「・・・泣かないで、よ」
響の声が、掠れていた。それが恐怖からなのか、涙の所為なのか今の咲斗にはわからなかった。ただ、見上げてくる顔が。
「・・・俺、ね」
―――――聞きたくない。今は、辛い言葉は聞きたくない。
咲斗の手の中で、ベルトかキシっと音を立てる。
咲斗は肩を押さえていた手を動かして、響の後頭部を捉えてそのまま枕に押し付けた。こっちを見無い様に。
その真っ直ぐな視線で、自分の醜い心を見透かされないように。
「・・・ふっ、ぐ・・・っ」
枕にくぐもった響のうめき声が聞こえた。
ぽたっと、咲斗の瞳から流れ落ちた涙が咲斗の手を濡らし、ガタっと何かが落ちる音が聞こえてビクっと響の背中が揺れる。
その背中に、
「ひぃっ―――・・・あっ・・・？・・・っ！！」
何かが触れて響は思わず声上げる。けれど、それは鋭いベルトの痛みなんかじゃ無くて――――、咲斗の唇。
強く押し付けられて、首筋を何度も何度も強く吸われる。
響は、微かな驚きと安堵の思いで、咲斗の姿をその目に捉えたいと顔を上げようとしたが、咲斗に押さえつけれて、阻まれ叶わない。
今度はその耳に唇が触れた。
「んっ」
舌先が耳を丹念になめ上げ、中に舌を差し入れようとしてくる。その感触と、密やかな快感に響の口から甘い吐息が漏れ出す。
存分に嘗め尽くして満足したのか、咲斗の唇は再度首筋に戻っていき、肩に手を掛けたかと思うと勢い良く響の身体をひっくり返す。
「咲斗さん・・・・・・っ・・・」
響はわけもわからず目の前にある咲斗の顔色を確かめようと、慌てて見上げる。けれど咲斗はその視線を逸らすように、今度は胸の突起へと唇を這わす。
「ああっ・・・・・・・・・ん・・・・ふぅ・・・・・・」
その刺激で、僅かに上げた上体もすぐベッドへと倒れて。
すっかり慣らされたそこは敏感で、少し吸い上げられただけで響の背中が快感に揺れる。軽く歯を立てられながら舌先で舐められると、触れられてもいないのに響のモノが頭をもたげ出し、その下肢が甘く痺れた。
「ひん・・・あっ・・・ああ・・・・・・」
響の腰が自然と揺れて、膝を立てる。
咲斗は今度はもう一方の突起に唇を移し、丹念に舐め上げ味わっていく。
「あん・・・ふ・・・あぁっ・・・・・・」
その痺れるようなじれったい快感に、響の身体は敏感に感じて熱くなりはじめる。勃ち上がっていくモノは、身体を密着させている咲斗の身体にも当り、咲斗が動くたびに擦られ新たな快感を生んでいく。
「んん・・・・・・はぁ・・・ぁぁ・・・・・・あっ」
咲斗はその高ぶりをわかっているはずなのに、そこへは触れる気配は一向に見せず、今度は少しずつその舌先を滑らせわき腹辺りをゆっくりなぞる。そのこしょばゆいような快感に、響は身体をくねらせて逃げよう動いた。
「やぁ・・・うう・・・咲・・・斗・・・さん・・・・・・っ・・・さきっ、ひぃっ！」
咲斗の舌先が響の腰骨に到達したとき、咲斗は響が弱いそこに歯を立て甘噛みを繰り返した。
「ああっ・・・いや・・・やだぁ・・・・・・咲斗さんっ」
響はなんとか逃げようと、身体をひねる。咲斗はその動きを上手に抑えつけて、その舌先をどんどん下へと下ろしていく。
咲斗の髪が、響の待ちわびるところを掠めて通る。そんな微かな動きにも、期待に震えてしまう。それを口に含まれる快感を知っている身体が、待ちわびているのがわかる。
しかし、響の期待とは裏腹に咲斗はそこを無視して、立たせた響の足の付け根をきつく吸い上げた。
「ああっ！」
そしてきわどいラインに丹念に舌を這わせる。その仕草で咲斗の頭が動くたびに、その髪が勃ち上がった響のモノを何度も掠める。
「あぁ・・・咲斗さん・・・、咲斗さん・・・」
欲しいところから微妙に外された快感に、違う、そこじゃないと言うように響はなんども腰を揺らすが、咲斗は一向に気にする気配もなく、今度は逆の足の付け根から攻め上げてくる。そのじれったすぎる快感に根負けしたのは、響の方だった。
ちゃんと舐めて欲しくて、頭の中は、このどろどろと溜まり出した快感を吐き出したすことしか考えられなくなって。
「う・・・っ、咲斗さん・・・・・・お願い・・・・・・、もう・・・っ」
響のモノは既に先走りでとろとろになって、裏まで伝って流れおちている。もうこれ以上我慢できなくて、うわごとのように言う。
