Act3-24


【エヴァ】


 陽が暗い色をした雲に遮られ雨が降り出しそうな空となった頃に目を覚まし、大きな欠伸を一つしてから立ち上がる。
 昼間寝て夜に活動するのが吸血鬼の基本なのだが、ナギのかけた登校地獄の呪いのせいで生活まで変えなければならなくなった。
 ええい、思い出すだけでも忌々しい……!

「フン……まだ眠いが、そろそろ帰るか……。行くぞ、茶々丸」

「ハイ、マスター」

 屋上から茶々丸の腕に乗って、そのまま自宅へと向かう。
 その途中、昨夜『混沌』と戦った寮前の道が視界に入ってきた。
 魔力を封じられた状態でアレと戦うのは難しい。
 だからと言って、他の奴らに任せたところでアレに勝てるとも思えない。

――――いや……一人、いるな。


「マスター、着きましたが……」

「ん? ああ……わかった」

 鍵を開けて中に入ると、志貴の姿は無く、代わりにテーブルの上にチャチャゼロが置かれていた。
 私が帰ってきたことに気付いたのか、顔を少し動かしてこちらに視線を向けてくる。

『ヨウ、ゴ主人。志貴ナラ超包子ニ行ッタゼ』

「ああ……昼でも食べに行ったんだろう? 待っていても――――戻ってきそうに無いな。……よし、後で捜しに行くぞ、茶々丸」

『ケケケ、志貴ノヤツ、財布忘レテイッタカラナ。店ノ手伝イデモ ヤラサレテルンジャネーカ?』

 チャチャゼロの言うとおり、志貴の財布……というよりがま口がテーブルの上に置かれたままになっていた。
 財布を忘れたことに気づいた時の、志貴の困った顔が容易に想像できる。
 そこから志貴がどんな騒ぎを起こすのか……それを楽しみにしている自分がいることに気付く。


 さあ――――今日はどんな騒ぎを起こしてくれるんだ、志貴?




〜朧月〜




【アスナ】


 学園を出て商店街に向かった私達は、スーパーで夕食の食材を籠に入れていく。
 いつもこのかが料理を作ってくれているので、私は籠を持ってこのかの後について行くのみ。
 前を歩くこのかの呟きを聞く限り、昨日食べたものや今日の朝昼で食べたものを思い出しながら、今日の夕食に何を作るか考えているようだ。

「なあなあ、アスナー。今日、何か食べたいものある?」

「え? んー……このかに任せる。今日は特別に何かを食べたい、って気分じゃないから」

 そう答えると、このかは難しそうな顔をしながら野菜売り場の前で悩み始めた。
 その間、楓ちゃんは色々と手に取ってみて、少し悩んだ後に自分の持つ籠に放り込んでいく。
 しばらく悩み続けたこのかは、ようやく夕食の献立が決まったのか、ポイポイと私の持った籠に食材を入れ始めた。
 結構な量を買い込み、結局ビニール袋二つを両手に引っさげて帰ることになってしまったのだった。



 寮への道を歩いている最中、不穏な気配を感じ取り足を止める。
 こちらに勘付かれたとわかったのか、曲がり角からその気配の主が飛び出してきた。
 咄嗟にこのかを背中に庇うと、荷物を地面に置いて懐からカードを取り出し、ハリセンを呼び出す。

「このか、私達がこいつら引き受けるから、隙を見て寮に向かって逃げて!」

「う……うん! わかった!」

 楓ちゃんに視線を向けると、楓ちゃんは既に苦無を持っていつでも戦える状態だった。
 改めて曲がり角から出てきたモノに視線をやると、それは修学旅行で行った京都での事件で、あのバカ猿女が召喚していた大きな猿と熊の着ぐるみみたいな妖怪だった。

「ってことは……一昨日のあのバカ猿女、本物だったってことね! たぁーっ!!」

『ウキー!』

「性懲りも無くまたこのかを攫うつもりなんだろうけど、そうはいかないんだから……って……きゃあぁぁぁ!?」

 大きな猿の方は簡単に倒したものの、小さな小猿達が引っ付いてきて、私の服を脱がそうとしてくる。
 素早く熊の方を倒して、小猿達に手間取っている私を助けに来てくれた楓ちゃんの目の前に、白煙と共に何かが姿を現した。
 白煙が晴れて姿を現したのは――――


『ゲコ』


「か……蛙……? あ……か、楓ちゃんっ?!」

「ご……ござ〜〜〜〜〜……」

 姿を現した巨大なガマ蛙を間近で見た楓ちゃんは、硬直した後に目を回して気絶してしまった。
 忘れてた……そういえば、楓ちゃんって蛙が苦手なんだっけ……。
 とにかく纏わり付く小猿達と巨大な蛙をハリセンで叩き消して、寮に向かって走っていったこのかの後を追う。
 楓ちゃんは直に気が付くと思ったので、道路の端に寝かせておいた。


「ひゃああー?!」


「このか?! しまった、待ち伏せされてた!?」

 もうじき寮が見えるという所で、このかの叫び声が響き渡る。
 声のした場所へ駆けつけると、巨大な猿と熊の着ぐるみがこのかの前に立ちはだかっていた。
 間に合いそうも無かったが、とにかくハリセンを構えて走り出そうとしたその時――――


「――――そこまでにしておけよ。そこから先は、後戻りの無い『死』への一方通行になる」


 いつの間に現れたのか、このかと巨大な着ぐるみ達との間に、一昨日の夜に見た黒縁眼鏡をした方の志貴さんが立っていた。





□今日のNG■


「ひゃああー?!」


「このか?! しまった、待ち伏せされてた!?」

 寮の方から、このかの悲鳴が聞こえた。
 急いで寮へ向かうと、そこには――――


「わ〜、この前の猫さんがいっぱいや〜」


「――――は?」

 そこにいたのは、

「よ、久しいな天然少女。この事態には正直、自分も驚いている。カッとなってやった、後悔は以下略だにゃ」

 何かネコミミらしきものを着けた、ブサイクなぬいぐるみだった。

「うむ、某赤い帽子のマリ男も真っ青な無限増殖。恐るべきは階段と亀の甲羅の組み合わせ、だぜ?」

 しかも、その数は半端ではない。
 寮の前から向こうまで、見渡す限りそのブサイクなぬいぐるみで溢れかえっているのだ。
 ……ある意味、怖い光景かもしれない。

「こんなにおるんやったら、一匹くらい貰ってもええよね〜」

「にゅふふ……注意すべきは一つのみ! ネタを与えないことにゃ!!」



 罠を張った張本人である千草は――――

「な、何でや?! 猿鬼と熊鬼が出るはずが、あの変なぬいぐるみが触ったら、呪符が消えて変なぬいぐるみの方が大量に――――?!」

 突然の事態に、混乱する千草。
 そこへ、後ろから突付かれる感触。
 嫌な予感を感じつつも、ゆっくりと振り向くと――――

「よ。眼鏡年増って聞くと、問答無用で攻撃したくなるア・チ・キ。つー訳で……ビィィィーーーーーーーーーーム!!!」


「な、何でやーーーーーーーーーー?!!」


 猫アルクの目が輝いたと思った瞬間、千草は遠い空を舞っていた――――


「ああん、超至近距離からの真祖びーむ……カ・イ・カ・ン。……むむ! 『猫とびーむ』ってなーんか、良くね?」


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