軌跡、そして…22



「ふ・・・ああっ!」
 広いダブルベッドの上で、薫は細い声を上げていた。もう耐えられないというように、髪をパサパサと音をたてさせて首を横に振っている。
「透、さん・・・っ――――もう・・・」
「まだだめ。痛いの嫌だろう?」
 一度放った薫の精で指を濡らした透は、それをローションの代わりに薫の中に塗りこんで、2本に増やした指で広げていく。
 イイところを掠めて、入り口だけで遊ばせてどれくらいたったのだろうか。薫の腰はもっと深く感じようと淫らに動いて、透の目を楽しませていた。
「そんなにイイか?めちゃくちゃ締め付けて来るけど」
「いやぁ・・・」
 言わないでと、瞳をぎゅっと閉じる。
「いや?なら抜くか?」
 からかう様に言うと、本当に指をゆっくり引き抜いていく。
「やぁっ。―――抜かないでぇっ」
 引きとめようときゅっと締めつける薫に、透は獲物を狩る獣の様な瞳になる。
「あああ!!」
 薫の口から嬌声が洩れる。透が、抜きそうになっていた中に、3本目の指を添えて一気に中に入れたのだ。そしてさらに中を広げるように動かすと、薫のモノからは我慢出来ない先走りが洩れる。
「良さそうだな?」
 透はそう言うと、指を遊ばせたまま、さらされた白い腹や腰をキツく吸い上げた。立てさせた足の内腿にも点々と赤い印が付いて行く。最後に、元々色づいた胸に舌を這わせて歯を立て、引っ張った。
「ひぃっ!・・・痛っ―――ああぁぁ!!」
 引っ張られた痛みに思わず腰が浮き上がり、背中が反る。その痛みにさえも感じたのか、薫のモノは一層ドクっと脈打った。
「痛い?本当に?」
 楽しそうな透の声が憎らしい。
「あああ!!」
 透の指が薫の先端を指で弾いた。とろりと先走りがまた伝い落ちて、薫の瞳からは涙がこぼれ出す。焦らされた快感が体中を駆け巡って、痛いくらいに苦しい。
「・・・ね、がい。―――もう・・・・・・っ」
 びくびく震えた裸体を朱に染めて言う薫に、透は冷たく笑う。
「欲しいのか?」
「・・・しいっ」
「じゃぁ、準備して?」
 透はそういうと、無常にも3本の指を引き抜いた。薫がイかないように慎重に。
「ああ・・・ん」
 しかしそれすらも感じると薫は腰をくねらせる。
「薫?」
 透の促す声に、涙に濡れた瞳をそろそろと開き透を見つめる。その顔が、まだ熱していないようで薫は悲しくなる。のろのろと上体を起こして、そのまま四つん這いになるようにして透のモノに舌を這わした。
 完全に勃ち上がっている幹に舌を這わして、ゆっくりと口に含む。それだけでドクっと脈打ったそれが愛しくて、舐め上げて吸い上げていく。
 最初に舐めた時はいつだっただろう。高等部1年の、夏だっただろうか?まだ中等部の頃だったか。初めは苦くて、この味が好きじゃなかったのに。いつからかそれだけじゃなくなった。
 そして、一体何度身体を重ねたのだろう。いい加減飽きそうなのに、飽きる日は結局来なくて。こんなにも欲しくてたまらなくなる。
「いいぜ・・・」
 絶頂が近いのか、掠れた透の声に薫は腰を揺らす。その声だけで、イキそうになるくらい好き。
 薫はカリ首にを舐めて、大きいそれをなんとか喉奥まで入れて舐め上げた。
「出すぞ」
「――――っ!!」
 喉に叩きつけられた透の精。薫はそれをゴクリと喉を鳴らして飲み込んだ。口を離して見上げた透の顔は、さっきより少し熱くなっている気がして嬉しくなる。
「・・・っ」
 透の指が薫の唇の上を滑る。そして、優しいキスが落ちてきた。唇を舐めてただ触れあるような優しいキス。
「苦いな」
「そう?」
「ああ。薫のは美味しいのに自分のは不味い」