「お願いっ・・・・・・だからぁ・・・」
その懇願の言葉に咲斗は満足したのか、ようやく響のモノを口に含んだ。
「ああっ！・・・あ、うぅ・・・・・・はぁっ・・・ああ」
その待ちわびた目もくらむ快感に、響の口からは一層高い嬌声の声が洩れる。
「ひぃ・・・・ぃんん・・・・ぁぁ・・・・あ、ん・・・・・っ」
咲斗が、丹念に根元から先端へと舐め上げていき舌先で亀頭を攻めると、響の嬌声は止まらなくなっていく。
「あ・・・ああ・・・・・・っ・・・・・・ああああぁぁぁぁぁぁ・・・」
さらにきつく吸い上げられると、響の背中が大きくしなった。焦らされていたモノは我慢が出来ず、あっという間に一気に高みへと追い上げられ、その精を咲斗の口の中に放った。
その響に、咲斗は息を戻す間も与えず、今度は濡れそぶった蕾に指を立てた。
「ひゃぁっ・・！」
咲斗の指も響の先走りに濡らされていて、そこはなんなく飲み込んでいく。
「ああ・・・まっ、待って――――まってぇ・・・・・・っ」
響の身体は、まだ快感の余韻に震えているのに咲斗は容赦なかった。1本目が飲み込まれると、大して慣らしもせずにすぐに指を2本に増やし、中を掻き回していく。
「やぁ・・・ああ・・・・・・っ・・・ぁぁ・・・・・・」
咲斗にすれば何度も抱いたその身体だ。響の感じる場所も全てわかっている。咲斗はわかった上で、うまくそこをはずして中を引っかいていった。
「ああっ！いっ―――ああ・・・う、んん・・・・・・・・・っ」
指を突きいれながらも、咲斗はまた響の腹からわき腹あたりに唇を這わしていく。
中を掻き回される直接的な快感と、舌からもたらされるむずかゆいような快感、二つの快感に響はなすすべもなく身体を震わせるしかなかった。
その強い快感に頭がおかしくなりそうで、なんとかやり過ごそうと頭をぱさぱさと揺らす。せめて唇を引き離さそうと咲斗の肩に手をかけてみるも、快感に震えるそれではたいした力も出ず、押しのけるというよりは、ただ縋っているだけになって。
「さきと・・・さん・・・い、ひぃ――――あ、んん・・・っっ」
1度出したはずのモノはすでにその力を取り戻し、しっかりと勃ちあがりまたもその先端からは雫が流れ落ちる。
「いぃっ・・・・・・ああぁぁぁ―――・・・・・・っ！」
わざとはずしていた咲斗の指が、今度は響の感じるところを強く突いてきた。その快感に、一瞬背中がしなるが吐き出すほどの快感には少し足りない。そして咲斗の指も、すぐにそこを離れまたばらばらと中を掻き回していく。
「あぁ・・・、さき、と・・・・・さんっ・・・もう―――――っ・・・」
響の中は段々と慣らされ、それだけでは物足りないと奥が疼きだす。もっと強い刺激が欲しい。
もっと奥に。指などでは届かない最奥。
そこが、疼いて。
響は無意識のうちにもっと奥で感じようと腰を揺らし、中の襞は指を締め付け奥へ導こうとうごめいて行く。しかし、咲斗の指時折深く入ってきても、すぐ引き抜かれ浅い部分を掻き回し蹂躙するだけ。その指は、奥にも、感じるところも突いてはくれない。
その苦しく開放されない快感ともどかしさに、咲斗の瞳からは次々と涙がこぼれる。
「あぁっ・・・咲斗さん・・・あ、んん、・・・もう―――――お願い・・・っ・・・」
耐え切れず、響は再度その言葉を口にするが、先ほどとは違い咲斗はその言葉だけでは十分じゃないのかなんの行動も起こしはしなかった。
中途半端な快感に耐えられなくなっている響は、物言わぬ咲斗に、再度請うしかない。
「お願い・・・・・・もう、入れて・・・咲斗さんの、・・・っ入れてよ」
響は真っ赤になって言い募った。
―――――欲しい、欲しくてたまらない。
奥に突き立てて、掻き回して、それを感じてイキたい――――――響はそれだけを考えていた。
「咲斗さんので、イカせて――――っ」
その言葉に、くすり、と空気が揺れた。
快感に翻弄され、羞恥で真っ赤になっていた響は気付かなかったけれど。
咲斗は一気に指を引き抜き響の足を抱え上げ、自分の十分に高ぶっているモノを、そこに押し当てる。
「・・・・・・っ」
押し付けられる圧迫感に、響は次にくる衝動を想像して一瞬息を呑む。何度されてもその瞬間だけは慣れなくて、怖くて。救いをもとめるように、閉じて瞳をあけて咲斗を見る。
