『セナカ』
〈3〉



「…」
ルカが、そのまま伏せていて顔が見えないのをいいことに膨れっ面をしていたら、

…しゅ、と。
いきなり衣擦れの音。
え?と思って後ろを振り向こうとすると、その目の前にぱさりとスタンの上着がおちてくる。
…これって。

「ええと、スタン。なんでそこで、脱ぐのかなあ…?」
何気なさを装いながら、あえて答えの分かり切った問いかけと、横目で牽制してみる。
しかし魔王はふふんと鼻で笑っただけだ。

「余がそれだけで辛抱できると思うか?」
とたくましい上半身を誇るようにふんぞり反る。

…開き直っちゃったよこの人は。

もはや反論する気もうすれてきたが、専業主夫であるルカにはこのあと諸々の家事がひかえている。
ここで陥落するわけにはいかないと、いそいそとこちらの下を脱がせ、
自分もズボンのベルトに手をかける魔王に最後の抵抗、というか悪あがきを試みる。

「ごはんの支度はどうするのさ…」
「ん?盛り付けるだけだろう?なら、余がしてやる」
「お皿、洗うのは?」
「うむ、それもやってやろう」
「…洗濯物。まだたたんでない」
「…それは別に明日でもよかろう?」

そう、裸になった主人に言われてしまえば、家事をあずかる身としてもやることがなくなってしまう。
つまりは、このあと自分が動けなくなってもスタンは構わないということで。

(そこまでして、したいんだ?)

だんだん、あきれるを通り越しておかしくなってきた。
体をうつぶせからあお向けに回されながら、ルカはたまらずくすくすと笑う。
自分の下に組み敷かれているくせに余裕たっぷりに見える青年の表情に、
少し悔しい魔王は口許をとがらせた。

「…こら、笑うな」
「ふくくっ、っ、ごめっ」

だけど、ちょっとは許してほしい。僕だって笑っていられるのは今のうちなんだから。
笑いすぎて浮かんできた涙をぬぐいながら、そんなことを考える。

「全く…」

青年の胸中を知る由も無い魔王は、ぶつぶつとつぶやきながら相手の膝を少し乱暴につかんだ。
(…すぐにそのとりすました顔を真っ赤に染めてやるぞコラ)
内心で唸りながら、脚を大きく左右に開かせ、上にのしかかる。
しかし、腕に力をこめて、下に敷いた身体に重みがかからないよう気を遣うことは忘れない。
そうして見下ろした青年のちょうど臍のうえあたりに、魔王の頭のかたちをした影がおちた。

「…ん」

ルカは、おとなしくされるままになりながら、
受け入れる意思をあらわすように瞳を閉じ、身体から力を抜いた。
その褒美のように、温もりとともにすぐに深いくちづけが降りて来る。

まぶたの裏の暗闇に感覚だけがあざやかで、
塞がれた口の中にさらに入り込む熱を感じ、
くちゅり、と、触れあう湿った音を聴き。
最後にはきゅうっと吸い上げられて、
つられて顎まで持ち上げられ。

「ん、ふ…」

ようやく解放されたときにはひどく呼吸があがっていて。
西日のするどい橙と濃い紫の影の交錯する中、
互いの息遣いと熱っぽく潤んだまなざしに背中を押されるようで。

そのままするすると巧みな指に、無数のキスを連ねる唇に、やわらかくていやらしい舌に。
首筋、鎖骨をていねいになぞられ、つんと尖った胸のつぼみを、
声を抑えられなくなるまでひとしきりもてあそばれて、さらに下へ、下へと。

「あぁ、あ…」

(もう、だめ…)
堕ちてゆくのが、自分でわかる。
この小さなこころが、大きな温かな、この世で一番安心できるたなごころの上へと。
(…あーあ。またぜんぜん、あっと言う間だよ…)
と、苦笑のまじった思考を最後に残して。



続く

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9/4 文章掲載。
はいやっとこさ脱ぎましたよー(苦笑)
前半のもめてることろが個人的に好きですわ。
ルカ君触られただけであっさりと陥落してますが、やっぱり男の子なので。
かなわないと知りつつちょっと悔しいみたいです。
そしてまだまだ終わりません…は、果てが見えないよスタン様ー!(笑)


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