VALENTINE |
|
「いいなぁ〜、コナンとバズズはもてもてで」 机上に組んだ腕に顎を乗せた体勢で、ケインはつくづくと羨望の溜息を吐く。廊下には黒山の人だかりがあり、その中心にいるのはコナンと二組のバズズだ。 「ケインだってチョコをもらってるじゃないか」 「もらってはいるけどさあ」 グレンの言葉に素直には頷けない。母から一つ、姉から三つ、妹から一つ……全て一点の曇りもない完璧な義理チョコである。ケインが憧れて止まないものとは根本的に性質が違った。 「グレンは彼女からの本命チョコがあるからいいよな」 「か、彼女だなんて」 「羨ましいな、ローラ先輩みたいなきれいで優しい彼女。俺も年上の彼女に膝枕とかしてもらいたいよ」 「そんな破廉恥なことしてないよ!」 「破廉恥ってお前……付き合ってんだろ?」 真っ赤になって反論するグレンに、ケインがほとほと呆れた声を上げた。純愛の見本品のような二人の交際は、実際未だに清く正しいままらしい。コナンのような輩もどうかと思うが……羨ましいという気持ちはさておいて……この二人の進展具合もありえないと思う。 「グレン、顔真っ赤だよ。熱でもあるんじゃないの?」 通りがかったナナが首を傾げる。何でもないと手を振った後、ケインはよく動く目でナナを見上げた。 「ね、俺まだ本命チョコ一個ももらってないんだ。良かったらくれない?」 「本命チョコなんて頼んでもらうものじゃないでしょ」 呆れた素振りを見せながらも、ナナは席に戻って鞄を持ってきた。中を探った彼女の手は、きれいに包装された二つの包みを取り出す。 「本命は無理だから友チョコね。グレンもどうぞ」 「あ、ありがとう」 「やった、ありがとう。友チョコなんてあるんだ」 ようやく義理以外のチョコをもらえてケインはご満悦だ。 そんな楽しげな空気を嗅ぎつけて、そそくさと竜王(次代)が近寄ってきた。先刻怒鳴られて学習したのか、おどおどと探るような視線でナナの表情を伺う。 「わしもバレンタインチョコ……」 「あ、そうだったね。えっと……て、次体育じゃない。早く行って着替えないと!」 女子の着替えは何かと長い。時間が足りぬとばかり、ナナはあたふたと教室を飛び出していく。 竜王は再びチョコをもらい損ねてしまった。羨ましそうな視線がチョコを這うのを気付いて、ケインは記念すべき友チョコをさっさと鞄に仕舞った。 |