Act1-18

 

【エヴァ】


「…ヘルマンが消えたか。しかしあの男、黒鍵を使うとはな…埋葬機関の人間か?」

エヴァンジェリンは、森から少し離れた場所にある家の屋根に腰を下ろし、茶々丸の持ってきた熱いお茶を飲んでいた。
半ば観戦気分である。
まぁ、事実観戦していた訳なのだが。

「ハ…ネギ先生もご無事のようです。良かったですね、マスター」

「あのな…。…さて、そろそろ行くぞ。あんまり遅れていくと、見失ってしまう」

残っていたお茶を飲み干して器を戻すと、茶々丸の腕に乗って森へと向かう。
彼女や刹那のような人外でもなく、ネギやこのか達のような魔法使いでもないのに、上級悪魔を滅ぼす力を持つ人間。
久々に見た興味の湧くものに、エヴァンジェリンは好奇心が抑えられないようだ。


森に到着すると、エヴァンジェリンはまるで新作のゲームの発売日に、我先にと突っ走る子供のように走り出す。
しかし、エヴァンジェリンの言うあの男――――志貴の姿は無かった。

「…おい、奴の魔力がどこへ行ったか探れるか?」

魔力を持つ者が能力を行使すると、大抵の場合その場に魔力の残滓を残す。
それを辿ることで、その人物を捜すことが出来るのである。
茶々丸がついさっきまで志貴が倒れていたであろう場所を調べている間、エヴァンジェリンは辺りに怒りを滲ませた眼光を向けていた。

「…魔法具に抑えられ非常に微弱であった男性の魔力が、現在展開されている結界の魔力と混ざってしまったため、サーチは難しいと思われます。
先程の魔力は、魔法具によって抑えられていた力を解放したためでしょう」

「チッ…誰かが連れて行ったか、あるいは他にも何者かがいるということか…!?」

志貴を発見できなかったとなるや、エヴァンジェリンは途端に不機嫌そうな表情を見せる。
残っていた痕跡に目を通した後、他にも痕跡が無いか周辺を探してみたが、結局何も見つかることは無かった。


〜朧月〜


【愛衣】


「あ゛…」

「…アレは…確か…」

私達の行く手を阻むように現れたのは、麻帆良武道会の一回戦でお姉様が戦った、田中さん。
しかも、いつかの悪夢再来と言わんばかりに、続々と出てきてます…。

「お、お姉様の…トラウマが…」

田中さんの姿を見た途端固まっていたお姉様は、既にしゃがみ込んでブツブツと何か呟いている。
…戦えそうに無い。

「…と、いうことは、私が一人で戦わなければならないんですね…」

深いため息をつきながら、懐からパクティオーカードを取り出して、アーティファクトである箒を呼び出す。
そして箒を身構えた…はいいけれど、あまりにも敵の数が多過ぎる。

「魔法の射手…きゃああぁっ?!」

様子見に魔法の射手を放とうとするが、田中さんズのレーザーで詠唱を中断させられてしまう。
咄嗟にしゃがんでそのレーザーを避けた私の頭上から、何かジェット音のようなものが聞こえてきた。
上からも田中さんズが来たのかと思い、身を固くする。

『メカ翡翠・遠征Ver2.01、目的地:麻帆良ニ到着シマシタ。…敵機影ヲ確認。排除シマス』

「…へ?!!」

機械的な言葉が聞こえ、驚いて上を見てみると、メイド服を着た女の子型ロボットがジェットで宙を浮いていた。
あんぐりと口を開けていると、田中さんズが口からレーザー砲を出してきた。
照準はすべからく、メイドロボの方へと向けられている。
対するメイドロボは、田中さんズの攻撃の気配を察したのか、両手を前に突き出した。

『バリヤー。…損傷率0%。反撃ヘ移行シマス。ビーム』

メイドロボの手の先から青白い光の壁が展開され、田中さんズのレーザーを完璧に防ぐ。
今度はメイドロボの方が、お返しとばかりに目からレーザーを放ち、更にどこから取り出したのか、ボウガンのような武器で田中さんズを
攻撃していく。
麻帆良大学工学部の技術にも驚かされたけど…このメイドロボを造った人の技術も凄い。
お姉様もトラウマモードから復活して、田中さんズと刃を交えるメイドロボを呆然と見ていた。

メイドロボは私とお姉様の前に降り立ち、田中さんズを無表情に見据えている。
…私達を守ってくれている、のかな…?

『…敵機影数、五十六機ト確認。単機デハ撃破ハムリ、ト判断。メルト・ダウン。…ゼンキ、シュツゲキ』

(ドドドドドドドドド……!!)

「「…え゛?」」

私とお姉様の声がハモる。
後ろから、嫌な予感と共に何かが大勢近づいてくる音がするのだ。
恐る恐る後ろを見てみると、同じ姿のメイドロボ達が、砂煙が上がるほど凄いスピードで疾走していた。

『コウグン、カイシ』

メイドロボは人差し指を高く翳し、田中さんズの方向を指した。
疾り込んでくるメイドロボ達は、メイド服のスカートの裾を軽く持って、更にスピードを上げる。
猛スピードの走行にもかかわらず、優雅さを損なっていない。
…しかし、その道中には私達もいる。

つまり――――

「「んきゃああああああぁぁぁぁ……??!!??」」

その行軍に轢かれ、吹っ飛んで行く私とお姉様の悲鳴が木霊する。
田中さんズはメイドロボ達の強力な行軍の前に、私達と同じようになす術無く吹っ飛ばされていく。
ふっ飛ばされていく私の視界に、メイドロボが優雅な一礼をしているのが見えた。

『敵機影、殲滅ニセイコウ。…戦イニ犠牲ハツキモノデス、ゴ容赦ヲ』


うぅ…機械なんて、嫌い…。





□今日のNG■


『メルト・ダウン。…操縦固定、サタデーナイト・フォーエヴァー』

「「…え゛?!」」

私達を守ってくれていたと思われるメイドロボは、いきなり空中に浮かんで変形を始めた。
変形を終えて飛行形態らしきものになったかと思うと、天高く舞い上がっていく。
姿が見えなくなった後にいきなり急降下してきて、田中さんズの後方から猛スピードで突進してきたのだ。

「「ひいいいいいぃぃぃぃぃっっっっっ!?!?!?」」

咄嗟に伏せた私とお姉様の頭上を、ジェット音を響かせながら何往復もする飛行形態メイドロボ。
往復の度に物凄いクラッシュ音と爆発音がして、その威力の凄さがよくわかった。

――――今頭を上げたら、私達の命は無い。

恐怖に体を震わせながら頭を抱えて小さくなっていると、いつの間にかクラッシュ音等はしなくなっていた。
恐る恐る顔を上げてみると、道の両脇に田中さんズの残骸が転がっている。

「あ…あ、あのメイドロボットはどこに行ったのかしら…?」

「さ、さぁ…?」

お姉様と一緒に周囲を捜してみたが、田中さんズの残骸ばかりでメイドロボの姿は無かった。
どうやら私達は、あのメイドロボに助けられたらしい。
…とはいえ、服を脱がす田中さんズとは別に、あのメイドロボに対してもトラウマが出来てしまった。


――――目の前にある、完膚なきまでに破壊された田中さんズのようにだけはなりたくないから。

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