Act3-3


【アスナ】


「せっちゃん、来てくれるかな?」

「大丈夫よ。一緒に朝食食べようって誘えば、きっと来るわよ」

 少し不安そうなこのかに、私は笑いながら返す。
 昨夜のことがあって落ち込んでいると思い、刹那さんを朝食に誘うことになったのだ。
 正直に言えば、私も少し不安ではある。
 けど、私まで不安そうにしていたら、何事もいい方向へは向かない。

「刹那さーん、朝ご飯一緒に食べましょう」

「せっちゃーん、起きとるー?」

 刹那さんの部屋の前に来て、インターホンを押しながら声をかける。
 しかし、中から返事が返ってこない。
 いつもならこのかの声を聞いて、慌てて飛び出してくるはずなのに……。

「せっちゃん、お邪魔するえ?」

 このかと一緒にドアを開けて中に入ったが、刹那さんのベッドには誰もいなかった。
 窓が開いていることに気付き、外を見てみるが既に刹那さんの姿は無い。

「……アスナ、これ……」

 このかが刹那さんのベッドに置かれていた紙を渡してきた。
 目を通すと、今日の授業を休むことと、今日一日私にこのかの護衛をお願いすることについて書かれている。
 読み終えてすぐに、窓の外でガサリという音がして誰かが走り去って行った。

「刹那さんっ?!」

「え……せっちゃん?」

 窓に駆け寄って外を見たが、既に刹那さんの姿は見えなくなっていた。


――――刹那さんが苦しんでいるのに、私は…何もしてあげられない……。




〜朧月〜




【ネギ】


「う……朝、か……」

 目が覚めてきたというのに、気分が悪いし体が思い感じがする。
 昨日のことを思い出して、ようやく体調が悪いことに納得した。

「……あんな……あんな化け物がいるなんて……」

 脳裏に蘇るのは、『雷の暴風』の直撃を受けて半身を吹き飛ばされたというのに、半身のみで平然と笑っていた長身の男の姿。
 全身に震えが走り、目の前の存在に恐怖を感じた。
 ネロ・カオスという名の吸血鬼は、誰にも倒せないんじゃないかとすら思えた。
 しかし、そのネロ・カオスが日本で殺されたというマスターの話を、彼自身が肯定していたことを思い出す。

「確か……『殺人貴』って言ってたっけ。どんな人なんだろう……?」

 あんな誰にも殺せないような力を持った存在を殺せるなんて、とても信じられなかった。
 もしかしたら、父さんと知り合いだったりするかも…。

「ネギ……おはよ。刹那さん、今日休むらしいわ……」

「あ、おはようございます……アスナさん。……あの、調子悪いんですか?」

 部屋のドアが開く音がして、暗い表情のアスナさんが入ってきた。
 アスナさんは辛そうな表情だったけど、僕の顔を見て心配そうな顔へと変わる。
 凄い勢いで僕の部屋まで上がってきたアスナさんに、顔を近づけられておでこをくっ付けられた。

「あ、あああの……アスナさん?!」

「黙って! ……アンタ、ちょっと熱あるんじゃない? もし辛いんだったら、今日は休んどく?」

「あ……いえ、実は昨夜魔法を使い過ぎちゃって……。でも、もう少し休めば大丈夫ですから、心配しないでください」

 アスナさんはしばらく険しい顔をして僕の顔を見ていたけれど、やがて一つため息をついて僕から離れた。
 何だか今日のアスナさんは元気が無い。
 僕よりもアスナさんを休ませた方がいい気がしたけど、アスナさんの瞳には決意のようなものがあって、声をかけるのが躊躇われた。
 アスナさんが僕の部屋から下りて行ってからふと僕の机の上に目をやると、花瓶に飾られた花に気付く。


「……よし。ラス・テル マ・スキル マギステル 花の香りよ、僕の仲間に元気を、活力を、健やかな風を。活力全快」


 花を媒介にして、気分をリフレッシュさせる魔法を唱える。
 ……これで、少しでもアスナさんの気分が楽になってくれればいいんだけど……。

「……ネギ。アンタ、昨晩魔法使い過ぎちゃったんでしょ? ……だったら、ちゃんと休んでなさい」

「うひゃいいっっ?! す、すみません……」

 ロフトの上にある僕の部屋から下りたはずのアスナさんが、突然顔を出して僕をジト目で睨んできたのだ。
 いきなりだったので、びっくりしてすぐに布団の中に潜り込む。
 でも僕が魔法を使い過ぎたことを心配してくれたらしく、少し怒っていたけれど、その言葉からは優しさが感じられた。

「……ありがと、ネギ」


 目を閉じて再び眠りに就く直前、アスナさんの優しい声が聞こえた気がした――――





□今日の遠野家■


「ちょっと、琥珀! あなたいつまで――――ヒッ?!!」

 遠野家地下王国にある、琥珀の研究室。
 いつまで経っても来ない自分の使用人に苛立ちを覚えた秋葉は、その研究室に足を踏み入れ……そして絶句した。
 月姫においてサブヒロイン的な立場にありながら、人気投票では自分に下克上までして二位を取った彼女にこんな無様な死に様が許される訳が――――

「きゅ、きゅきゅ救急車……っ!! こっ、琥珀っ! そんな無様な死に様を晒してはダメよ! あっちのキャラに飲み込まれるわ?!」

 テンパった秋葉は、何気にメタなことを叫びつつ、酷い有様の琥珀を背負って屋敷の居間へと急ぐ。
 しかし。ああ、しかし。
 既に出番が少ない時点で、ネギまの女性キャラ達に敗北を喫していることは明確だった。

「し……死んでません〜……。こ、こうなったら……取り出したるは秘密のお薬〜…………げふぁっ?!!」

「こっ、琥珀ーっっっ!! 逆にヤバイ方向にキマってるわ?!」

 翡翠の致死性料理と琥珀のクスリが、琥珀の体内で化学反応を起こし、更なる惨状を引き起こす。


 遠野家の朝の惨劇は止まることを知らない――――――――


前へ 戻る 次へ