 ちょっと眉をしかめて言う透に薫は笑みを漏らす。その唇にまたキスが振ってきて、鼻や頬や首筋にもどんどんキスが落ちてくる。
 そのまままたベッドに押し倒されて、胸や腕にもキスされて。そのキスに震えていたら、いつの間にか膝を抱えられていた。
「―――ああっ」
 待ちに待った、押し付けられる切っ先に思わず声が洩れる。
「あああっ――――!ん、あん・・・っ」
 ずしりとした重量で入ってくるそれに、薫は背中をしならせた。ぎゅっと締め付けて、淫らに動いている気がする。最初の頃は、透のセックスについて行くだけで必死で息も絶え絶えだったはずなのに。
 また、優しくキスされてホッと目を開いた先には、熱に染まった透の顔があってそれだけでまた締め付けてしまった。
「あああぁぁ・・・、い・・・ふっ・・・ぁぁぁぁ」
 馴染んだと思ったのか、透が腰を大きく動かしてきた。ゆっくり抜いて、ゆっくり押し入ってくる。なんとか引きとめようと締まる動きに逆らうように擦って。既に限界に近かった薫の身体は快感に震えている。
 どうしてこんなに感じてしまうのか分からない。
「やぁ・・・、あああ――――っ」
 透の動きに合わせるように腰を揺らして、もっともっとと欲張って動くその仕草に透の口からは笑みが洩れる。透がこのまま抱き壊してしまいたくなる凶悪な衝動に駆られている事を、薫は知らない。
「喰いちぎりそうだな」
「はぁっ・・・、め、なさい――――」
 身悶えて解放へを向かう薫のモノに指を絡める。
「ああっ!!・・・透、さん・・・もう――――あああっ」
 薫のイイところに切っ先を当てて、打ち付けてやる。
「あああっ・・・・・・、ひっ、いい――――」
 ぎゅっと締まって、イク、そう感じたその瞬間透の指が薫の根元を閉めた。
「ひぃっ、いやぁ・・・っ。やぁ――――」
 イクその瞬間に堰き止められた快感は、薫の身体を駆け上って。行き場の無い強い快感が薫の理性を奪っていく。
「やだっ。―――なんで・・・」
 指を解かそうと手を伸ばしたが、透の指が外れるはずも無く。快感に潤んだ瞳を向けると、透はにやりと笑っていた。
「まだだ」
「んで?」
 収まらない快感の波に薫が腰をくねらせ、苦しそうに眉を寄せる。
「イカせたらお仕置きにならないだろう?」
 勝手に結論を出した薫。捨てられそうになった事実は、透の心に暗く凶暴な感情を植えつけるには十分だったのだ。
「え・・・っ」
「人の事を捨てようとした罰は、与えなきゃな」
 にこりと笑う顔が、嫌と言うほど知っている凶悪な顔で。こういう顔の時は壮絶に怒っているのを間近で見ていて知っている薫は、一瞬にして顔を引きつらせた。
「逃げるな」
 思わず逃げようとした腰は、なんなく引き戻されてしまう。
「だって・・・、捨てるだなんて・・・」
 そんなつもりじゃなかった。ただ―――――
「試されるのもこれで最後にしたいからな。きっちり分からせてやる。その身体で」
 そんなのもういいと、必死で振った首は綺麗に無視されて。
「あああっ!!」
 大きくグラウンドさした腰に、薫はそのままベッドにまた身を沈めた。
「ここ、好きだろう?」
 透はそういうと、薫のイイところを執拗に攻め立てた。何度も何度も擦り上げたのだ。
「あああ―――・・・っ、いやぁ!!・・・もう――――っ」
 薫は行き場の無い欲求に背中を思いっきり逸らし、身震いするような強い快感に逃げようと腰を揺らす。このまま攻め立てられたら、それこそ壊れてしまう。快感に気が狂ってしまうと、必死で伸ばした手を透の背中に回す。
 逃げ出したいけれど逃げられるはずも無くて。この甘く苦しく耐えがたい責め苦から救ってくれるのは透しかいない。
「・・・ねがい。もう・・・、ゆるして――――」
