哀しい笑顔が切なくて -ナツside- 1
今日は俺が大好きな日。終業式!今日で学校が終わって本格的な冬休み!そう思うとうれしぃ〜〜! 圭へのクリスマスプレゼントも買って、こっそり机の引き出しに隠してあるし。今年はどんな風に過ごそうかなって思うだけで顔がにやける!退屈な終業式の間もそんなことばっかり考えてて、校長先生の話なんか全然聞いてへんかった。 教室に戻った後の担任の話もぜーんぜん上の空で。 なんか、実家に帰る日が先の伸びたからクリスマスは彼女と過ごせるんやぁーって喜んでいるアキの話も、話半分しか聞いてへんかった。 もらった成績表もいつも通り体育4に他はオール3で。これで圭に怒られることも、兄ちゃんに怒られることも、姉ちゃんにからかわれる事も、父ちゃんや母ちゃんに心配させる事もないし。俺はルンルン気分で礼をして。 早よ帰ろう〜〜〜っ。昼飯なんやろ!! そう思って鞄を掴んで、元気いっぱいに廊下に飛び出したそん時。 「佐々木くん!」 「おう、冬木!またなぁ〜」 てっきり挨拶に呼び止められたんやと思ってた。だから俺は振り返って挨拶をして手を振って、そのままアキと帰ろうとしたんや。 「待って」 「ん?」 予想外に、呼び止められた。 「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」 少し言いにくそうにししている冬木に、俺は何事かと首を傾げた。なんや、改まって話って。しかも、俺にだけ? 「時間は、そんなに取らないから・・・」 断る理由はないねんけど、なんとなく、冬木の断らせないぞって感じの空気がいつもの冬木と違って少し気になった。 なんて言うんやっけ?有無を言わせない感じっつーのかな。 「じゃぁ俺先帰るわ。ナツまたメールするし。じーちゃんとこ帰る前に1回くらい遊ぼうや」 「おう!」 「じゃぁ、冬木もまたなぁー」 なんとなくこの空気で察したのか。アキはあっけらかーんと笑って手を振って、先に帰って行った。なんつかーか、人の事言えへんけどあの悩みのなさそうな後姿って、おもろいわ。 「ごめんね」 「ううん、ええけどどうしたん?」 ちょっとなんか、いつもと違う重いような暗いような冬木に、俺はまたまた首を傾げる。なんか試験休みの間にあったんやろか?それで相談事?・・・でも、それやったら冬木の場合俺ちゃうくって、圭にしそうしなぁ。 んー・・・なんやろ。 俺は冬木の行動がよくわからないままに、冬木に案内されるままに空き教室へと入っていった。中まで進んで教室の窓際に冬木は立ったので、俺はその傍に置かれている机にもたれる様に立った。 見つめた冬木の顔は外からの光が逆光で、その表情まではよく見えなかったんやけど、なんか緊張しているらしい事が伝わってきた。 「冬木、話ってなんなん?」 「うん」 返事はすぐに返って来たのに、なんだか言いにくそうに、何かをためらう様にして冬木は中々口を切ろうとしない。そんなにも言いにくい話なんやろか?けれど、じっと黙ってられても俺も困る。連絡ナシに遅く帰ったりしたら圭が心配するし。俺も早く帰りたい。 腹も減ったし。 「冬木?」 ちょっと声が苛立っていた。それに冬木も気づいたのか。意を決するように顔を上げた。 「あのさ、佐々木くん、・・・ちょっと前まで嫌がらせされてたよね?」 「―――うん」 って、なんで冬木がそんな事を!?正直全然想像と違ってた冬木の言葉に、俺は一瞬固まってしまった。だって、そんなん、冬木が知るはずないないし。つーかなんで今その話題? 「あれね、――――あれ全部僕がしてたんだ」 「・・・・・・え・・・」 はぁ!?冬木、今、・・・なんつった!?僕が、していた!? 「全部、僕がしてたんだってば」 「・・・まじ?」 「うん」 「なんで?」 あかん。全然信じられへん。だってな、なんか、そんなん、普通にあっさりと認められると逆にどう反応してええんかわからへんやん。っていうか、こういうのって普通こっちが犯人探しして白状させるとかってパターンなんちゃうん!?なんで自首やねん!! ああもう、俺の頭がパニクッてる!! 「佐々木が嫌いだから」 「・・・、俺、冬木になんかした?」 ガツンって、来た。 嫌いって・・・初めて面と向かって人から言われた。 ・・・なんか、今、凄いショック。 「直接はされてないかな」 「じゃあ、なんでなん?」 なんやねん、それ。あかん、なんかわけもわからず泣きそうや。 「んー・・・僕、圭が好きなんだ」 「っ!!」 はっ!?なん、て!?今、圭が、好きって言うた!? つーかまじ、話の展開に全然ついて行けへん! 「ずっと、ずっと好きだった」 「・・・・・・」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ずっと、ずっと、好き? 