VALENTINE









廊下で勝負!



 授業が終わるや否や、アレンは勢い良くドアを開けて教室を飛び出した。休み時間にのんびりしていては確実に敵が襲来してくる。
 アレンが廊下に躍り出るとほぼ同時、二組のドアが開いて、一歩踏み出したアトラスと目が合った。アレンの姿を認めた途端、アトラスの双眸に剥き出しの敵意が宿る。
「アレン、俺と勝負しろ!」
 クラス対抗のサッカー試合で負かせて以来、アレンをライバル視してしつこく勝負を挑んでくるのがアトラスである。勝負の内容はサッカーのみならず、野球、スノボー、弁当の早食い、購買の焼きそばパンの入手、毎週どちらがジャンプを早く購読して嫌がらせのネタばれをするか等々、留まるところを知らない。
「うっせぇな、俺は今日それどころじゃねぇ……」
 言いかけたアレンの顔が蒼ざめた。はるか廊下の端に、空を飛ぶ勢いでスキップしてくる少女の姿を認めたのだ。ぐるり方向転換すると、アレンは怒涛の勢いで逃走を開始する。
「今日の勝負は徒競走か!」
 アトラスが鼻息も荒く追いかけてくる。互いに一歩も譲らぬまま、二人は校内の廊下を縫うように走り出した。
「俺がこの駆けっこに勝てば、今週の勝負は六勝五敗で俺の勝ちだな!」
「は? 違うだろ、お前が勝ったって六勝六敗で引き分けじゃん」
「数も数えられねーのかよ」
「それはお前だっての。俺が先にドラクエ八クリアしたの忘れたのかよ」
「お前がクリアしたのは普通のエンディングまでだったろ。真エンディングまで行かなきゃ意味ねぇんだよ」
「ラスボス倒したんだからエンディングなんてどっちも一緒だろ!」
「一緒じゃねぇよ馬鹿!」
 言い争ううちに熱が入り、二人は見る見る加速していく。今や本気の勝敗を賭けて疾走する彼らは単なる暴走車、迷惑以外の何ものでもない。
「!」
「!」
 廊下の曲がり角に差しかかった時、二人はほぼ同時に足を緩めた。全力疾走から競歩に切り替えた正にその瞬間、生活指導のダグラス先生と擦れ違う。
 以前廊下で鬼ごっこ勝負をした際、ダグラス先生からこっぴどい仕置きを食らったことがある。以来二人は彼の気配に敏感なのだ。
 ダグラス先生の気配が完全に消えたのを確認してから、二人は再び疾走の構えに入る。思い切り床を蹴った途端、思わぬ方向から怒声が飛んできた。
「こらー! お前ら、廊下を走るんじゃねぇ!」
 竪琴先生の介入で、勝敗を決することなく徒競走は終焉を迎えた。


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