最愛の日に・・・3


 綾乃はどうにも落ち着かなくて、部屋の中を行ったりきたりベッドから立ったり座ったりを繰り返していた。心臓はドキドキとうるさいくらいに高鳴っている。
 綾乃は風呂の中で、自分で考えられる限り綺麗にした。
 ――――けれど、これで本当に良かったのだろうか?
 何をどうしていいのかわからなくて、綾乃は少し不安になって、窓ガラスに写るバスローブを着た自分の姿が眺め見て、やっぱりまた落ち着かなくてうろうろと歩き回った。
 あの2学期の終業式の日に出会って、1年足らず。まさかこんなことになるなんて思ってもいなかった。
 今なら思える、あれは運命の出会いだったと。門を出て出会った場違いな人に見惚れて、話される内容にため息が出て涙が出そうだった。きっとこの人も迷惑な事だと思っているに違いないと、向けられる優しい眼差しにも、言葉にも頑なだった。
 それなのに、いつしか好きになっていた。
 気づいてしまったそんな思いは、思い上がっていると諦めかけて両思いだとわかった時は、その一瞬で世界が終わればいいと思った。それぐらいにうれしくて。けれど、やっぱりうまくいかない気がして、それも当然なんだと納得させて別れを決意して。もう2度と会うことのない人だと思って南條家を出たのに、迎えに来てくれた。
 意地を張る自分にずっとそばにいてくれて。
 そして今こうしている、奇跡。
 たった1年足らずではないような、あまりに色々あった日々。それはあまりにもリアリティに掛けていて、今にも夢から目を覚ますんじゃないだろうかと思ってしまう。
 綾乃はそんな自分の思いに急に怖くなって、きゅっと自分の腕で身体を抱きしめた。今、全部夢で現実はやっぱり叔母の家で震えているのだとわかったら、きっと頭がおかしくなってしまう。
 この今が全部嘘だとしたら、きっともう一人では生きていけなくなってしまうから。
 それぐらい大好き。
 それぐらい、今の生活が全てで、幸せだから。
 それを失くしたらと思うと、怖さが押し寄せて飲み込まれそうになってしまう。
「綾乃?どうしたんですか、突っ立って」
 綾乃は自分の思考に囚われていて、雅人がバスルームから出てきていたことに気づかなかった。声を掛けられて、弾けたようにそちらに顔を向ける。
「・・・寒いですか?」
 自分の身体をぎゅっと抱きしめている綾乃の仕草に、雅人は湯冷めでもしたのかと思って心配そうに顔が曇った。室内はあたたかくて、そんなはずはないのに。
「う、ううん」
 綾乃は首を横に降った。雅人がそこにいる。ちゃんと立って自分を見つめていてくれている。それだけで、急速に襲ってきた不安感が消えていく気がした。
 何を怖がっていたのだろうと。雅人はそこにいるのに。
 そして、捕らえた雅人の顔に綾乃は見惚れてしまう。まだ少し塗れた髪が額にかかっていて、バスローブの間からは鍛えられた胸板が見えていた。少し心配げに寄せられた眉と、その堂々とした雰囲気がかっこよくて色っぽかったから、その全てに綾乃は目を奪われていた。
 少しずつ雅人が近づいているのにも気づかない程に、見惚れていて。その顔がアップに迫ってクスリと笑われた。
「そんなに無防備に見つめないでください」
「あ・・・っ」
 途端に綾乃の頬が真っ赤に染まって、恥ずかしくて俯いてしまう。そのあごを雅人が指で捕らえて、上を向かせる。
 そしてその唇ふさいだ。優しく押し付けられる唇。
「愛してます」
 唇を離して呟かれた言葉に顔を見つめると、その瞳は優しさよりも強さと決意が滲んでいた。まっすぐに綾乃を射抜く様に見つめる瞳に、綾乃は泣きそうになってしまう。
