銃弾の音。

 大勢の叫び声。

 冷たい骸。

 血のにおい。



 まだ、だいじょうぶ。

 まだ、戦える……





Another Name For Life

第0話  絶望の中を生きる者






 もう3日くらいだろうか。
 時間の感覚すらなくなっている。



 私は今、戦場の真ん中にいる。



 表向きは傭兵という名目で雇われたことになっているが、実際は違う。

 私の持つ『力』を利用するために、捕獲されて、兵器として戦場に送り出されたのだ。



 ここは、かつて『日本』と呼ばれた国の『東京』と呼ばれていた都市。
 50年以上前、某国が放った兵器によって破壊された。
 それはかつて同じ国のある都市を襲ったものの40倍の威力はあると言われていた物であった。
 にも拘らず、どういうわけか爆心地以外の被害は至って軽微なものだった。

 爆風が過ぎ去った後に、小さな島国全体を揺るがす大地震さえ起こらなければ、それだけで終わっていたはずなのに――と後に人々は言う。

 地震は地面を割り、人間の造ったものをことごとく破壊し、生き物の命を奪っていった。
 そしてその直後、突如現れた異形の者たちにより、残りわずかになっていた人類は、さらにその数を減らされてしまったのだ。

 今や人間は、ごく一握りの権力者や異形の者たちに支配され、管理されながら荒廃した世界で細々と生きるのみだ。
 かつて「主要都市」と呼ばれていた世界中のあらゆる都市も、この国のように異形の者たちにより壊滅してしまったらしい。



 そして今私が戦っているのは、『雇い主』といわゆる『縄張り争い』をしている異形の者たちの軍団だ。

 かつて、この地で戦っていた軍隊の亡霊らしい。
 古い型の銃で、軍人ならではの統率の取れた戦法をとってくる。



――厄介だな――



 軽く舌打ちして、銃を構え、物陰から飛び出す。

 そのまま銃を敵に向け、撃ちながら駆け抜けて、また他の物陰へ。

 もう何度も、これの繰り返しだった。

 もうそろそろ、敵の指令のところへ到達してもいい頃だ。
 もうすぐ、帰れる。



――そしたら、身体洗いたいな――



 場違いなことがふと頭に浮かび、思わず笑みがこぼれる。





 油断、していたのかもしれない。

 さもなくば、3日間も張り詰めっぱなしだった神経が、どこかで切れてしまったのかもしれない。



 何かを裂く、鋭い音がした。



 右脇腹が熱くなる。



「あ……!?」

 見ると、すぐ後ろにサーベルを構えた兵士がいた。
 剣には紅いモノがついている。



 それが自分の血だと理解するのに、一瞬時間がかかった。



 反射的に銃で亡霊兵士の頭を撃ち抜く。
 私の銃は特別なもので、普通の銃弾の変わりにエネルギーの塊を撃ち込む物だ。
 それ故、普通の弾丸の銃とは違い、亡霊たちにも効きやすい。
 私に傷を負わせた兵士はその場に崩れ落ち、こんどこそ周りに敵はいなくなった。



「……ッ……!!」



 脇腹の痛みに顔を顰める。
 どんどん気が遠くなっていくのが自分でもわかった。



――死ぬ、のかな。やっぱり……――



 どうせ生まれ変わるなら。

 もっと平和な世界で。

 友達と笑いあって。

 楽しく生きたいな…………



 そこで、私は意識を手放した。



 ――だから、目の前に広がる『歪み』に、気づくことはなかった。

UP: 03.09.12
更新: 05.01.24

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