 逃げれるはずがないと、別れられるはずがないとわかっていた。ただ、確信が欲しかった。透が言ったように試した。別れを言い出した時にどんな反応を返すのか。なんと言ってくれるのか。
「反省してるのか?」
「してるっ。・・・してるから・・・っ」
 薫は必死で言葉を紡いだ。射精することなく、感覚だけでイキそうになると緩く動いて、波が去るとまた責め立てる。そんな責め苦が続いて、喘ぎ続けた薫の声は少し掠れてきている。
 もう頭の中にももやがかかって、思考回路は既にちゃんと動いていない。
 ただ、助けて欲しい。
「もう、俺を捨てない?」
 ただ、感じたい。
「ってない。―――捨てないっ」
 捨てたりしない。そんな事、出来るはずも無い。
 薫は必死で瞳をこじ開けて、目の前の透の顔を見上げた。
「ふ・・・っ」
 その顔を見とめた途端、いきなり涙が込み上げてきた。よくわからないけれど、あふれ出した涙が瞳から零れ落ちて頬を流れ落ちる。
「ごめ、なさいっ」
「泣くな」
 目尻に透のキスが落ちる。
「ごめ・・・っ」
「お前に泣かれると、どうしていいのかわかんなくなるよ」
 散々泣かせたくせにそういう事を言う。けれど、透が薫の涙に弱いのは本当の事だろう。泣かれるだけで、抱きしめて撫でてやって、包み込んで何でも言う事を聞いてやりたくなる。
「・・・っ、・・・ふっ・・・っ」
 透はふんわり笑って、しゃくりあげている薫をなだめる様にキスをした。そのまま頬をぺろりと舐めて、クスっと笑う。
「違う涙を流させてやるよ」
 え?と問い返す暇もなかった。
「あああっ!!」
 焦らす気の無くなった透が、一気に薫を突き上げた。容赦なく、イイところを擦り上げる。
「あああ・・・、い・・・ぁぁぁぁ、ああああ!!」
 ぎりぎりまで抜き出して奥に叩きつけて。奥深くに突き立てる。パシっと肌がぶつかり合う音が響いて、薫の腰が淫らに動く。
「あああぁぁぁぁ――――っ!!」
 一際大きな声が上がって。堰き止めていた透の指が外された瞬間、薫の耐えて耐えていたものが一気に噴出した。ピシャっと透の頬も濡らす。
 薫が絶頂から意識を見失いそうになる中、奥に注ぎ込まれる熱を感じて、無意識に背中を震わせた。
 なんとも言えない疲労感というか、倦怠感が身体を襲って自然と瞼が重くなる。
「大丈夫か?」
 そのまま意識を沈めてしまいそうな薫に、透が声をかけて軽く揺する。
「・・・っ!」
 まだ抜かれていないそれ。薫の身体がビクっと震えた。
 恐る恐る開いた瞳に映るのは、大好きな優しい顔。それがまだ、少し快感に染まっている気がする。
「透、さん?」
 出て行こうとしない透の態度に、薫はふっと首を傾げる。
「まさか、これで終わりなんか思ってないよな?」
「・・・え!?」
「まだお仕置きの最中なんだぜ?今日は寝れると思うなよ」
「え!?―――あっ、あああ!!」
 待って、という暇もなく透がゆっくりと薫の中で動き出した。イったばかりの身体は快感に敏感過ぎて、薫が切なそう腰を震わす様が面白いとでも言うように、ゆっくりと敏感になっている中を擦る。
「後ろだけで何回イケるか、試してみようっか」
「いやっ!・・・そんな、無理っ」
 透の言葉に薫の目が驚愕に見開かれて、必死で首を横に振る。けれど、透はにやりと笑ったまま薫の腰をしっかり掴んでゆっくり打ち付けてきた。
 透はやると言えば、本当にやりそうで。
 薫は懇願する様に言葉にならない思いを乗せて透の腕を強く掴むけれど、それで透の動きを止められるはずもない。
 薫は結局、身をもって透の想いの強さを教え込まされたのだった。







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