「――――愛しています」
 雅人はそれが何かの宣誓の様にもう1度呟くと、綾乃の身体をベッドへと押し倒した。
「あ・・・」
 綾乃の世界がいきなり動いて、背中を柔らかなベッドに押し付けられその視線の先には、雅人の顔と天井が見えた。
「んんっ・・・、ふぅ、っ」
 綾乃の唇を再び雅人がふさいだ。先ほどとは違って、深い口付け。歯列を割って、綾乃の中に舌が入り込んでくる。その感じた事のない荒々しさにも、綾乃はなんとか答えようと舌を差し出すと、それも絡めとられて吸い上げられる。息継ぎがうまく出来なくて、苦しさに眉が寄せられても離してもらえなくて、息も絶え絶えになるころになってようやく唇が解放された。
「はぁ・・・、ぁ・・・」
 綾乃はやっと得られる酸素に肩で息をしていると、雅人はその隙に綾乃のバスローブに手を掛けて紐を解いていく。
「―――綺麗だ・・・」
「え?―――あっ・・・!」
 うっとりとつぶやかれる雅人の言葉に綾乃が反応するよりも先に、雅人は目の前に広がった綾乃の肌に唇を押し付けた。そして吸い上げると、鎖骨のあたりに赤い印が刻まれる。
 室内の照明は少し落とされているとはいえ、その顔や体躯を見るには十分な明るさで、綾乃の顔が羞恥に赤く染まっていく。思わず雅人の視線から逃れるように首をめぐらすと、雅人は今度はそのあらわになった首筋に印をつけて。
 さらには胸にキスを落とす。色づいた突起に舌を絡めると、綾乃の身体が少し震えた。ジン・・・とした痺れが身体に広がっていく。
「イイですか?」
 綾乃の反応に気を良くした雅人の問いに、綾乃は恥ずかしくて首をぱさぱさと横に振る。そんな素直ではない反応に、雅人はお仕置きとばかりに、軽く歯を立てて舌先で押しつぶす。
「やぁ・・・っ」
 堪えきれない声が綾乃の口から漏れた。
 綾乃は身体の全てがおかしくなったかのように、雅人が触れるところが痺れて熱くなっていく感覚に頭が混乱していく。
 雅人はそんな綾乃を愛しげに見つめて笑みを漏らすと、その足を割って自身の身体を間に入れる。それで綾乃の足は完全に閉じることは出来なくなってしまう。
 そうして雅人はその唇を少しずつ下へと滑らせていく。胸から腹、腰へと印をつけて、さらに片足を抱えてその足の付け根をキツく吸い上げた。
「はぁ・・・、んんっ」
 ツキンと広がる痛みに似た快感の波に、綾乃の口からは熱い吐息がもれている。その反応が楽しくて、雅人はゆるゆると勃ち上がった綾乃にわざと触れるように動く。
「あぁ――・・・」
 初めて直接に触れたれて、思わす声が上がる。
「気持ち良さそうですね?」
 ついつい意地悪な問いかけをしてしまうのは、うれしくて仕方がないからだろうか。
 雅人はそうして、目の前の綾乃に舌を這わすと、途端にビクっと綾乃の腰が跳ね上がった。
「ああ・・・・っ、ん、ふぅ・・あああ」
 舌先でくちゅっと先端を押してやると、とろとろと先走りがこぼれだした。雅人は自分のバスローブのポケットに忍ばせておいたジェルを取り出して、指に絡めさせた。
 思わず笑みが漏れてしまう。今からこの身体を抱くのだ、そう思うだけで雅人のモノはどくどくと脈打ってその存在を誇示している。
 雅人はジェルで塗れた指で綾乃の入り口をさすった。
「いやっ!」
 その初めての感触と羞恥に綾乃の身体が思わず逃げようと腰を揺らす。そんなところを他人に触れているという事実に、恥ずかしさのあまり目の前が真っ赤に染まる。
