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 響がこの部屋に来て既に1週間の時間が過ぎたが、そのほとんどの時間を響はベッドの上で過ごしていた。
 最初の日犯されて、ローターを入れられてからも散々鳴かされ、その喉が枯れるまで咲斗は許さなかった。ブラックアウトして眠りについたその後も、目を醒ませば何度も咲斗のモノを挿れられて掻き回されイカされた。それは快感が苦痛に変わって気を失うまで嬲られ続け、身体を嬲られる感覚にまた目を覚まし、何度も許しを乞い、恥ずかしい言葉も言わされた。
 初めて男の味も味あわされた。
 ずっと犯され続けた身体はまったく足腰が立たず、自分で歩く事もままならない。響はこの部屋に来て、自分の足で移動した記憶がほとんど無い程だった。
 トイレに行くのも担がれないと行けない事もあって。それは物凄く恥ずかしくて情けなくて悔しかったが、排泄の要求には我慢できないのが人間という物だ。しかも、ひとりで立ってするのすらもふらふらで、してるところを支えられないと出来ない時さえもあった。初めて他人の手を借りて用を足した時は、あまりに恥ずかしくて屈辱的で、響は散々泣きじゃくった。その時はさすがに咲斗も困り果てて、なだめすかしたりはしたが、それでも手を緩める様な事はしなかった。
 今日も、といっても響にはいつ日付が変わったのかもわからなかったが、散々鳴かされ、最後は泣きながら止めてと何度も懇願して、もうからっぽで何も出ない絶頂を向かえ、気を失ってしまったのだった。
 咲斗のセックスは、まるで何かに飢えたような何かを埋めようかとする切羽詰った感を持って響を掻き抱いていた。
 あれからどれほどの時間が過ぎたのか。
 響はふと喉がかわいて目を覚ましたら、いつも横にいる咲斗がいなかった。だからといって立ち上がる気力も呼ぶ元気もなく、疲れきった身体はまだ完全に目覚める事もなく、響はただぼんやりと空中を眺めていた。
 泣き過ぎて、目が痛かった。
 頭はもやがかかったようで、まるではっきりしない。
 密かな足音には気づきもしないでぼうっとしていると、突然視界の中にコップを持った咲斗が立っていた。
「あ、目が覚めた?」
「ん・・・」
「お水飲む?」
「ん」
 身体を起こす事も億劫な響を咲斗が支えて起こしやり、口元にコップを持っていき水を飲ませた。
「はぁ・・・」
「大丈夫?」
 あんまり辛そうな響の様子に思わず尋ねた咲斗を、響は誰の所為だ!という思いを込めて睨んだ。腰は痛いし脚には力が入らないし喉はからからだし、目も痛い。少し動くだけであちこち痛くて、全てが億劫なのだ。
「そんな顔しないでよ。お風呂湧かしたけど入る?」
 少し弱った声で言う咲斗は、最初の頃よりも少し和らいで見える。この顔に、見慣れたからだろうか。
「はいる」
 気を失った後、咲斗が簡単に身体を清めてくれたみたいだったが、激しく犯された身体は前も後ろもまだ濡れてる感じで、なんとなく気持ちが悪い。
「じゃぁ、ちょっと待ってね」
 言うが早いか咲斗は履いていたパンツを脱いで裸になると、響を抱え上げてバスルームまで運んだ。そしてそのまま床に響の身体をソッっと置くと、頭からシャワーをかけた。
 これも何も今日が初めてという行為ではない。最初はお姫様だっこをされるが酷く嫌で抗った響だったが、今はもう良くも悪くも開き直っていた。
 一緒に風呂に入る事も。
「お湯、熱くない?」
「うん、ちょうどいい」
 気遣う言葉に響は言葉を返す。
 響がこの1週間でわかった事は、咲斗は自分に危害――ある意味セックスを強いる事も危害と言えなく裳無いのだが――を加えるとか、そういう気はないようだという事。
 それと、セックスは別にしてそれ以外の所ではとても優しいという事だ。汚れた身体を綺麗にしてくれるし、苦しそうだと気づかってもくれる。なら、もうちょっと手加減してくれ!とは思うのだがどうもそれは別問題らしい。食事も、あまり料理は得意ではないようだが一生懸命おいしいのを作ってくれる。
 乱暴な言葉を言ったりもしない。
 最初は、いきなり"買われた"という事実と押し倒された事で怖くて、これから先一体自分はどうなるのだろうか不安も一杯になったが、そういう意味では少し精神的には落ち着いてきた。
 だからと言って、それが打開策になるわけでもない。逆に数日を過ごしてみて、なんだか咲斗の真意が見えなくなって来ていてそれはそれでちょっと不安になってきたりもしている。
 ―――― 一体何が目的なんだろ?
