●「天空の城ラピュタ/スタジオジブリ」分析  <講座1-2に戻る>
1層=演出

シークエンスごとに。
1. シータがまだ主役扱いじゃなく「ねらわれた可憐な少女」な感じ。一味の狙いがわからないのでドギマギ……いや、メンバーがまぬけなのは既にわかるのだが。 (窓の外に張り付くシータを二度見するシーン)シータは孤立無援なので無茶をしなきゃいけない。彼女もまた孤独。
2. ここはパズーの紹介メイン。分析してみたがかなりの行動イケメン。同時に孤独も描かれる。
3. 前半はノンストップどたばた展開。移動の様子を分析するとかなりせわしない。対して、後半に静かで神秘的なシーンを持ってくるセンスがにくい。
4. 衝撃の事実〜問答無用の拉致、シータにつきつけられる立場、強制された別れに無力なシータとパズー。ここまでの好きに冒険してる感とのギャップすごい。
パズー、おかみさんにあわせる顔がない〜泣くのをこらえて走る〜こけてコインをぶちまける〜コインを投げつけようとする〜黙ってポケットに入れうつむいて歩き出す、がめっちゃ秀逸。あの短い時間でよくここまで表現を!
5. ドアに引き込まれた瞬間「おっ、そうこなくっちゃ!」とわくわくした。ドーラの欲深さと潔さが同居した演技がにくい。ロボット兵を怖がってたはずなのに、砲撃に沈んでいくそれに手を差し伸べるシータの情ぶかさがいいね。
6. 飛行艇の中の生活がキャンプっぽくて夢がある。メンバーのキャラ性がバリエーション豊かでいい。見張り台ではシータが激しい気性をあらわにしてるのがポイント『捨ててしまえばよかった!』。これがないとムスカと対峙するシーンが唐突になると思うんだ。
7. 協力しあうパズーとシータがほほえましい。電話の件、シータの思わぬちゃっかりさにもっと好きになったよ!
8. とにかく城が美しい。緑に侵食された遺跡だからこその無垢さがある。塔が遺跡好きになったのはこれのせいかもしんない……。シータが涙ぐんだのは、嫌なものに感じていたルーツが美しくてうれしかったからか。
9. 見つかってはいけない&落ちてはいけない&後手に回っては事態を収められないという厳しい行動条件にハラハラドキドキ。力を手にして子供のようにはしゃぐムスカの本領発揮で「だめだコイツはやくなんとかしないと」。対して小娘のはずのシータはまるで母親のよう。静かにあざけるシーンが迫力満点。
10. 『おばさんたちの縄は、切ったよ』がポイント。シータがしたいことに対して事後報告なところが、もう、夫婦かってくらい阿吽の呼吸。安全圏=人間の手がまだ届かない高層へと遠ざかる城が切ない。
11. ドーラがいい。意志ある死(?)を静かに受け止めて〜何てことない顔をして〜生還にふにゃけて〜腹の底から笑いあったあと〜笑わずに舵を乱暴に切る(二度と会ってはならないと断ち切ろうとする)。
そしてシータとパズーの孤独がエンディング曲歌詞により「埋められた=もう大丈夫になった」ことが示される。
「父と母の残したルーツは無意味ではなく自分につながっている。そしてたとえ一人になっても、同じ空の下に友がいて、故郷もまた同じ空の中にある」

◆シーン演出として抜き出すならここ。
シータ落下の翌朝、鳩を解き放ち単音のトランペットを渓谷に響かせるパズーのシーン。彼の希望と孤独をあらわす。
作中、渓谷で同じ年頃の男の子がでてこないが、いないのではなく、詐欺師扱いされた父の件で遠ざけられているのでは?
直接挨拶しても返してもらえないけど、パズーに怒りはないから音で挨拶してるとか。いつかわかってもらえる日が来ると希望を抱いて。
◇もしあのシーンがフルオケ版(原曲はこっち!)だったら:シーンの雰囲気が堂々としすぎてしまい、あかるく美しい孤独感がなくなってしまう。孤独感はパズーというキャラに行動動機を持たせる大事な要素だから(『僕たち、二人とも親なしなんだね』=シータへの強い思い入れ)、これではだめ!


2層=シナリオ
塔は、いさぎよく王道なのが好き! です。まあ好きエンタメで真っ先にこれをあげるんだから、わかるよね(笑)
それにしても、書いてみて気づいたが切れ目にパズーが叫ぶの多いな! 本当に「進行役」なんだなあ。

1.一味の求めるもの(冒頭〜オープニング終わりまで)
2.ボーイミーツガール(パズー登場〜パズーが『ラピュタを見つけてみせる』と夢を語るまで)

3.子供たちの冒険(追っ手判明〜パズー、雲を見上げ『やるぞ!』と叫ぶまで)
4.現実の壁(シータの秘密の名前〜パズー、自宅に戻るまで)
5.抗う意志(パズー、自宅に引っ張り込まれる〜ムスカ、将軍への伝言を指示)
6.ゆかいな一味の冒険(仲間入り〜パズー、見張り台で『なんだ、あれ!?』と叫ぶまで)
7.嵐への挑戦・父の航路(ゴリアテ発見〜雷雲を抜けるまで)

8.失われた栄光、残滓の楽園(青空と庭園〜幸せそうなロボット兵にシータが涙ぐむまで)
9.人間の欲望(兵士による爆破〜ムスカの脅迫にパズーが『待てー!』と叫ぶまで)

10.楽園は天へと還る(パズー、ムスカと交渉〜遠ざかる天の大樹)
11.この空のどこかで(フラップターの一味〜エンディング)


3層=世界観、作品の意図、テーマ
・世界観
→空になにが潜むかまだわからない、でも徐々に手が入りつつあるフロンティア時代なのがミソ。この時代じゃないと話がおかしくなるのでは?
◆もし古代だったら:古代の城である(シータのルーツでもある)ラピュタと、主人公たちとの対比関係が浅くなる。特に、現代文明の正の部分にふれて育ったパズーが、城に対面することがとても大事。
◆もし現代だったら:城がステルスしてたとか? ただの兵器として奪い合い合戦になっちゃいそうだなー。少なくとも子供たちの冒険活劇の舞台にはなるまい。
・作品の意図
→少年少女が主役のドキドキワクワク冒険活劇を楽しんでほしい+ラピュタの姿と歴史、在りように感じるものがあってほしい、かな。
・テーマ
→一番はルーツと孤独、と私は読んだ。文明と自然の対立もあるけど、それは二番手かなあと。

●総合
無駄なシーンがなく展開のメリハリが見事なので、つい何度も見てしまう。 舞台やシナリオやキャラクター像はある程度ベタであったとしても、音楽と動画演出(キャラの演技)のマッチング具合が異常に高い。相当な情報量を動画に詰め込んでいるのに、まったく重さを出さず楽しませてしまうのはエンタメ作品の鑑。分析すればするほど奥が見えてきて、やっぱりすごい作品だったんだなと実感した。


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