「佐々木よりも、ずっとずっと好きだよ」 ・・・・・・・・・、片思い? 「・・・嘘だろ」 嘘、やろ? だってそんなん、全然知らんかった。圭と冬木は仲良い幼馴染ちゅうか、近所の弟とお兄ちゃんみたいな、そんなんやって思ってた。 そりゃぁ、そんな二人にヤキモチは妬いたけど、でも、圭は笑って否定して。好きなんは俺だけやって。冬木とはそんなんちゃうって、はっきり否定してたし。 「嘘じゃないよ。好きだったから、圭が関西に来てからも遊びに来てた。会いたかったから。佐々木が圭を好きになるよりも前から、僕はずっと好きだった」 「・・・・・・」 まじ・・・? 「お葬式の時、久しぶりに再会して。僕の家が今ごちゃごちゃしてて悩んでるって話したら、いつでも相談に乗るからって言って、ぎゅって抱きしめてくれた」 「嘘だ!」 それは、絶対嘘や。圭が俺以外にそんな事するはずないやん。 「嘘じゃないよ」 「そんな事、信じへん!!」 「信じる信じないは、佐々木の勝手だけど――――ねぇ、そろそろ圭を返してくれよ」 「な・・・っ」 な、に? 「恩とか、お金とかで圭を縛り付けないで」 「そんなんちゃう!!俺はそんなんで縛ったりしてへん!!」 違う!絶対そんなんない。 俺は冬木の言葉に、もたれかかっていた机にかけていた手を、ぎゅっと強く握り締めた。 そんな事、冬木に言われるよりも全然前に俺かっていっぱい考えた。圭が好きで好きで我慢出来へんくってアメリカ行って告って、圭が答えてくれた時はもう舞い上がってたけど。圭はほんまに俺のこと好きなんかなって。もしかして、親とかに恩があって断られへんかっただけなんかもしれへんとか。いっぱいいっぱい考えた。 いっぱいいっぱい考えて、そんなんちゃうって、圭の言葉だけを信じようって。 「そんなんじゃないって言い切れんの?」 「・・・っ」 思わず、怒りに涙が込み上げた。 けど、冬木の言葉は、俺の胸にグサって突き刺さってもいた。 だって、確かに。俺は圭にその事を問いただしたことはないから。その事を話した事はない。ただ、圭の笑顔と、好きって言ってくれる言葉だけを信じようって決めただけ。 それが嘘かどうかは、俺にだってほんまはわからへん。 怖くて、確かめられへんかった・・・ 「圭は、今僕が住んでいる場所も知ってるし、来てくれた事もあるよ。――――そういうこと、佐々木は知らないだろ?」 え!?・・・まじ? 「何もやましくなかったら、言うでしょう、普通」 冬木の顔が、くすって笑った。バカにされた気がして、頭にカーっと血が上る。 「好きな人も、あったかい家族も、気のいい友人も、全部何もかも持ってて、当たり前って顔してて。その顔が、すっごいむかつく」 は!?何言うてんねん。いきなり、意味分からん。それに冬木にだって家族は―――― 「・・・っ、家族は冬木だって!」 「大嫌い―――っ!!」 ―――っ!! 一気に頭に火が付いた。俺は苛立ちと腹立たしさと、冬木を黙らせたい感情が抑えられなくて、思わず腕を振り上げて冬木の胸倉を掴んで、後の窓際の壁に押し付けた。はずみで、置かれている机にもぶつけて。冬木が痛みに一瞬だけ、顔を顰めた。 けど、すぐになんでもないような顔になって。 「・・・何?」 その瞬間、目が合った。 ・・・・・・え? てっきりバカにしてるんだと思っていたのに、顔を近づけてはっきりと見た冬木の顔は、なんだかとても辛そうに見えた。まるで、耐えようのない痛みに苦しんでいるように。 なんで? 今、苦しいのは、俺のほうやろ? 「殴りたいなら、殴れば?」 強がってる。 その時俺は何故か冬木を見てそう思った。冬木は、ただ強がっているだけなんやって。意味なんかない。ただ、冬木の顔が今にも泣き出しそうやった。 なんでなん? 俺は意味が分からなくて。だって怒ってんの、ひどいこと言われても苦しんでるんもこっちやん。せやのに冬木がなんでそんな顔すんの? 俺は冬木を殴れなくなって、――――もともと殴ることなんか出来へんけど、俺は掴んだ腕を離した。わけがわからなくて苛立ってしまって、少し乱暴にしてしまったから、冬木が少しよろめいた。 なんか、そんな冬木を見てられなくて、思わず顔を逸らした。 「言いたいことは、それだけだから」 冬木は唐突にそれだけ言うと、ゆっくりとした足取りで教室を出て行ってしまった。その後姿を掴んで、何かを言ってやりたいとは思うのに、俺は何を言いたいのか自分でも整理が付かなくて。 いきなり知ってしまった事が多すぎて、戸惑う気持ちがでかすぎて、自分がどうしたいのかも。冬木が一体何を考えているのかもわからなくて。 ただ黙って、冬木の姿がドアの向こうに消えていくのを見送るしか出来へんかった。 |