『はだかの王様』
はだかの王様ってどんな気分だったんだろう?
「あなたは、はだかですよ」って言われたときに。
ああ、たしかにそうだった!ってそのときはじめて気がついて、
真っ赤になって恥ずかしがったんだろうか。
それとも、すっかりきれいな晴れ着をまとっているつもりになっていて、
「なんのこと?」ってきょとんとしたんだろうか。
僕がスタンに出会うまで、ずっと着てきたのは、いかにも『地味な少年』ってかんじの服だった。
上はだいたいふつうのシャツ。色とか形とかすこし違うくらい。下はジーンズ。これも似たり寄ったり。
そんなふうに、ずっと自分で選んだ服を着ていたんだけど、あるときアニ−に怒られた。
「おにーちゃん。いくらなんでも地味すぎるよ!」
ふたりで森に野苺摘みに行ったんだけど、黒っぽいズボンと薄い緑のシャツを着てたら、
ホントに森に同化して、どこにいるかわからなかったらしい。
実をいうと、旅のあいだ僕が身につけてた服は、全部そのときアニ−が選んでくれたものなんだ。
「うーん、おにーちゃんて、あたしに似て顔はいいはずなのに、なんでそんなにめだたないんだろ。
ねえ、もしかしたら、その服のせいかもよっ。一回イメチェンしてみよーよ!」
って言い出して、
「え、ええっ、いいよ別に…」
ってへどもどする僕を無理矢理服屋さんにひっぱってって。
いろいろコーディネートしてくれたんだけど、これがけっこう難しかった。
あまり派手な服だと僕が気後れしちゃうし、着てみたところで服が歩いてるみたいになっちゃうし。
あーでもないこーでもないととっかえひっかえで、着せ替え人形みたいになりながら、でも。
アニ−が僕のためにいろいろ頭をひねって考えてくれるのは嬉しかった。
カチューシャとかは女の子みたいでちょっと恥ずかしかったんだけどね。
「こーゆーところで個性を出さないとダメなんだよっ!似合うからいーじゃない!」
なんて力説しながらすごく頑張ってくれたんだけど。
服屋さんから出てきた僕があいかわらず誰にも注意を向けられないのを見て、
「なんでえ?あたしのファッションセンスってそんなもん!?」
ってショックを受けてたっけ。
「しょうがないよ…たぶん、僕が地味すぎるんだよ」
僕は苦笑した。目立たないこと、空気みたいな自分をあたりまえだと思っていたから。
そのときは、それが“分類”のせいだなんて考え付きもしなかったから。
それから、ずっと代わり映えしないだろうと思っていた僕の“服”はめまぐるしく変わっていった。
「もそっとはっきりせんか!ええいこの優柔不断子分め子分め子分め!」
「ご、ごめん…なさい…」
旅のあいだ、スタンから与えられていたのは、『魔王の子分』という役割。
ほんとに服で表現しようとしたら、真っ黒でずるりとした長さの妖しい雰囲気の服に、
鎖つき…みたいな感じかな。
そして、今は。
「ルカ」
「うん?」
本から顔をあげて、スタンの顔を見る。
ぱちぱちと暖炉で火のはじける音がする。
家でいちばん温かいところで読書をたのしんでいた僕の前に、
おっきな体を屈みこませて目線をあわせるひと。
いま、僕はかれから見ると、『恋人』っていう服を着てる、らしい。
「あー、その服…去年も着ておったな?」
「え。…よく覚えてたね」
だって、真っ白でシンプルな、冬用のセーター。
おばーちゃんが編んでくれたもので、すごくあったかくて、僕は気にいってるけど。
記憶に残るものじゃないと思うんだけどな。
「うむ…その。瓜ざね顔婆から、クリスマスの贈り物とやらで貰って、喜んでおったろうが」
「…う、うん」
すっかり雪におおわれた、新年を待つテネル村では、とてもノースリ−ブではいられないから。
あの旅の思い出のつまった服は、いまはクローゼットにしまってある。
だけど、あれ以外の服にもいろんな思い出があるし、そしてそれはすこしずつ染みこんでいくものなんだな、って。
そんなことを思う。
いままでも、これからも。
「…まー、その、なんだ。旅のときに着ていたのも、別になんだ、悪くなかったがな。
そ、その服も、…、か、か、かっ…」
彼は目線をそっぽに向けて、歯切れ悪く無理矢理言葉を絞り出して、最後にはカラスみたいになりながら。
可愛いぞ、と。
ぼそりと聞こえるか聞こえないかの声で、僕に。
「…!…、……、そ…そ、う?」
『恋人』っていう服をまとっていると、スタンには僕のことがなにもかもいいふうに見えてしまうみたいで。
可愛いとか、そんなこと。
僕、人に言われるの、はじめてだよ、スタン。
僕自身は、いままでとあまり変わっていないつもりでいるから、いつも戸惑ってばかり。
下をむいた顔がなんだか火照ってきてしまう。
「…ルカ」
スタンが呼んでる、けど、うう、どうしよう。顔、上げられなくなっちゃったよ…
ますます熱くなる頬に耐えられなくなって、ぎゅっと目を閉じた。
困ったようにすこし笑う気配がして、そのあと、
…ふっとてのひらの形をした熱が近づくのを感じた。
急にまわりが変化して、はだかのままで、「なんのこと?」ってきょとんとしてる。
それがいまの僕。
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…えーと『はだかの王様』があの世界で知られていたかどうかは、
ツッコミなしの方向でお願いします(汗)
「ルカのあのおしゃれな服、あれは絶対アニーちゃんのセンスでしょう!」
と思って捏造エピソードを盛り込んでみましたが、いかがでしょうか。
うーむしかし、切り口を変えてみたつもりだったんですけど…
結局オチの方向があまり代わり映えしないですな〜
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