2度目 -4-


 ドンドンドン!!
「!!」
 大きな音に身体がビクっと揺れて、朝のデジャブの様に僕は起こされた。いつの間にか、うとうとしていたらしい。
「譲?今すぐここを開けないと、今度は本気でドア蹴破るで?」
 朝と違うのは、東城和弘の声。朝みたいに明るいおちゃらけた声じゃなくて、どうやら本気で怒ってるらしい声。
 僕はその声に、布団からはいずり出て鍵を開けた。ギィ、と音を立ててゆっくり扉が開かれる。怖くて視線は上げられなくて俯いたままにいると、視線の先には東城和弘の足と、ヒーター。
 運んでくれたんだ。
「ったく。一人で勝手に帰るなよ」
 苦笑交じりの東城和弘の声。頭をポンと軽くはたかれて。
「入るで」
 東城和弘はそういうと、僕が許可する前にヒーターを持って中に入ってきた。
 なんで?怒ってんじゃないの?
「よいしょっと。・・・何してるん?ドア閉めな風が入ってくるで」
 なんとなくなす術がなくて僕が玄関に立ち尽くしていると、東城和弘が振り返って、目があった。
 ――――え・・・っ
 もっと、怒っていると思っていたのに。何でそんな風に、穏やかな顔でいるんだ?わけわかんない。だって、いきなり怒鳴って殴りつけて、荷物も放って帰って来たのに。
 完全に八つ当たりしたのに。
「だーかーら、寒いちゅうねん」
 固まった様に動けない僕に代わって、東城和弘の方が近づいてきて扉を閉めた。
 僕は身近にやってきた東城和弘をまじまじと見つめる。
 だって。なんで、怒ってないの?
 本当に、怒ってないの?
 見つめた目線の先で、東城和弘は目を細めてフッと笑った。
「泣きたいなら、我慢せんでええで?」
 東城和弘はそう言うと、僕の頭を抱えて自分の胸に押し付けてきた。
「涙を身体に溜めたらあかんしな」
 ぎゅっと抱きしめられると、東城和弘の身体は思いのほかあったかかった。さっきまで潜っていた布団よりも、たぶん買ったヒーターよりも、それはずっとずっとあったかいと思う。
 久しぶりの、人肌。人の温もり。
 僕は、たぶん、そういう人肌に飢えていた。
 優しさに飢えていた。
 だから、―――――――
 僕は、思わず東城和弘の身体に腕を回して抱きついた。人の体温と柔らかさと、優しさがあったかくて、一度腕を回すと際限がなくなってしまって、さらに無我夢中でしがみついて抱きついて。
「譲」
 温もりを感じて。
 名前を呼ばれるのが嬉しかった。
 優しい声色で名前を呼ばれるだけで、何かを勘違いしそうで、勘違いしてしまいたかった。
 偽者でもいい。
 代わりでもいい。
 誰でもいい。
 寂しさを埋めてくれればそれでいい。
 僕を夢みさせてくれるなら、それだけでいい。
 さっき見た、圭の顔を忘れたい。
 自分自身を忘れたい。
 何もかもを忘れたい。
 僕はただ、寂しかっただけ。
 寂しくて寂しくて、溺れそうだったから。目の前にある手を掴んだだけ。
 誰でも、良かった。
「譲」
 僕を勘違いさせて、現実を忘れさせてくれる声。
 それだけで、いい。
「譲」
「・・・」
 気づいたら、僕は東城和弘とキスしていた。