 それが、響にはわからなかった。
 まさか、身体のみ?
「ほら、後ろ向いて」
 考えにふけっていると咲斗の声が降りてきた。その言葉に響の眉が嫌そうに寄せられる。
 響はこの時が一番嫌だった。
「自分で・・・」
「響」
 有無を言わせない咲斗の声が返ってくる。こういう時だけは絶対譲らないし、咲斗は妥協しない。それもこの数日で響が学んだ事だ。
 なんで?と一度聞いたら、全部したいから、と響にはわけのわらない答えが返って来た。だってこんなの、何が楽しいと言うのだろう。
「響、早くしなさい」
 きっぱりとした口調に、響は意を決して後ろの向いて膝立ちになった。
 中を綺麗にしないといけないのはわかるんだけど、こんな最中でもなんでもない時に後ろに指を入れられて掻き回されるのが、響は嫌だった。ただ、綺麗にしてるだけなのに、後ろに挿れられる事に慣らされた身体はその行為だけで感じてしまう。思わず漏れる声は耳をふさぎたいような声色で、バスルームに反響する。それが死ぬ程恥ずかしかった。
 こんな事、ここへ来るたったまでは知らなかった事なのに。
 ようやく嫌な行為が終わると、響は咲斗の手で全身も髪も綺麗に洗われた。既にされるがままである。
 咲斗が好んで使っているシャンプーやボディーソープはそこらへんで売っている物とは違う高級品で、柑橘系のすこし甘酸っぱい様な香りは凄く良くて響は密かに気に入っていた。
 そして一緒に湯船に浸り優しく髪を梳かれると、これまた凄く気持ちよくて睡魔に襲われて、うとうとしてしまう。身体を預けてまどろみに揺れるこの時は、結構いいなと響は思っていた。
 人間というのは、どんな環境下でも何か良いところを見つけようとするのが凄いところだろう。
「響、あがるよ?」
「・・んっ」
 咲斗はそんな響をそのまま抱え上げてバスルームを出ると、バスタオルですっぽり包んだ。そのタオルで響がのろのろと自分の身体を拭く間に、髪を拭いてやる。
 そして自分の身体や髪を拭いて、今度はバスタオルごと響を抱え上げ部屋のソファに寝かした。
 響はぐったりとソファの上で咲斗を眺めていた。
 ――――やっぱり、かっこいいよなぁ・・・
 色々問題のあるこの状態でなんだが、響はそれだけはしみじみと思っていた。
 等身のとれた引き締まった身体、しなやかな手足、そして顔はきりっとした強い瞳に通った鼻筋。クスっと笑う薄い唇の全てがバランスよくかっこいいのだ。ちょっと同じ男としてはおもしろくないくらいに。
 その咲斗がふいに視界から消えて、戻ってきたと思ったらスーツ姿になっていた。
 ここへ来て、咲斗がそんな風な格好をするのを初めて見た。
 それがまた、めちゃくちゃ似合う。黒のスーツにグレーのシャツ、ちらりと見える袖のカフスは人目で高価なものだと分かるし、その奥にされている時計など響の目玉が飛び出て呆気に取られるくらいに高価なものだ。
 それにずっとはずしていたピアスもしている。
 ――――なんだか、かっこいいだけじゃなくて、色気もプラスされてる・・・・・
「咲斗さん?」 
「あれ?起きてた?」
 くすくす笑いながら、響の顔を除きこむ。
 キス、されるのかと一瞬身構えた響だが、そうはせず咲斗は離れて行った。
「今日から仕事に行くんだよ」
「あ・・・っと?ホスト?」
 それはここに来て3日目だっただろうか。何気なく、何をしている男だろうかと興味を持った響が聞いたのだ。"仕事は何?"と。その時咲斗はホスト、とだけ言って響の唇を塞いだ。
 それ以来仕事の話など一切出なかったのに。
「本当は後2〜3日は休むつもりだったんだけど、俺じゃないとダメって客の予約が入っちゃったからね、仕方ない」
「ふーん、売れっ子なんだ?」
「売れっ子っていうか、経営者だから。よっぽどの常連のしかも上得意じゃないと、俺はもうフロアに出る事は無いんだ。俺はそんなに安くないからね」
 少しばかり不遜にも見える笑みを浮かべて、咲斗が言う。その言葉の中身に響の瞳が大きく見開かれた。だから8000万も、とやっと納得も出来たのだ。
 実際咲斗の予約を取り付けるには、1間の客ではまず無理だし、常連であってもある程度以上の金を使わないと相手にしない。同伴ですら高価なチャージ料がかかり、接客させるのも特別料金。その全てを払い、さらに他の客が完全に負けを認めるほどの金額を店で使えなければならないのだ。
 そんな客はそうそういるものでもない。
 それでも、咲斗と同伴したいと貢ぐ客は後を絶たない。ある種それは女のプライドを大きく満足させるのだろう。
「経営者がそんなに休んでていいのかよ」
「うん、本当はまずいんだけど、まぁ弟がいるし片腕の男も優秀だからね」
「咲斗さん、弟いるんだ?」
「うん、今度紹介するね」
 着てる服といい、このマンションといい、置かれている家具といい、相当儲かってるんだろうなぁと響は考えた。金額まではわからなくても、高いか安いかくらいはなんとなくわかる。
 そして、このルックスなのだ。きっと女には事欠かないだろう。
 ――――なんで俺なんかを買ったりしたんだろ?