「嫌ですか?」
「え・・・?」
 恥ずかしさに思わずもれた言葉に、雅人は本気にしたのか心配そうに顔を覗き込んできた。綾乃の顔は快感に頬を赤らめて、目は潤んで濡れていた。
「嫌なら、やめましょうか?」
 雅人はそういうと本気でやめるつもりなのか、指をすっと離してしまう。身体まで起こしてしまいそうなその気配に綾乃は慌てて手を伸ばして雅人の腕を捕まえた。
「だめっ・・・」
「だめ?」
 雅人が少しうれしそうに目の奥を細めているのに、綾乃には気づかなかった。ただの雅人の意地悪だったのに。少し離れた身体と、その間を通る風が綾乃の心細さと寒さを増幅させる。
「やめないでっ。・・・・やめないでぇ」
 綾乃は本気で不安になって、その瞳からはポロっと涙が零れ落ちた。本当に離れてしまうのかと怖くて不安で、新しい涙がまたぽろりと零れ落ちる。
「泣かないで。やめたりしません。・・・今更止められませんよ」
 雅人は少し苛め過ぎたかと、綾乃に優しい言葉をかける。けれどその響きがさっきより切羽詰っていた。だって泣き顔が。凶悪すぎる。
「え・・・、あああっっ!!」
 雅人は入り口で遊ばせていた指をフイに中に潜り込ませてきた。少し上体を起こしていた綾乃はその衝撃に再びベッドに身体を埋めた。
「止めて、と言われても止められませんよ。もう、遅い」
 後悔するのも、後戻りするのももう遅い。今更出来ない。綾乃を手放すなんて出来ない。雅人はそう、心の中でつぶやいて、永遠に捕らえておく綾乃の中にさらに指を進めた。
「力を抜いて。大丈夫ですから」
 その言葉に綾乃はなんとか息を吐き出して力を抜こうと試みる。そのタイミングを見計らって雅人はさらに指を進めて、中をかき回していく。
「あああ―――っ」
 その指がある1点を探し出した。
「ここですね?」
 雅人はうれしそうにそこを指でさらにいたぶり出した。
「ああ・・・っ、やぁーっ、っ・・・」
 綾乃は雅人の指から持たされる強烈な快感になすすべもなく、無意識に逃げようと腰を揺らす。けれど逃げられるはずもなく、さらに増やされた指で中をかき回された。ばらばらとかき回されて、強く擦ったかと思うとわざとハズして攻め立てる。
「ああ―――っ、んんっ、ふっぁぁぁ・・・・・・」
 綾乃の背中に快感の波が駆け上がって、体中を浸食していく気がする。引きづられる快感に、綾乃は頭をぱさぱさと横に振る。
 雅人の舌も勃ち上がった綾乃自身を上下に舐め上げていく。
「雅人、さんっ、・・・やっ、だめぇ―――」
 どんどん追い上げられる感覚が綾乃を襲って、切羽詰った声を上げる。
「イッていいですよ」
 雅人はそう言うと、再び綾乃を口に含んで舌を這わして上下させて、仕上げとばかりに強く吸い上げた。
「ああああぁぁぁぁ――――・・・・・・・・・!!」
 必死で耐えていた綾乃はあっけなく、雅人の口の中にその精を吐き出した。強すぎた快感に、目の前が白くもやがかかって見えて、意識が混濁していく。胸を上下させて荒く息をした。
「綾乃、力を抜いてくださいね」
「・・・・・・え?」
 まだはっきりと戻らない意識の中に雅人の声だけが響く。雅人は綾乃の中から指を引き抜くと、足を抱え上げて自身のモノを押し当てた。
「あっ・・・」
 その圧倒的な質量と熱さに、綾乃がビクリと身体を震わすと、ズンと中に押し入ってきた。
「ああああぁぁぁぁぁ――――っ!!」
 綾乃の背中が弓なりにしなって、その衝撃になんとか耐えようと身体が少し震えている。十分にほぐされたとはいえ、初めて受け入れる衝撃はやはり想像以上で。
