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 『響にとって、咲斗ってどんな存在?』



 由岐人が出て行った部屋でひとり、響はぼんやりとした頭で言われた事を考えていた。
 "自分にとっての咲斗さんの存在"?
 それって・・・
 だって。  咲斗さんは俺を買った人で、
 俺をここへ閉じ込めている人で、
 俺は咲斗さんに借金があって、
 母をたてに俺を脅した人てる。
 ―――――それって、事実だよな。現実。
 でも、それだけ?
 わからない。
 咲斗さんは――――――
「んー・・・」
 エロいな。絶対、間違いなくエロい。
 すぐ変な事してくるし、
 最初とか、初めてなのに全然手加減してくんなかったし。
 オモチャとかも使うから、変態だ。
 変態のクセに、キスは、上手いしエッチも――――・・・・・・・・・・・・・・・ってそんな事じゃなくてっ。
 うーん・・・しつこくて、
 ちょっと意地悪で。
 でも、優しくて――――――――
 俺の名前を呼ぶときの声とかは、いつもすっごい優しくて、ちょっとビックリする。なんで?って。
 それに、
 腕の中はあったかい。
 見つめる目も優しい。
 帰ってきて、俺の事抱き締めて、眠って、咲斗さんの心臓の音が聞こえてきて、その音を聞くと安心して眠れる。
 熟睡できる。
 そのぬくもりに、ホッとしてる。
 エッチも、そんな嫌じゃない・・・・・・・っていうか、・・・むしろ気持いいかも。
 男にされて、気持ち良いとか変だけど、どっかおかしいかもって思うけど、でも、意外と抵抗感はないかも・・・・・・・・・・
 やばいかな?
 でも、そんな事よりも、シタ後の、あの腕の中はあったかくて、その中に閉じ込められるのは、嫌じゃなくて、
 むしろ・・・・・・・

 むしろ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?

 咲斗さんは俺にとって、ナニ?








「おかえり」
「なんだ?起きてたの?」
 咲斗が、いつもの時間に帰って見ると、ベッドですやすやと寝ているはずの響がリビングで起きていた。
「うん、DVD見てた」
 部屋を暗くして、クッションを抱き締めてソファに寝っころがりながら、響はこないだ咲斗が大量に買ったDVDの中の1本を見ていた。傍らのテーブルの上にはレポート用紙が律儀にも置いてあり、ちゃんと咲斗の為に感想文を書かれてあった。
「おもしろい?」
「うーん・・・あんまりかなぁ。ストーリー性ないし、なんか派手なアクションシーン連続で誤魔化してるって感じ」
「へぇー、そうなんだ」
 響は今見ている物は、そこそこに話題作だったし咲斗の記憶では興行収入ランクでも上位にあったはずだが、確かに響の言うとおり画面には次々と派手な映像とうるさい音楽の連続が映し出され、無意味に人が吹き飛んでいるような感じがする。
「こういう映画嫌いなんだ。なんか、人がさ、ストーリーとかに関係なく無意味に撃たれて死んじゃったりとかして。命が凄い軽く扱われてる気がして」
「・・・・・・」
「この人にも家族とか、夢とかあったりするのかなぁ・・・なんて思うとさ、やりきれない気分になるっていうか」
 その響の言葉に咲斗が目を細める。
「響は、優しいね」
「そんなんじゃないよっ・・・・・・あ、ごめんね、帰って来たばっかしで疲れてるのに、変な事言っちゃって。お茶でも入れる」
「いや、水でいいよ」
「そう?」
 響は水でいいという咲斗の為に、冷蔵庫からミネラルウォーターを出してきて、コップに注いでいると、咲斗もキッチンへとやって来た。
「俺もね、ああいう映画は好きじゃないよ」
 そう言うと、キッチンに立つ響を咲斗は後ろから抱き締めて、コップを受け取る。
「ありがと」
「ううん・・・」
 ちょうど響の耳の位置に、咲斗の口元があり咲斗の水の飲む音が、やけにリアルに聞こえる。その音に何故か、響はどきどきしてしまう。
 なんでこんな姿勢?
「もういい?」
 なんで振りほどけない?
「うん」
 響は咲斗が飲み干したグラスを受け取り、軽く流して伏せて置く。
 『俺もね、こういう映画は好きじゃないよ』
 ―――――その一言が、響にはなんだかうれしかった。同じだから。
「さて、寝よっか?」
「シャワーは?」
「起きてからでいいよ。汗臭い?」
「別に気にならないけど」
「じゃあ寝よう」
「うん」

 響が先にベッドに入っていると、スーツを脱いで裸になった咲斗がベッドに潜り込んでくる。顔を洗った時に髪が少し濡れたのだろう、その水滴が響の頬を冷たく濡らした。
 咲斗は、いつものように響の身体を抱え込む。
 ―――――うん。やっぱり、この腕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 その背中に、響も手を回した。
 もっと、その音に、近づきたくて。
 もっと咲斗に近づきたくて。
 俺は、バカだ。
 俺は、代わりなのに。
 ただの、穴埋めなのに。
 いつかの、誰か、
 代わりでしかないのに。
 ちゃんと咲斗さんの、横に立つ人が決まるまでの・・・・・・・・・・・・・
 それだけなのに。
 『女は、後々子供でも出来たなんて来られても困るしね、その点男ならそういう心配もない』
 最初から、分かってたのに。
 『sex一晩10万で買ってあげる』
 俺は身体を売る。
 咲斗さんはそれを買う。
 それだけなのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 それだけなのにね・・・・・・・・・・・・・・・・・
 俺は・・・・・・・・・・バカだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








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