希望と想いと嫉妬と不安 6
「で、結局行くんですね?」 雅人のため息を交えたその声に、綾乃は小さく頷いた。 「だめ?」 「だめと言えばやめるんですか?」 「・・・どうして嫌なの?」 少し遅くなってしまった今夜、それでも待っていてくれた綾乃に嬉しく思いながらも、用件がそれでは・・・と複雑な気持ちにならざるをえない雅人の心情は、やはり綾乃には伝わりにくいものがあるらしい。 「別に嫌というわけではないんですよ」 「?」 「・・・いえ」 昨日と違って場所は雅人の部屋。雅人はソファにその身が一層深く沈むような感じを憶えた。 けれどこれ以上暗い顔で綾乃に言い募っても仕方が無い。この胸のうちにあるわだかまりを綾乃に全部吐き出す事は出来ないのだから。 「雪人くんも、一緒に行くから」 「綾乃?」 しかし、綾乃らしくないその言い切り方には雅人も驚きを表さずにはいられなかった。 「夏休み、どこかへ行く予定も特に無いしさ。一緒にどっか行きたいなって思うし」 「そうですか」 「うん。勉強とか宿題とかも、僕出来るだけ見るし。それならいいでしょ?」 どうやら決めていたらしいその言葉をはっきり言い切る綾乃に、雅人は言いたいことを飲み込んでただ笑って頷いた。 そこには、今直人に出来ない役割を綾乃にしてもらえたら、という甘い願いと逃げがあったのかもしれない。 もちろんそれとは別に、嫉妬と言う黒い炎が燃え上がるのも自覚してはいたが。 「先方はいいとおっしゃってるんですね?」 「うん」 「わかりました。――――私も一度時間を見つけて挨拶に行きましょう」 「ホント!?」 「はい」 「ありがとう!!」 雅人の全面的な譲歩と許しに、綾乃が嬉しそうに笑って両手を大きく天井に向けた。やはり、決めていたとはいえ、絶対説得しようと思っていたとはいえ、綾乃は綾乃で内心ドキドキしていたのだろう。 その顔を見て、雅人はしょうがないなと再び笑みを零した。 「合宿はいつからですか?」 「8月1日からだそうです。お盆休みになるとみんな家族で出かけたりするからその前にって」 「なるほど。わかりました」 「へへ」 綾乃がほっと肩の力を抜く。 本当に良かった。そう思えて。 「ところで、綾乃の三者面談はあさってでしたね?」 「あ、うん――――雅人さんが?」 「もちろんです。他に誰かいますか?」 当たり前です、という顔で言う雅人に、綾乃はそうだよねと小さく肩を竦めた。その顔は少し苦い笑みも浮かんでいて。 「綾乃?私じゃあ不満ですか?」 雅人はそう言うと、向いに腰掛ける綾乃へと歩み寄る。 「そうじゃないけど」 「けど?」 そうして綾乃の手を取って立ち上がらせた。 「うーん」 「なんです?」 腰に腕を回しぎゅっと抱き寄せた。その好意を嫌がりはしないのに、何が心にひっかかっているのだろうと雅人が不満気に顔を曇らせる。 「なんか・・・こ、―――こんななのに保護者なんだなって思うとさ・・・」 "恋人"と照れていえなくて、綾乃は言葉を濁してちょっと俯く。けれど雅人には綾乃の気持ちが十分伝わったらしく、さっきまでの不満気な顔はいつの間に投げ捨てたのだというくらいの速さで笑みに代わる。 「不満ですか?」 「ちょっと・・・・・・、まぁしょうがないんだけどさ」 「綾乃」 その、甘い睦言にしか聞こえない綾乃の言葉に雅人はますます嬉しくなってぎゅーっと抱きしめて、綾乃の頬にキスを落とす。 「確かに少し――――」 「少し」 耳元で囁かれる声に綾乃が不安気に瞳を泳がすと。 「背徳的な感じはしますね?」 「―――背徳的!?」 「はい。素敵な響きです」 「―――っ、もう!!」 人が真面目に話してるのに!!と綾乃はぷくっと怒った顔をした。そんな顔を雅人はくすくす笑いながら見つめて、今度はちゃんと唇にキスを落とした。 