『沈黙は僕らの上に舞い降りる』
じっと見つめあっている。
顔はすごく近くて、もう少しで触れるか触れないかのところ。
これだけ近いと、温度だけでそれがよく判り、肌の産毛の感覚は彼の気配をちりちりと訴え続けている。
さっき触れあわせたばかりの唇はまだ温かく湿っていて、
もう一度、しようかどうしようか?と彼は迷っているのかもしれない、
双方動きのないいわゆるお見合い状態で、僕らの間には珍しくわずかな沈黙の空気が漂っている。
じっと見る。
きっと人間は自然とそうなっているのだろう、とにかくひとの顔を見ると瞳に目線がいくように。
午後のかたむいた光がななめに差し込んできて、
向かい合う相手の黄金の虹彩をひどく透明度の高い宝石に見せている。
きらり、かすめる光。
ああ、…きれいな人なんだよなあ。
こうしていると、彼の顔だちが彫刻のように整っているのがよくわかる。
いつも馬鹿笑いしてたりにやにやしたり鼻の下のばしてたりしかめつらだったりで判らなくされているけれど。
綺麗、静けさのなかで素直にそう思う。
そうすると自然に手がのびた、興味をもったものに無心に手をのばす子供のように、ただ、触れてみたいと思った通りに。
彼の頬に触れる、やわらかくはない、引き締まり筋ばった感触を手のひらに伝える、男性的な顔。
こちらの脈絡のない無言の動きにすこし驚いたらしい、
肩がわずかに動き、でも、それ以上の行動には続かない、引き寄せも、拒みもしない。
いつもらしくない。
けれど、もしかしたら、どうしたらいいのか急に判らなくなってしまったのかもしれない。
困惑したように眉が詰められるのを見てそう思う。
そしたら、ふいにとても自然にキスがしたくなった。
ゆるく結ばれた、肌と同じく褐色の唇にそっと自分を重ねる。
それには、彼の膝の上にのせていたお尻をすこし上げて、軽く膝立ちになりながら高さを稼ぎつつ、
首をかたむけて高い鼻の下にすべり込ませるようにしないと、うまくいかない。
彼の傍で暮らして、はじめて知ったこと。
軽く触れただけで、すぐに離れた。
閉じていたまぶたを開くと、彼が目をまるくしている。そのまま、動かない。ぴくりともせず硬直している。
たしかに珍しいかもしれない、こういうの。
いつもは大抵、彼のほうが積極的だから。
思わず苦笑をこぼすと、彼はようやく魔法から解き放たれたようにひとつ息をつき、僕を抱き締める腕に力を込めなおす。
「…なにがおかしい」
むっと不機嫌に目を細め、声は唇をとがらせて拗ねた子供のようで、僕の笑みは深くなる。
「たまには、こういうのもいいね」
くすくす笑いながら顔を伏せ、鎖骨のあたりに話し掛けてみる。
たぶん今顔をあわせるのが恥ずかしいのだろう、この人のために。
「可愛いから。スタン」
「…子分のくせに生意気な」
低く唸る、声とは裏腹に。
ぎゅっと抱き寄せる力がやさしくて、心地よくて。
僕は小さく喉を鳴らし、頬を彼の胸に擦り寄せた。
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突発的かつ、いつもとちょい違う雰囲気のSSでございます。
ルカがちゃんと男の子してますね〜。
うん。フィジカル的にはスタンが圧倒的優位なんですけど、
メンタル的には逆かもしれない、てな感じが好きなんです。
スタン視点が強いと「ルカ可愛い可愛い」が強くなっちゃうんですけど。
ルカもちゃんとスタンが可愛いんだよー、とそんなことが言いたいわけです。
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