puratina・第1章5








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 キッチンに響の驚きの声が響いた後、咲斗は慌しく由岐人と連れ立って出て行った。双子の説明も、勝手に刺激して煽った身体を何とかしてくれることも無く、だ。
 それなのに、響の足に鎖をつけていくのだけは忘れてはいかなかった。ただ、昨日よりも長い鎖を用意したらしく、今日の響は部屋のかなりの範囲を移動する事が可能になっていた。
 その事に気をよくした響は、ベッドシーツを取り替えて洗濯もして、部屋の掃除機なんかもかけた。咲斗の帰ってくる時間がわからなくて、とりあえず簡単な食事なら作れるように下準備もしておいた。
 それは、明け方近くに帰ってくる咲斗には結局無駄になったけれど。
 1日をすっかり主夫として、忙しく働いた。
 12時を回っても咲斗は帰ってこなかったので響はもう寝ようと思い、一旦は咲斗のベッドに横になった。咲斗のベッドは、ふかふかふわふわでとっても寝心地が良い上、シーツも上等なものなのか、肌に触れる感触がとても気持ち良かった。
 なのに今、もう夜中の2時という時間に響はソファの上に寝っころり、くだらない深夜番組を見るともなしに見ていた。
「はぁ・・・」
 眠れない。身体は疲れているのに、勘が冴えていて寝付けないのだ。
 口からは、自然とため息が洩れる。
 テレビ画面は深夜のブラックなバラエティ番組。響はそれにクスリともしないで、今朝の出来事を思い出していた。
 由岐人が迎えに来て、咲斗が慌てて着替えに部屋に戻っていった間の密かな時間。
 由岐人と響は二人きりだった――――――――




「はじめまして」
「・・・はじめまして」
 双子だとは聞いてなかった響は、びっくりしてまじまじと由岐人の顔を見つめた。
 ―――――ほんと、そっくりだなぁー
 顔の造作がまるで一緒なのだ。まぁ双子なのだから当然なのだが。違いといえば、由岐人の方が髪が少し長かっただろうか、それくらい。その由岐人の顔が、にやっと笑う。
「なんだか、凄い色っぽい格好させられてるね」
「あっ!!」
 ――――すっかり忘れてた!!
 響は咄嗟に真っ赤になってその場にしゃがみこんだ。しゃがみこんだとて、どうなるものでもないのだが隠す物が回りにないので仕方ない。考えるより先に身体が動いてしまったのだ。
 それを、由岐人は面白そうに見下ろす。
「ふーん、君が"響"か。ねぇ、咲斗に何してもらった?1週間も仕事休んでたんだから、当然最後までシテもらったよねぇ?」
「なっ!!」
 あまりのあけすけな物言いに、響の頬に朱が走る。同じ顔の双子とて、こっちとは初対面なのに。
「咲斗、うまかったでしょ?」 
「っ・・・何、あんたも体験済み?」 
 言われてばかりでいられるかと、響はなかばやけくそ気味に言い返す。
「残念ながら、同じ顔に抱かれる趣味はないし抱く趣味もない」
 ―――――じゃぁ、なんで上手いか下手かなんてわかるんだよ!!
 そんな響の気持ちをくみとったのか、由岐人がさらにくすくす笑う。
「玩具、入れられたりした?」
「っ!!・・・あんたには関係ない!!」
「入れられたんだぁー。咲斗、ひどい事するなぁ」
 絶対そう思っていない顔で、由岐人は言う。
「あんたはっ・・・その、いいのかよ!実の兄貴が男とこんな事しててもさ」
「うーん、別にいいんじゃない?僕、そういう事気にしないし」
「・・・・・・・・気にしろよ」
 男だぞ。ホモだぞ、ゲイだぞ。いいのかよっ!!
 じとっと見上げる響の視線に、先ほどまでとは違う、どこか寂しそうな瞳で由岐人は笑みをこぼす。
「仕方ないよ、咲斗は遊びの恋が出来ないから」
「え・・・・・・?」
 ――――あそび・・・?
「僕は逆に恋なんて真剣にするのもばかばかしいと思ってるから、男でも女でも来るもの拒まずなんだけどねぇ。あ、なんなら僕とも一回寝てみる?」
「はぁ!?」
 言われたことの意味を理解する前に、由岐人は床にへたり込んでいる響の両手を捕らえ、事もあろうにそのまま床に押し倒した。
「・・・ちょっ!!」
 響は慌てて抵抗するが、由岐人は響をまたいで腹の上に座った。
「まじで!やめろよ!!」
 響だってか弱い女の子ってわけではない、思いっきりの力で抵抗するが由岐人の発言に呆然としている時間が長すぎた。しっかり上に乗られた後では、うまく抵抗出来ない。
「何、咲斗は良くて僕はダメなの?」
「どっちも、やなの!!」
「そうなの?じゃぁ何、咲斗のレイプなの?かわいそー」
 全然可哀想ともなんとも思ってない口調で言うと、だんだん由岐人が顔を近づけてくる。
「やだぁ・・・っ」
 響はいやいやと、左右に首を振るが、逃げ場はない。
「観念して。僕もキス上手いと思うし」
 由岐人の一方の手が響の頭を捕らえて、もう一方は頬に添え逃げられないようにする。にこっと笑う顔は、咲斗と一緒のはずなのに一緒には見えない。
 わからない。
 でも何故かどうしても嫌だと思った。けれど由岐人の顔はどんどん近づいてくる。
「やだっ!!」
「由岐人、その辺にしておけ」
 咲斗の冷たい声に由岐人の動きが止まった。
「残念、また今度ね、響クン」
 くすっと笑いながら、響の上から由岐人はどく。
 その由岐人を、ホッとしながらも悔しくて、思わず睨みつけてしまう。けれど由岐人は相変わらず楽しそうだ。
「そんな顔で睨まれたら、咲斗じゃなくても押し倒したくなるなぁ」
「なっ、・・・!!」
「由岐人」
 咲斗は、響が今まで見た事ないような怖い目で由岐人を睨み付けると、未だに床にペタン座っている響をひっぱりあげた。
「響も簡単に押し倒されてるんじゃない」
「はぁっ・・・!!」
 それはあんまりだ!!と、叫ぼうとした時、一瞥された咲斗の目が怖くて響は思わず言葉を飲み込んだ。それでも、口の中では、ぼそぼそと文句は言っていたけど。
 ―――――だって、俺は悪くないのに。
 その後咲斗は響の足に鎖をつけて、ちょっと怒った顔で出かけていったのだ。



