、わざとらしく揺らす。
「あああっ!!」
 ビクっと響のモノからも先走りがトロリと零れ落ちた。
「可愛い」
「・・・っにが?」
「泡まみれで喘いでるのが」
「バカ―――――ああっ!!」
 "バカ"と言ったお仕置きなのか、指が3本に増やされて激しく揺すられ、見知ったポイントをぐりぐりと責めた。
「ああっ・・・・、ひぃ――――だめぇ・・・っ」
「こことか、好きだよね」
「やぁ――――っ」
 容赦しない責めに、焦らされ続けた響の身体がビクビクと小刻みに震え、その快感と限界の近さを咲斗に知らせている。
 指だけでもう響はイきそうで、胸を大きく上下させ思わず咲斗の指を締め付けると。
「ああ!!」
 引き止める襞を振り切って、咲斗は一気に指を引き抜いた。
「・・・ん、で――――っ」
 響の背中がしなる。イクには刺激が足らない。
「お仕置きって言ったよね?」
「え―――――」
「まだまだ、いかせてあげないよ?」
 そう言いながら咲斗は自身を響の中にゆっくりと沈めていった。もちろん、響がいかないようにゆっくりと慎重に加減しながら。
 響はなんとか快感を得ようと腰をくねらせる。
 しかし、もう1歩どうしても足らない。イケないのだ。
「さきと、さんっ」
 声に返事代わりとゆっくりと咲斗が抜き差しを始めた。
「あああっ」
 待ち焦がれた快感に響の背中がしなって胸が突き出される。その媚態を眺めながら、咲斗は責めるでもなく止めるでもなくゆっくりと抜き差しを繰り返す。
 時々、イイところを掠りながら。でも、確実には責めない。
「もっとぉ・・・っ」
 じれったい響は腰を揺らして、もっとと言うように足を絡めた。もっと中を、強く擦ってぐちゃぐちゃにして欲しい。その熱で掻きまわして欲しい。
「イキたい?」
「イキたい・・・っ」
 もうちょっと。
 もうちょっとで、イケるから。
 咲斗は響の痴態に満足気に笑って、激しく響を責め立て出した。さっきまで掠っていただけだったところをその切っ先で擦りあげて強く突き上げた。
 イク―――――――
 波が、響の身体が攫おうとするその瞬間。
「あああぁぁ!!」
 響の口から抗議の嬌声が上がった。
 咲斗が動きを止めたのだ。
「いやぁ――――・・・・・・っ!!」
 イケなかった波が響の身体の中で激しくぶつかりあって出口を求めて荒れ狂った。どうしようもないとわかっていても響の身体が無様にくねる。
「お仕置きだよ?そう簡単にはダメ」
「やだっ!!」
 甘えるように懇願するように響の手が咲斗の腕を掴む。
「咲斗さん・・・」
「まだまだ時間はあるしね。露天風呂を堪能しなきゃ」
 咲斗はそう言うと、またことさらゆっくりと動き出した。焦れったさに泣かせながら響を限界まで攻め立てるために。
 もちろん、まだイカせる気など無い。
「大丈夫。気がふれる前には、イかせてあげるから」
 その楽しそうな声は、響の耳に届いたのか。
 イイところをゆっくり擦られる甘く苦しすぎる責め苦に響の口は開いて、なすがままに喘ぎが洩れた。
「っ、ぃい――――・・・・・・っ」
 咲斗の責めに、響はもう流されるままに声を上げるしかない。咲斗が納得するまで。
 甘く苦しいその時間は、まだまだ始まったばかりなのだ。







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