その一瞬、二人の視線が絡み合う。
「さき――――・・・っ、あああぁぁぁ――――――！！」
咲斗さん、と呼びかけようと開いた口はそのまま激しい嬌声へと変わった。伸ばそうとした手は、そのままシーツを掴むほうへ逆戻りして。
「ああ・・・・・・、うっ、ああぁぁぁぁ―――」
指などとは違う、圧倒的な存在感を持ったそれは、響の襞を擦り上げて奥へと進んでいく。
その衝撃で響は再度ぎゅっと目をつむり、その指でシーツを固く握り締め背中を浮かせて耐える。
「は・・・ぁ・・・」
待ち望んだとはいえ、その圧迫感は息をするだけでもリアルに感じられ、響はゆっくりと詰めていた息を吐いた。
「ああっ・・・いっ・・・・・・ああぁぁ――――」
一瞬の間のあと、咲斗が何の前触れもなくいきなり大きく動いた。咲斗は、その手で響の腰を掴んで激しく腰をグラウンドさせていく。
「ひぃっ・・・んっ、あん――――あああ！」
そのいきなりの激しい動きに響は追いつく事もできずただ、止めることの出来ない嬌声を上げる。ぎりぎりまで抜かれては、最奥まで叩きつけられる。
「ああぁぁ――――っ・・・ひぃっ・・・いい・・・・・・っ！」
全てが持っていかれるような感覚。喪失感が襲い掛かかるかと思うと、凄い圧迫感を持って叩きつけてくる快感。
「うっ・・・ぁぁぁ――――あああっ――――・・・！」
響の手はシーツを硬く握り締め、ただ咲斗の動きに合わせて身体が揺さぶられていく。
「ああぁぁぁぁぁ―――・・・・・・！！」
そして、感じるところを思いっきり突き上げられた時響の身体が大きく跳ねあがった。
「ひぃぃ・・・っ、あああああぁぁぁぁぁ―――――っ！！」
さらにそこを擦り上げるように突き上げらて、響の口からは一層高い叫び上がり、その背中は大きくしなった。響は、衝撃に目の前が真っ白になって、前を触れられてもいないのに2度目の精を飛び散らした。
そしてその直後、中にも注がれるのを感じる。
「ぁぁ―――・・・・・・、ぁあ・・・あ・・・っ」
その感覚に背中が震え、身体が弛緩する。
肩で大きく息をして、ぐったりとベッドに身体を投げ出すと咲斗が中からゆすり上げてきた。
「んっ・・・」
「まだだよ」
まだ、終わらない。咲斗の発せられた言葉に響は泣きそうになる。言われた事が悲しかったんじゃない。
その、冷たい、それでいてどこか苦い声の響き。
身体繋がっているのに、その存在が遠くて、遠すぎて、響は目を開けて咲斗を捉えようとその手を咲斗へと伸ばす。けれど、その指先が咲斗に届く前に身体を反転させられ、咲斗に腰だけを持ち上げられ四つん這いの姿勢をとらされた。
「あっ・・・、ね、っ・・・さきと・・・さん――――」
もう1度声が聞きたい。
一度も抱き締めてくれない咲斗に、ただ抱き締めてもらいたくて、響は途切れる声で必死でその名を呼ぶ。
けれど、咲斗は無言のままに今度は後ろから、その身体を突き上げた。
「っう・・・はぁ、んん・・・あっ――――ああ」
咲斗が響の背中に口付け、何度も何度も強く吸い上げていき、その白い背中に点々と赤い印を残していく。
「あぁ・・・・・・、ふぅん、んん――――ああぁぁ・・・・・・・・・」
その舌先で背骨を舐め上げる。
響のモノが3度目だというのに、また徐々に頭をもたげていく。そして中に入っている咲斗のものも、しっかりとした質量を保っていて。
響は絶望的な暗い思いがして、この苦しい快感の時間がまだまだ終わらない事を知る。
―――――咲斗さん・・・・・・
後ろからの攻めでは、その顔を見る事も叶わなくて、寝室にはベッドがたてるギシギシという音と、掠れた響の声だけが響いていていく。力の入らなくなった身体をベッドに投げ出して、ただ揺さぶられるままになっていると、身体を半分捻られてその足を抱え上げらて、ふと目に映る咲斗の顔が霞んで見えなくて。
―――――名前を呼んで・・・
その思いは、かすれた細い悲鳴へと姿を変えて、響は真っ暗な世界と苦痛の混じる快感の狭間で意識を漂わせていた。
何度、絶頂を迎えたのかもわからなくなった頃、いつしか喉が枯れ、嬌声もあがらなくなる。
その暗闇に、ベッドが揺れる音と身体が打ち付けられる音が響いていて。