 ―――――やっぱり俺は悪くない・・・っ
 思い返してみて自分は何も悪い事はしていないと、響は思うのだ。そりゃぁ助けられなかったら、ちょっとやばかったかなとは思うけれどもだ。
 あんな格好をさせる咲斗にだって問題はある!!
「・・・じゃなくて・・・」
 口からは自然とため息が洩れた。
 響が今眠れなくてこうしてここにいるのは、腹が立ってのことじゃ無い。もちろん咲斗へのムカムカした気持ちがゼロでは無いけれど、響が寝れないのは由岐人の言葉が気になっていたからだ。
 "遊びの恋が出来ないから"
「・・・意味が、さ」
 ―――――わかんない・・・
 由岐人は確かにそう言った。あれはどういう意味なんだろう?
 よく分からないもやもやが心の中に溜まっていく。
 遊びで恋が出来ないから、俺みたいなんが必要って事?
 客や、言い寄ってくる相手と上手く恋愛ゲームが出来ないから、男の生理を処理するために必要って事?
 ―――――あ・・・なんか自分で思って落ち込んできた・・・
 誰だってお前を抱くのはただの性欲処理だ、なんて言われたら悲しくて辛いに違いない。例えそれが8日ほど一緒に時間を過ごしただけの、自分を買った男が相手だとしても。
 ―――――・・・はぁー・・・
 じゃあ本気の恋をしたらいいのに。
 って、最初の時咲斗さんが、立場上なかなか出来ないみたいな事を言ってたなぁ。由岐人さんは遊んでるみたいな事言ってたのに。器用、不器用の差なのかなぁ?
 だから、俺みたいなのが必要なのか。
 確かに男同士なら、生でやっても子供が出来る心配は絶対にない。
 俺としては、スキン使って欲しいんだけど・・・・・・・・・男の方が都合がいいってのは、なんとなく分かる。
 そういう事・・・・・・なんだよな。
 いや、それ以外に何があるというのだ。
 でも、それに8000万も出すかなぁー
 でも・・・相当稼いでるみたいだし、8000万なんて咲斗さんにしたら大した額じゃないのかも。・・・って事は、借金うんぬんより、咲斗が本気の恋をしたら俺は用済みって事!?
 という事は、俺としては早く咲斗に本気の恋をしてもらえばいいわけだ!!
 したら、晴れて普通の生活、普通の人生に戻れんじゃん!!
 うん。俺って頭いいーかも。
 ・・・・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだねよ?間違ってないよね?
 そこまで考えて、ふと脳裏の咲斗の顔が浮かぶ。
「――――なんで・・・」
 朝のおはようの優しい笑顔。
 抱くときの、ちょっとやらしい顔。
 イクときの色っぽい顔。
 ちょっといじわるな顔。
 ちょっとうれしそうな顔。
 抱きしめてくる時の、ちょっと眉を寄せた顔。
 8日間でたくさん知ってしまった、咲斗って人の事。
 ・・・なんだろう。
 何故か心が、ざわめき立つ。
 なんで?
 だって、それが1番いいよね?
 咲斗さんに本物の恋人が出来れば俺は自由の身になる。それが正しい。だってこんなのおかしい。
 そうだよ、俺はここを出て早く普通の生活に戻って、あ、剛に連絡しなきゃ。忘れたぁー怒ってるかなぁー・・・・怒ってるよなぁー・・・咲斗さん、電話かけさしてくれるかなぁ?
 嫌そうな顔するかな?
 怒るかな?
 たぶんそういう事は、頼んでも良いって言わない気がする。嫌って言うと思う。何故かわかってしまう。ちょっと眉を寄せて、ムスってした顔するんだよね。それがちょっと可愛かったりするんだけど。
 ―――――違う違う。そういう事じゃない。
 えっと、何考えてたっけ。・・・・・・そうそう、剛の電話と咲斗さんの恋人。そういえば咲斗さんはどんなんがタイプなんだろ?
 剛は、しおらしい女らしいのが好きとか言ってたなぁ。3歩下がってついてくる古風なのが理想だとかなんだとか。やっぱし、そういうものかな?
 俺はどうだろ?
 うーん、優しい子がいいなぁ。優しそうに、笑う・・・・・・・・・・笑う?違う、なんでここで、咲斗さんの笑顔が浮かぶんだよ!!違うだろ、俺。
 でも、そうなんだ、あの人笑うときすっげーとろけるみたいに優しい瞳するんだよね。
 好き勝手人の身体メチャクチャにしておいて、ヒドいのに、時々そういう瞳して笑う。
 本気の相手にはもっと、とろける顔になんのかな。なるんだろうなぁ、俺相手にあんななんだし。
 あの笑顔が。
 あの両手が。
 他の人のものになるんだ。
 あんな風に、誰かを抱いたりする。いや、もっと優しく抱くのかな、やっぱり。
 玩具は・・・・・・・・・・使わないよね。普通、愛してる人にあんな事したりしない。
 あんな事。しない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 俺は、ただの道具。
 買われただけ。
 だから、
 そう、
 間違ってない・・・・・・・・・・
 この答え正しいはず。
 なのになんで、
 ちょっと・・・・・・・・・・・苦しいんだろ。
 なんで?
 ・・・なんで?