「なぁ・・・俺、その店で働くの?」
「なんで!?ホスト、したいのか?」
 響の問が意外だったのだろう、咲斗は少しびっくりしたように聞き返した。
「えっ、ううん、違うけど」
「けど?」
「・・・その、俺を買ったのはそこで働かせる為なのかなぁーって」
 その言葉にびっくりしたように自分をみつめる咲斗に、逆に響が焦った。
「だってっ、その、それ以外に買った理由がわかんないしっ。俺そんな特技とかもないしさ。なんでなのかなぁーって・・・、まさかエッチの為だけってわけ、じゃないだろ・・・?」
 その言葉に咲斗の瞳がスーッと細められた。
「俺は店で雇う子をいちいち買ったりしないし、抱いたりしないよ」
 その咲斗の声色が明らかに怒ってる響きなのだが、わずかばかりの付き合いの、しかもほとんどをセックスのみですごした響にわかるはずもなく。
「じゃぁ、なんで?――――咲斗さんは俺なんて買ってまで相手にしなくても、その、・・・不自由しそうにないし」
 それは響にとってはごくごく素朴な疑問だった。ここに来てから抱かれる以外は全て咲斗がしていて、8000万も出して買った理由がみつけられなかったのだ。
 もし、何かあるなら早くしっておきたいという焦りもにた気持ちもあった。
「不自由しないって、なんでわかる?」
 この時、明らかに咲斗の回りの空気の温度が下がり、咲斗の瞳に怒りと嗜虐性が宿った事を響は気付かなかった。その声の冷えた響きにも。
「だって一流ホストで金持ちときたら、女は放っておかないだろ?」
 たぶんそれは世間一般普通の意見で。口にした響を責るのは酷かもしれないが、それは咲斗の心に深く陰をさすものだった。
「響も、そういう事言うんだね・・・」
「え?」
 ぽつりと呟かれた咲斗の言葉は、響の耳にははっきりと届かなくて響は聞き返す。けれど咲斗は、今度は違う言葉を口にした。
「あいにく俺くらいになると、そうそう客と関係するわけにはいかないんだ。だからと言ってそこら辺の女を拾ってするわけにもね。後々、俺とヤッたって触れ回られても困るし、中には子供が出来たとか言い出すようなのもいるからね。その点男はそういう心配はないし、触れ回られる事もない。・・・触れ回れないよね?男に挿れられただけで感じました、なんて」
 わざと選ぶ、傷つける言葉。響の顔はカッと赤らんだ。
「・・・・・っ」
「挿れられたくて、いやらい言葉で誘って、なんども腰を振っておねだりしました、なんてね?」
 響は咲斗の言葉に唇を噛み締め、咲斗を睨みつけた。しかし、その視線の先には自分以上に怒って、冷たく見下ろす咲斗の瞳があった。
 この時初めて自分の失言と、咲斗が怒っているらしいことに響は気がついた。しかし、響には咲斗が何に怒っているのかまでは理解できなかった。
「俺は、響を店に出す気はない。第一ホストの給料ではいつ返済が終わるかわからないよ。まぁ、ナンバー1にでもなったら話は別だけど、最初は下働きの安月給だし、服代とかで赤字になるのが普通だね。まさか、すぐにでもナンバー1になれるとでも思っているわけじゃないよね?」
「・・・じゃぁ」
「借金は身体で払ってもらう。そう、響を一晩10万で買おう。利子は10日で1割。さて、借金返済に何年 かかるかな?とりあえず7日間で70万の稼ぎというわけだ。でも、sexしなかったら稼げないから利子がかさんでいくねぇ。ま、せいぜい俺を誘ってその身体を売る事だね」
 さっきまでの優しい雰囲気を一変させて、冷たく咲斗は言い放った。その顔からは、一切の表情を読み取る事は出来ない。
 その咲斗を睨む響の瞳にうっすら涙が浮かんで来た。泣くまいと強く噛み締めた唇からは、血が滲んで口の中に鉄の味がした。
「そんな風に口を噛むと傷になる」
 響の様子に咲斗はとがめるように口に手をやって、上を向かせた。その濡れた瞳に咲斗は自分の言い過ぎを後悔して、眉をしかめた。
 ――――泣かせたいわけじゃないんだけどな・・・・・・・・・・・・
 少し切なげに眉をしかめたその咲斗の表情の意味を、響は完璧に誤解して受け止めた。不機嫌に自分を見下しているように思えたのだ。