―――――おはようって、笑って・・・・・・・・・・・・・・・
自分の涙と涎で、ぐちゃぐちゃになったシーツに顔を埋め、響はその事だけを夢みて。
暗闇に堕ちていった。
響は喉がからからに渇いて、痛みすらを覚えて目を覚ました。けれどいつも横に寝ているはずの、自分を抱き締めて眠っているはずの咲斗の姿がそこに無い。
「・・・・・・咲斗さん・・・？」
かすれた声で呼んで見ても、当然暗闇からの返事もない。
この部屋に来て今まで、目が覚めた時咲斗がそばにいなかったことがあっただろうかと、響は考える。一人で寝ても、起きる時はいつも咲斗の腕の中だったのに。
―――――どこ・・・？どこにいるんだろ・・・・・・・・・
響は不安な思いにかられ、まだ力の入らない足をゆっくり床に下ろした。
「痛っ・・・」
体重をかけて立ちあがろうとした瞬間に、腰や、その奥がズキッと痛んだ。痛いというか重いというか。結局あの後何度したのか、響にはその途中からの記憶がなかった。
―――――そういえば、俺いつの間に気を失っちゃったんだろ・・・
「咲斗さん・・・・・・・・・」
頼りなげに、もう1度暗闇の中でその名を呼んでみる。それだけで涙が出そうになる。結局ちゃんと話もしないで、身体だけ繋げてしまった。その行為が、こんなに悲しいとは思わなかった。
身体だけ、その時はこんな気持ちにはならなかったのに。
今まで、気持ちが伴わないセックスをしたことだって、あったのに。こんな気持ちにはならなかった。
―――――ちゃんと話さなきゃ。
まだ、何をどう言ったらいいのか、頭の中がまとまらなくてぐちゃぐちゃだったけれど、このままにしておくことは響には耐えられなかった。
新たな決意を胸に、響は意を決して痛みの残る身体で立ち上がり、慎重に一歩づつ踏み出していく。一歩歩くたびに苦しくてまだ違和感の残る身体を持て余して、リビングの扉までがかなり長く感じられた。
やっとの思いでたどり着いた扉を、そっとあけてみるとそこも真っ暗だった。
「・・・・・・あ・・・れ」
―――――咲斗さん・・・いないの？
もしかしたら咲斗は仕事に行ったのかもしれない、普段ならば家に居る時間ではないし・・・、と響が思い始めた時。
「響？」
「咲斗さん！？」
暗闇の奥から咲斗の声が聞こえた。
そこにいた事にホッとして、名前を呼ばれた事に、安堵の息を洩れた。
「どうしたの？真っ暗で。電気つけるよ？」
「いいっ、・・・つけなくていいから」
「え・・・」
響は声の聞こえるほうへ視線を向ける。
「どうしたの？」
その咲斗の姿をなんとか目に捉えたいと、暗闇に慣れ始めた目を必死にこらす。
「喉渇いて・・・それに・・・・・・」
「それに？」
―――――ああ・・・・・・いたぁっ
そこに、リビングのソファに座るシルエットが見えた。
「それに―――咲斗さん、いなかったから・・・・・・・・・」
それだけ言うと、響は耐えられず泣き声になってしまう。緊張が解けた身体は力が入らなくて、ぐにゃりとその場に崩れ落ちてしまった。それは無茶をされた疲労感も大いにあったのだが。
すると、咲斗が慌てて駆け寄ってきた。
「大丈夫？・・・・・・ごめんね・・・。ベッド戻ろう？お水持ってくから・・・・・・」
その声は、響よりも泣きそうな声で。
咲斗は響の肩に手をかけて立たそうとする。その抱き起こすでもない、微妙な距離が今の2人の間にある歪に思えて、響はいやいやと首を振った。
「響・・・大丈夫、もう何もしないから。ただ運ぶだけだから」
それでも響は首を振り続ける。そうじゃないんだ、と。
「響。お願い。身体辛いでしょ？本当に何もしないから―――――もう、2度としないから」
その言葉に響はハッと顔上げて、咲斗を見る。
「・・・2度と・・・？」
―――――2度とって・・・どういう意味・・・・・・・・・？
暗闇の中でも、至近距離なら相手の表情だってわかる。咲斗はまっすぐに響を見つめていて、その咲斗を響の見開いた瞳が見上げる。
「うん、もういいから」
ドクンと、響の心臓が鳴った。
「もう、ここ、出て行っていいから」
開放してあげる。
そう言って、咲斗は笑った。
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