「ま、雅人さん!?」 一瞬離れて今度は深く口付けてくる雅人に、思わず綾乃が焦った声を上げる。 だっていったいいつ、こうなったのかわからない。 保護者が嫌だなって話と合宿の話をしてただけのはずなのに。 「逃げないで」 「だって」 「嫌ですか?」 そう聞かれた瞬間、綾乃の視界がぐるりと回って、どさっとベッドに背中から倒れこんだ。 「誘われたような気がしたんですが」 「誘ってません!」 なんてこと言うの!?と顔を真っ赤にした綾乃は思わず抵抗しようと雅人の肩を押し返すのだけれど。 「嫌ですか?」 再度瞳を覗き込まれてそう聞かれると、嫌ですとは言えなくて。 ただなんていうか、いつの間にかわからないけどこんな風になっていた空気についていけないというか、戸惑っているというかなんだけど。 それを説明すべきなんだろうかと綾乃が考えている間に、雅人の指が綾乃のスェット素材のハーフパンツに手がかかり、止める間もなく脱がされてしまった。 「―――っ・・・」 ふるっと震えて頭を出すそれに、雅人はゆっくりと長い指を絡めて行く。その、他人に触られる瞬間がまだ慣れないのか恥ずかしいのか、綾乃の喉がヒクっと動く。 「ぁ―――」 その喉を舐めれば綾乃の口からは小さな声が洩れた。そのまま雅人は綾乃の口にもキスをする。軽いキスから深く舌を絡める頃には、綾乃の腕が雅人に伸びてきてぎゅっと肩を抱かれた。 顔を上げれば甘い視線が絡み合って、切なさと愛おしさでただただ胸がいっぱいになってしまう。 「あのね・・・」 「はい?」 「翔も行くんだから――――」 上目遣いに語られるその言葉の意味がわからなくて、雅人は視線だけで先を促すと。 「合宿」 「ええ」 雅人は綾乃の髪に手を添えて、そっと掻き揚げる。 「だからっ」 「はい」 言葉の続きを言い難そうにして、困ったような顔になっていく綾乃を雅人は少し意地悪な気持ちで見つめた。 「・・・そのっ」 そうして、少しばかり自分の気持ちが伝わっていたことを知って、とりあえず今はそれだけで満足しておくべきかと自分に言い聞かせてみる。 だって全部を知られるわけには、いまはいかないから。 「それでも、面白くないんですよ?」 今はまだ、甘いヤキモチのベールに全部を包み隠しておきたい。 「最近雪人にかまいすぎですし」 「そんなことっ」 「無いとは言わせませんよ?」 雅人はそう言って、芝居がかった瞳で綾乃を睨んでその手を太ももにかけた。 「うー・・・」 綾乃が自然と膝を立てる。その尻にそっと指を這わして、濡らした指をゆっくりと潜り込ませた。 「ああっ、・・・・・・っ」 綾乃の指がぎゅっと雅人の衣服を掴んで、皺を作る。雅人は綾乃のタンクトップをたくし上げて、露にさせた乳首に舌を寄せた。 ビクンと綾乃の身体が揺れる。 「今夜は私にかまってくださいね?」 「・・・もうっ」 甘い声に綾乃の頬が赤く染まるのを満足そうに見つめた雅人は、潜り込ませていた指を2本に増やす。 少し苦しそうにした綾乃の気を散らすべく、雅人は乳首を舌先で転がした。そこからジンっとした痺れが綾乃の包むのを知っているから。 そうして執拗に舐めれば、焦れったさに綾乃の腰が僅かに揺らぐ。そのわき腹に指をすべらせると、快感なのかくすぐったいのか綾乃の身体が一層揺れた。 くちゅっと濡れた音がする。 触ってもいない綾乃自身は、雅人が動くたびのその腹に擦られて意図せず刺激を感じ、それでなくても中を弄られて、いまや完全に勃ち上がっている。 「綾乃」 「・・・っに?」 「舐めてあげましょうか?」 「―――っ」 ヒクっと綾乃の肩が揺らぐ。 「どうします?」 その顔がみるみるうちに赤らんでいくが、雅人には返事がわかっていた。 「――――シテ」 「はい」 |