「・・・るさい」
 自分は性処理の為に買われたと、都合のいい女の代わりなのだと咲斗に言われた事がひどくショックだった。
「響?」
 凄く惨めで悲しくて、そして胸を締め付けた。
「んだよ、俺の身体に傷でもついたら困る?口が切れて痛くても、ちゃんとあんたのモノくらい銜えてやるよ」
 投げやりな言葉は響は精一杯の強がり。優しいところもあるなんて思った自分が、惨めで悲しかったから。
「あんたにはそれだけでいいんだろ!」
 その言葉に咲斗の顔が一瞬歪んだ。ひどく悲しそうに。響のあごを捉えていた手にも力が入り、今度はその痛みに響の顔が歪めた。
「そうだね」
 そう呟いた声は、二人の間に音を立ててヒビを入れた。
「そんなに俺のものを咥えたいとは知らなかった」
「なっ・・・」
 そんな事は言ってないっ。そう言う前に咲斗の手が響から離れて、咲斗は寝室へと一瞬姿を消した。戻って来たときには、その手には小ぶりのバイブとロープ、鎖を持っていた。
「・・・な、に?」
「残念だけど今は響の期待に答えている時間はない。かわりに後ろの口にバイブを咥えさせてあげるよ」
 その言葉に、響がサッと青ざめた。
「いや・・・やめ・・・っ」
 思わず後ずさる身体を、咲斗はなんなく捕らえた。
「銜えたいんだろ?」
「ちがっ・・・そんな事言ってない!」
 響は抗議の声を上げるが、一週間嬲られ続けた後だ。抵抗にも力が入らない。咲斗は響を床に這わせて、身 体に巻いていたタオルを剥ぎ取り腹の下辺りに押し込むと、後ろにジェルを塗りつけた。
「あっ・・・、う・・・やめっ!」
 いきなり2本の指が押し入り、中を掻き回す。
「ひぃ!!・・・あ・・・・・いや!・・・お願い、やめッ・・・・・止めてぇ――っ!!」
 響の目の前にはつかむ物もなく、床のフローリングに爪を立てる。
 乱暴に中を掻き回し、前立腺の辺りをわざとかすって指が抜かれ、バイブを押し当てられる。
「響、入れてって言いなさい」
「いやだっ、入れないで!」
「前、勃ち上がってきてるよ?」
 くすっと咲斗は笑いながら、それを指ではじく。
「あぁ―――っ・・・・」
「1週間で随分淫乱な身体になっちゃったねぇ」
 咲斗はわざと責めるような口調で言うと、一気にバイブをねじ込んだ。
「ひぃ―――――ぃっ!!あぁぁ――――!」
 咲斗は根元までバイブを入れると、それが出ないようにロープで縛って止めた。その時、響のモノの根元にもロープを巻きつけ、勝手にイク事は出来ないようにする事も忘れなかった。
「動かすのはやめておいてあげる。帰るの朝方になるし、それまではまだ無理でしょ?」
「あぁ・・・・・・・・・っ・・・・・」
 そんなに慣らされる事なく、一気に入れらた衝撃に、響はまだ立ち直れず、全身をこわばらせてうずくまって いた。
 その片足に長い鎖のついた皮製の拘束具をつけ、その鎖の端を備え付けになっている家具の脚にはめ鍵 をかけた。
「あ・・・?」
「俺がいない間に逃げないようにね。本当はベッドに縛り付けておこうかと思ったんだけど、それじゃあトイレも食事も出来ないしね。これだとギリギリどっちにも届くから」
 確かに、鎖の長さはキッチンとその横のドアを開けた奥にあるトイレにはかろうじで行けそうだが、それではベッドで眠る事も風呂に入る事も、出来ない。
 さっきまで自分が寝ていたソファで横にはなれるだろうが――――
 咲斗を見上げる響の顔が恐怖を苦しさに歪んでいた。動かされる事のないバイブが、わずかでも身体を動かすたびに存在感を主張して、朝まで自分を苦しめるだろうと分かったからだ。まだ、時刻は昼の2時を回ったところなのに。
「そんな顔しないで。出来るだけ早く帰ってくるから。」
 とうとう、我慢できずに流れだした涙をすくうように、咲斗は優しくキスをした。
 何度も何度もついばむように、慈しむように咲斗は時間の許す限りキスを繰り返した。
 ただ、その優しいキスの意味を考える余裕が、響にはなかった。







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