「綾乃、ゆっくり息を吐いて―――そうです、ゆっくり」
 綾乃は雅人に言われるままに、なんとか息を吐き出して、身体に入った力を抜こうとする。その瞬間を見計らって雅人が再びグっと入ってくる。それを何度となく繰り返すと、綾乃の頭上で雅人が大きく息を吐いた。
「は・・・いった?」
「ええ」
 雅人が少し汗ばんで快感に濡れた瞳で綾乃を見下ろすと、その表情のつやっぽさに綾乃は目を奪われる。
 今、繋がっている。
 そう思っただけで胸がドクンと高鳴って、触られてもいない綾乃がビクっと反応した。中に雅人をリアルに感じて、見下ろす雅人の瞳の優しさに涙がこみ上げてきた。
「動きますよ?」
 軽い運動でもするようにくすっと笑みを浮かべて言うのは、綾乃をリラックスさせるため。でも、もう少し待ってあげられないのは、雅人がもう切羽詰ってきているから。入れただけで嬉しくて、イキそうなのだ。
 雅人は入れた自身を、ゆっくり抜いていく。
「ああっ!・・・ひぃっ、んんっ、あああ・・・・・・」
 途端に綾乃の口から声が漏れる。声を出すのが恥ずかしいとかそんなのもう考えられない。
 雅人は出来るだけ綾乃に苦痛を与えないように、ゆっくりと馴らすように抜き差しを繰り返して、中をかき回していく。すると綾乃の中に、新たな快感が生まれてじわりと身体に広がっていく。
「やぁぁー・・・、ああっ、あああっ」
 わけもわからなくなりそうな快感の波に、綾乃は思わず雅人の腕を掴むと、雅人はなだめる様に優しいキスを綾乃の顔に何度も降らした。
「良くなってきました?」
 綾乃の声音が変わったのがわかって、嬉しさと愛しさが募ってくる。
「ん・・・」
 耳を赤らめて、綾乃は小さく頷くとおずおずと目を上げて雅人を見上げた。快感に染まった瞳と上気した頬。その顔を目にした瞬間、雅人の理性が吹き飛んだ。こらえていた最後の線が焼ききれる。
「―――あああっ!!・・・やぁっ、あああぁぁぁ」
 さっきまでの緩やかさがなりを潜めて、一気に深く雅人が入ってきた。
「ああぁぁぁ、んっ、まさ、とさんっ!・・・ぁぁぁっ」
 深く刺されたかと思うと、浅く遊ばれてまた一気に押し入ってくる。感じるトコロを擦り上げてねじ込まれて奥を犯されていく感覚。甘い刺激なんて言葉じゃない、絶対的な快感の波が一気に綾乃を掻っ攫っていく。
 綾乃の口からは絶え間ない嬌声が漏れて、背中を電気が走るような感覚に脳まで犯されていく気がする。
「あ・・・っ、ああんっ!!」
 無意識に綾乃の腰が揺れ動く。
「ひぃ・・・っ、あああ、まさとさん―――っ!!」
 もう、無理。綾乃の意識がもう付いていけなくなる。綾乃は夢中で雅人にしがみついて、その背中に爪を立てた。
 雅人はその背中に走るわずかな痛みすら嬉しくて、さらに腰を打ちつけた。綾乃の全てを支配して、その手の中に落とすためにどんどんと追い上げて、大きく腰を回す。
「やぁっ、だめぇ・・・、ぇ―――・・・・っ」
 もう綾乃には付いていくことなんて出来ない。脳まで快感に犯されて、なすすべもなく声を震わせた。雅人のものが一段と質量を増して、激しく出入りしたその切っ先が深い最奥を犯した。
「ああっ!・・・あああああぁぁぁぁ――――っ!!!」
 綾乃の背中が大きく反り返って、白濁をはじけ飛ばした。その瞬間にぎゅっと締め付けた奥に、雅人のほとばしりを同時に感じた。












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