「ふっ・・・」
「譲、へーきか?」
 東城和弘の声に、僕は黙って頷いた。
 さっきまで潜っていた布団に僕は今押し倒されて、上からは東城和弘が乗っかっている。僕は着ていたシャツの前ははだけて半裸で、下は完全に脱がされていた。
 東城和弘も、似たような格好になっている。
「・・・っ!」
 指が、中に入ってきた。唾液と、僕の先走りで濡らされた指。東城和弘の指。
「痛かったら、言うてや」
 東城和弘の気遣う声が聞こえて、僕は首を横に振った。痛くない。むしろ、少し痛いくらいでもいいのに。もう少し乱暴にされて、何もかも忘れてしまいたいのに。
 相手が誰かも、忘れたい。
「ああっ・・・!」
 初めての感覚が身体を走って、僕の口から声が漏れた。
「ここ?」
「・・・っ」
 東城和弘の声に、僕は首をぶんぶん横に振った。だって、そこはなんか嫌だ。腰が揺れてくる。なんか、変な感覚が身体に流れてくるからっ。
 そこはヤダ。
「やだっ」
 やだって言うのに、東城和弘はそこを攻めてくるのを止めてくれない。僕の腰が思わず上に逃げようとすると、腰に手を回されて引き戻された。
「いやって事は、エエって事やろ?」
「はっ!?・・・ああっ・・・、やだぁって、っ」
 何言ってんだ、こいつ。嫌なものはイヤなのに。いつの間にか指が増えて、中を目一杯広げられている気がする。
 ああ、僕は一体何をしているんだろう。
 東城和弘と、一体何をしようとしているんだろう。
「あああっ!」
 少し乱暴な仕草で、指を引き抜かれて、僕の背中がビクっと揺れた。痺れるような快感が腰を捉えている。
「え・・・っ、――――っ!」
 足を抱えられて、肩につくくらいに折り曲げられた。
 怖い。
「大丈夫やから」
 何が?
「力、抜いて」
 イヤだ。止めて。イヤだ。止めてよ。
 お願い。
「あああ―――っ!!」
 東城和弘のモノがあたって、ゆっくりと中に入ってきた。
 イヤなのに。
 だって、僕は、圭が好きなのに。
 東城和弘が好きなんじゃないのに。
「ああっ!!――――ふぅ、んんっ・・・」
 もう止められるはずもなくて。どんどん中に入ってきて、なんかわかんないけど、腰がビクビク跳ねる。よくわかんないけど、気持ちイイところが擦られて。
「入ったで」
 くすくすと、耳に優しい声で東城和弘の声が聞こえる。
「・・・ん」
 優しい声がくすぐったくて―――――・・・・・・・・・
「譲は、泣き虫やな」
 東城和弘がそう言って笑って、僕の目じりにキスをした。視界がぼやけて、自分がまた泣いている事を自覚する。今日は、涙腺が壊れてしまったらしい。普段はこんなに泣いたりしないのに。
 身体が奥からじんじんして。きっとこの所為で泣いてしまうんだ。
 僕は掠れた視線の先の東城和弘に腕を伸ばす。
 ・・・なんの為に?
 それはわからない。
「動くで」
「ん―――あああっ・・・ああ・・・・・・」
 返事をしようとして、語尾がかすれて嬌声に変わった。
 信じられない、感覚。中に、東城和弘のが入ってて、それが動いてて。突き上げられてく。
「やぁっ!あああぁぁぁっ!!」
 内臓がせり上がってくるような、感覚。身体前部が揺すられて、よくわからない感覚に身体が支配されて追い上げられていく。
 こんなの、知らない。
「とう、じょうっ・・・」
 もうやだ。もうやめて。怖い。怖いから。
「譲」
 かすれた、東城和弘の声。
 ドキっと心臓が痛む。
 この痛みは、何?
「ああんっ・・・・いっ―――」
 中がなんか変で、腰から下の感覚がよくわからなくなって溶けて行く感覚。身体全部が持っていかれてしまうような、どこかに落とされるような感じがして。
 怖い。僕は、どうなってしまうの?
 ぎゅっと瞳を閉じた視界は真っ暗で、だだもたらされる、この感覚。わけもわからないのに、どこに行けばいい?
「ああああっ―――・・・・・・・・・っ!」
 東城和弘の手が腰を掴んで、揺すられた。
「イイ声・・・」
 前も触られて、握られて擦り上げられた。
「だめぇ―――っ!」
 触らないで。もうおかしくなるから!
 僕は無我夢中で東城和弘の腕を握って爪を立てた。追いつかない感覚に、首をぶんぶんと振って、どっかに追い払おうとするのに。
 東城和弘の動きがより激しくなった。
「―――っ、ああああああ」
 奥に、感じた瞬間。
「あああああぁぁぁぁぁ―――――っ、・・・・・・・・・」
 僕は、イッてしまった。白濁を、飛ばして。
 そして僕の世界は、再び闇に包まれた。








   ツギ   ハナカンムリ    ノベルズ    トップ