Act3-4


【愛衣】


「あ……おはようございます、お姉様」

「ええ、おはよう、愛衣。今日も集会があるらしいから、学園長室へ行くわよ」

 寮から学園へ向かう途中で、お姉様と合流する。
 やはり今日も集会があるらしく、お姉様と一緒に学園長室へと向かった。
 結構早く学園に到着して学園長室の中に入ると、既に熟練の魔法先生達が厳しい表情を浮かべて立っていた。
 部屋を覆うような物々しい雰囲気に、今更ながらに大事件なのだと再確認してしまい、私は何だか緊張してきた。

「……愛衣、何を緊張しているの?」

「い、いえ……私、凄い大事件に関わってるんだなーって……」

「今更何を言ってるの……。まったく、もう少し魔法使いとしての自覚を……」

 学園長室内に高畑先生の姿は見えないが、恐らく昨日と同じように学園の魔法使い達を集めているのだろう。
 ……そういえば、昨夜の大きな白いリボンをした女の子……確かレンという名の少女は、ここにいる皆が見たのだろうか?
 姿も知らずに闇雲に捜したとしても、その成果に期待することは出来ない。


「聞いてるの、愛衣ッッッ!!!」


「はひぃぃぃっっっ?!! ごっ、ごめんなさいごめんなさい聞いてませんでしたーっ!!」

 今回の事件は気になることが多いので、思考に没頭し過ぎてしまったらしい。
 考え始めるとその事のみに集中してしまうので、お姉様の話が耳に入ってこなかったようだ。


 その後、私はしばらく学園長室でお姉様の説教を聞くハメになったのでした……。




〜朧月〜




【志貴】


「……ん……起きてたのか、志貴」

「……おはよう、シキ」

 性犯罪者疑惑が消えてホッとしていると、エヴァちゃんとココネちゃんが起きた。
 二人ともまだ寝惚け眼だったが、しがみ付いていた俺の腰から離れると、髪の毛を触って寝癖が無いか確かめている。
 そしてココネちゃんはじっと俺の顔を見つめた後、ペコリと頭を下げてきた。

「ああ、昨日のことは当然のことをしたまでだから、気にしないで。それと……落とした七つ夜を届けてくれたんだって? ありがとう、ココネちゃん」

 感謝の気持ちにココネちゃんの頭を撫でてあげると、嬉しそうに小さく微笑んでいた。
 ふと、すぐ隣で不機嫌そうな顔をしているエヴァちゃんに気付き、彼女の頭も撫でてあげる。
 唯我独尊なお嬢様は、頭を撫でられるのがお好きなのか、満足顔だ。
 しかし、彼女ら二人で両手が塞がっているというのに、更に下からも物欲しそうな視線が来ていることに気付く。

「……レンはまた後で、な?」

「あ、ああ……そうだ。お前にやる物があったんだ。下に降りろ」

 二人とも堪能したようなので撫でるのを止めると、エヴァちゃんが何かを思い出したように階下へと下りていく。
 俺も用意してくれた服に着替えてからその後についていくと、先に下りていた茶々丸さんから、鉄で出来た篭手のような物を手渡された。
 試しに左腕に着けてみるが、腕の内側にレールのようなものがあって、その用途がわからずに首を傾げる。

「……あと、だな。その……これもやる」

「え……これって、昨日の……。……俺にくれるの?」

 そっぽを向いたままのエヴァちゃんが、昨日のクリスナイフを目の前に突き出してきた。
 しばらくして、ようやく俺にプレゼントしてくれたのだと気付き、戸惑いつつも受け取る。
 ふと左腕につけた篭手のレールが目に入り、そのクリスナイフを鞘ごと嵌め込むと、見事に納まってくれた。
 しかし、納まったのはいいが、クリスナイフの鍔に引っ掛かりができて簡単には取れなくなってしまっている。
 クリスナイフの取り出し方がわからずに戸惑っていると、それまで黙って見ていたココネちゃんが篭手に付いていた宝石に手を当てて何か念じ始めた。
 すると――――

「ぉわっ?! ……く、クリスナイフだけが飛び出した…」

「……この宝石に、『取り出したい』って念じれば取り出せる」

 突然飛び出したクリスナイフに驚いていると、ココネちゃんは小さく微笑みながら、篭手に付いている宝石を指差していた。
 クリスナイフを鞘に納めて試しに念じてみると、鍔を押さえ込んでいた引っ掛かりが消え、レールが稼動してクリスナイフが飛び出す。
 これは、使い様によってはかなり戦いを有利に出来る。
 お礼にココネちゃんの頭を撫でてあげようと手を伸ばしかけたその時――――俺の背後から物凄い殺気が迸った。

「は、はは……エヴァちゃんもココネちゃんも、ありがとう」

「ふんっ……。ところで、ココネから聞いたが……昨夜ワラキアを倒したそうだな?」

「え……あ、ああ……まあね」

 俺の返答を聞いてニンマリと何かを企んでいるかのような笑みを浮かべたエヴァちゃんは、ココネちゃんを帰らせてから俺を地下室に招き入れた。
 地下室の奥の部屋に行くと、そこにはボトルシップのようなものが台座の上に鎮座していた。
 昔理科の時間に使った丸底フラスコの巨大版みたいな物の中に、塔が立っていて下の方には砂浜や海のようなものもある。

「あ、あの……マスター。本日の授業は……」

「なに、少し遅れても構わんだろう。そう連絡しておけ、茶々丸」

 よくわからないが、茶々丸さんは地下室から上がって学園の方に電話をしに行くらしい。
 数分ほどして茶々丸さんが戻ってくると、エヴァちゃんは俺の手を引いてボトルシップらしきモノに近づいていく。
 そして何かカチリ、という音がした直後――――


――――俺はエヴァちゃん達と共に、ボトルの中の塔の頂上に立っていたのだった……。





□今日の裏話■


 志貴がココネの頭を撫でているのを見て、私は無性に腹が立った。
 睨んでやると、志貴は私の視線に気付いたのか、苦笑しながら私の頭を撫でる。
 頭を撫でる志貴の手は温かく、気持ちが良かった。
 まるで、麻帆良武道会でアイツに頭を撫でてもらった時のように――――涙が零れ出しそうになる。

「あ、ああ……そうだ。お前にやる物があったんだ。下に降りろ」

 それを見られるのが何となく嫌で、慌てて志貴から顔を背けた。
 言ってから昨日買ったクリスナイフと、それに合わせて発掘してきた篭手のことを思い出し、急いで階下に下りる。
 洗面台へ急ぎ、水で濡らしたタオルで自分の顔を拭いて、気持ちを無理矢理落ち着かせた。

「――――そんな訳、無いだろ。……志貴は……ちゃんと生きてるじゃないか」

 自分を落ち着かせるために、口に出してさっき自分の考えたことを否定する。
 志貴とアイツは、似ても似つかない。
 けれど…何もかも、あの時のアイツの手に似て――――志貴が今にも私の目の前から消えてしまいそうだった。


 鏡を見て、再びタオルで顔を拭う。
 ああ……何て無様だ。
 『闇の福音』や『不死の魔法使い』と呼ばれ恐れられた私が、あんな平凡な男に頭を撫でられただけで泣かされるなんて。
 無性に腹が立ったので――――私は、志貴にこの苛立ちをぶつけることにした。


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