 なに、俺・・・?





「・・・ん?」
「ごめん、起こした?」
「咲斗、さん・・・?」
 声に、なんとか目を開けようとして頑張った先に、咲斗の顔がある。
「うん、ただいま。なんでこんなところで寝てるの?ベッドよりソファで寝るのが気に入っちゃった?」
「ちがう。なんか寝れなくて。テレビ見てて・・・」
「寝ちゃったんだ?」
「うん」
「じゃあベッド行こっか」
「うん」>
「まだ4時だから、一緒に寝よう」
「うん・・・」
 頷いてベッドに運ばれて、程なくして咲斗がベッドに入ってくるとそのまま咲斗の腕に抱かれて、包まれた。
 それはあったかくて、なんか気持ちいい感触。響は無意識に、咲斗の背に手を回していた。
「響?」
「・・・ん・・・」
 もぞもぞっと動いた末に、響は身体を落ち着かせる。それが咲斗の胸に頬を寄せている体勢だとは、8割がた眠っている頭では思いも至らない。
 ただ、そこが、その場所が・・・うん。
「どうしたの?甘えた?」
 楽しそうな咲斗の声が降ってくる。
 だって、ここ、寝心地がいいんだもん。それだけの理由。
 あったかくて気持ちよくなっているその場所。
 そういえば、俺、寝る前、・・・何考えてたんだっけ?
「おやすみ」
 ああ、そうだ。

 ――――――そうだった・・・・・・・・・






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